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第一の町

これから行く町は地獄人の影響が比較的少ないらしい、月に一度城からの使いの者が現れて町の人たちはそいつに貢ぎ物を出さなければならない。作物や金品、中には城の中で奴隷として働かされることもある。人々も最初のうちは戦いを試みたが魔法の使えない一般人ではどうする事も出来なかった。そして逆らったりすると痛い目にあう。今日はその使いの者が来る日だった。



「私も町の人たちを助けようとしたけど逆にその人たちに止められたわ」



それを聞いたリンは不思議に思ったのかシュレイナに質問した。



「どうして止められたの?魔法が使えるシュレイナなら対抗できるんじゃ……」



確かにリンの意見はもっともだ。しかしそれには少し問題がある。



「下手に逆らえば今まで影響が少なかった町は目をつけられ、更に支配力が増す。一時は防衛できても時間の問題だ。それに私は今のシュレイナにはそこまで対抗できる力は持っていないと思っている…違うか?」



私の言葉にシュレイナは歩くのを止め私に向き直った。私も真っ直ぐにシュレイナの目を見る。悟さんは何も言わなかったがリンはオドオドとしていた。そしてシュレイナの方が先に表情を緩めた。笑うというよりは自虐的になっていた。



「そうね、今の私じゃあ地獄人はおろか、牙獣族や角獣族の集団でも勝てそうに無いかも」



そのままシュレイナは振り返りまた歩き始めた。その後はみな何も喋らずに一つ目の町に辿り着いた。やはり町は閑散としていて……いや向こうの方に人だかりが出来ている。そして数人の男の声が聞えてきた。



「何で俺がこんなところまで来てやらなきゃいけねぇんだよったくメンドくせぇ」



「ぶつくさ言ってねぇで始めるぞ、おらお前らさっさと持って来ねぇか!」



そして次々に町の人が男にに自分達が持ってきた貢ぎ物を差し出す。そして中には貢ぎ物の質が悪く暴力を振るわれる者がいた。私が一瞬飛び出しそうになったがシュレイナに止められた。



「作戦を忘れたの?」



そうだここで飛び出しても周囲には一般人がいる。ならばどうやって助けるのか。作戦はこうだ、貢ぎ物を出し終えた人たちは足早に自分の家へ戻る、全員が出し終え男達が帰っていくところを襲撃するというわけだ。油断している所を近距離から叩く。単純だがこれなら町の人たちが人質にとられるという心配も無い。ただ問題なのが先ほどのように満足に貢ぎ物を出せない人も居る、そんな人たちには制裁が下されるのだ。その光景を私達はただ見てやり過ごさなければならない。これは結構きついものだ。幸いな事に男達も殺しはしないと分かっている。シュレイナが町の人に聞いたところこの町の管轄である男達のリーダーは殺しを極端に嫌うらしい。だから男達も一線は何とか守っている。だがそう上手くいくものでもなかった。



「何だってんだよ今日は、お前ら俺達をナメてんのか!?」



制裁を受けた人の他にも満足に作物が採れなかった者や価値の少ない品を出すものが増えてきた。さすがに町の人たちももう出せるものが無くなってきたのだ。そして今回のように男達が納得しない事ばかり続くと……。



「お前らがそういう態度なら、また誰かに犠牲になってもらうしかないようだな」



城で働かされる奴隷が町の人たちの中から選ばれるという訳だ。男はあたりを見回す、貢ぎ物を出せなかった人ではなく他の誰かを連れて行く気なのだろう、町の人たちは徐々に後ずさりをしていく。そして男は一人の少年に目をつけた。



「よし、お前が来い」



腕をつかまれた少年は必死に抵抗する。



「いっ嫌だ!行きたくない!誰かっ助けて!」



少年が周囲に助けを求めても周りの人たちは目を伏せる、あの少年に変わって自分が連れて行かれるなんて考えたくも無いのだろう。助けたくても助けられない。こういう状況はどこの世界でも一緒だ。みんな自分が大切だ、かわいいんだ、ましてや他の人の責任を自分が被るなんてそんなお人好しはいないだろう。私は思ったことをつい口に出していた。



「なぁリン、やはりこの世界でも人間は変わらないのだな、あの少年は必死で助けを求めているのにさっきから周囲の人はおろか親だって出てこない………まぁ人の価値観というものは分からんが気に入らないな。リンはどう思う?」



隣を見てもリンの姿は無くシュレイナの唖然な顔が前方を見ていた、同じ方向を見るとそこには男の手を振り払い少年を助けるリンの姿があった。



「放してあげてください、嫌がってるじゃないですか」



「……はぁっ!?」



男は突然現れた目の前の女の子にかなり驚いていた、それは周りの人も助けられた少年も同じだった。そして驚いているのも束の間、男は吹っ飛んだ。私の見る限りではリンは少年から手を放すと同時に男のこめかみに強烈な回し蹴りをお見舞いしていた。吹っ飛んだ男はそこからピクリとも動かない。もう一人の男は声を上げた。



「何だってんだよお前は!?」



「私ですか?……そうですね、しいて言うなら通りすがりの『JK』です」



「じぇーけー?」



そんな女子高生ががいてたまるか、大体JKって言葉は通じないだろ。



「訳わかんねぇ言ってんじゃねぇ!」



男が殴りかかろうとするとリンはその手を掴み足を引っ掛けいとも簡単に男を転ばした。そして男が顔を上げると膝蹴りを顔面ぎりぎりですん止めした。男はそのまま動かない、否、動けないのだ。先ほどもう一人の男が吹っ飛んだのを目の前で見せ付けられ次は自分にそれが向けられている。抵抗できないんのは当然の事。



「ここであなたをあそこで倒れている人のようにするのは簡単ですが、それをしてしまうと処理が面倒ですから…さっさともう一人を連れて帰ってくださいね」



決して怒気入った声ではなかったが、目の前の男に対してはそれだけで十分だった。男は無言で頷くとその場を逃げるように離れて倒れている男を担いで町から出て行った。男達が見えなくなるとリンは助けた少年の所へ行き目線を合わせるためにしゃがんで頭を撫でた。



「大丈夫だった?」



先ほど男に向けた声を同じトーンでも何故か安心感のある声に少年も笑顔になった。



「うん!ありがとう、お姉さん!」



「君、お母さんはいるの?」



「うん、いるよ」



「じゃあ、お母さんの所へ行きなさい」



「うん、分かった」



少年はそこから立ち去り一人の女性の所へ駆けていった。リンは立ち上がり周りを見たが、その周囲の視線はとてもいいものではなかった。リンはその視線を全て受け止めて、言葉を放った。



「あんた達それでも人間か!!」



ここでリンの悪いところが出てしまったか、町の人たちもそしてシュレイナも面食らって唖然とした顔がほとんどだった。

ほぼ半年ぶりの更新です。言い訳にしかなりませんが仕事が忙しくなれない環境でなかなか暇が無かったです。


少しずつですがこれから更新していこうと思います。温かい目で見てくれてたら幸いです。

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