再開
しばらく歩くと町が見えてきた。私が一回目にファリッサに来た時に通った町だ。やはり閑散としていて、町の人は何かに怯えているようだった。
「しかし瀬川、何でお前はあんなところで追われていたんだ?」
私と悟さんは同じ場所に付いたというのに、瀬川を発見したのは私達から100メートルほど離れた所だった。
「はぃ、ルカ様に押されて鏡に飛び込んでいった私は何がなんだか分からずにじたばたしていました。そしてようやく光を抜けて地面に足が着いたと思ったら、目の前にはあの化け物がいて……必死で逃げました」
「おそらく、瀬川ちゃんが暴れた所為で本来、降り立つ場所から少し照準がずれちゃったんだね」
なるほど、私は何も動かなかったから悟さんと同じ場所に降り立ったんだ。
そう考えていると、町を抜け森に差し掛かった。そういえばシュレイナとの待ち合わせ場所を決めてなかったな。町までは何とか辿り着いたけど、ここから先は私にも分からない。
「どうしたんだ?ルカ」
「シュレイナとの待ち合わせ場所を決めてなくて、ここまでの道のりは知ってたんですけど、この森の先が分かりません」
「ん~それは困ったな、何とか手がかりは……」
『ルカ、確かに早くとは言ったけど、二日で来るなんて早すぎるわよ。私だっていろいろ準備しないといけないのに』
声が聞え、三人でそちらの方を見ると森の奥からシュレイナが歩いてきた。
「シュレイナ、私達が来たこと、分かってたの?」
「えぇ、魔力の感じですぐに分かったわ」
そう言うとシュレイナは悟さんの方に向き直った。
「外見は…少し変わったかな?けど中身はちっとも変わってないようね。悟」
「シュレイナも、少し大人っぽくなったね。魔力は……」
二人が握手を交した後、何故か悟さんの表情が曇った。シュレイナの魔力?私にはまだ魔力がなんなのかも知らないから二人のやり取りが分からない。そしてシュレイナの方から手を離した。
「気にしないで、それより……その子が例によってついて来ちゃった子なの?」
シュレイナは瀬川の様子を見た。瀬川は慌てるように自己紹介をする。
「あ、はい!ルカ様の右腕としてこの度はついて来ました。瀬川と言います。よろしく、お願いしますっ!」
「そう、まぁこんなところで話もなんだから、三人ともついて来て」
私達は再び歩き出し、暫くするとシュレイナのあの家へ到着した。シュレイナが呪文を唱えて現れたログハウスの中へ入っていく。私と悟さんは驚いていなかった、私は一度見たし、悟さんもあれほどの力を持っているんだからこれくらい当然だろう。驚いているのは瀬川だけだった。中へ入ると悟さんが部屋の中を見回し懐かしんでいる様子だった。
「この感じ、初めてここに来て魔法を使った時を思い出すなぁ」
「懐かしんでる所悪いけど、早速話を始めるわ」
机に集まり、私が聞いたのと同じ話をシュレイナが始める。
「………って事でこれが今のファリッサの現状よ。二人とも理解出来た?」
瀬川と悟さんを見る私、真剣な表情の悟さん、すでに許容範囲を超え煙が出そうな瀬川。その思いを察したのか、まぁしょうがないかと言う顔のシュレイナ。私が瀬川の方をポンッと叩くと瀬川は我に返った。
「あ、ルカ様っ。すいません、話の内容が突然すぎて。でも私達はここまで悟さんを連れてきて、後は何をすれば良いんでしょうか。と言うか、私達に出来る事なんてあるんでしょうか…」
確かに私達には魔法が使えない、この世界にはいるのは場違いだろう。しかし私はそうは思わない。私の聞いた話では悟さんもこの世界に来たばかりの頃は魔法は使えなかった。使えるようになったのは……。
「私達だって魔法は使える。そうですよね?悟さん。私はこの世界で二人の役に立ちたいんです」
私が言い放つと二人はキョトンとしていた。
「ルカ、この世界で戦うって事はどういう事か分かってる?元いた世界の生活を捨ててこの世界で生きていくの。もし運がよければ向こうの世界に帰れるけど、あなたの覚悟を信じていいのね?」
私の決心は着いていた。この世界で生きていく、向こうにはもう手紙も置いて来た。両親や学校のみんなが心配するかも知れないけど、私はこの世界で生きる方を選ぶ。そんな私の表情を読み取ったのかシュレイナは少しだけ笑い瀬川を見た。瀬川の顔も迷いは無かった。
「そう、二人とも決心は堅いみたいね。いいわね?悟」
「僕は構わない、仲間は多い方がいいからね。先ずは二人に魔法が使えるようにしないといけない。シュレイナ、大丈夫?」
ようやく私達も魔法が使えるようになる。一体どんな儀式をするんだろう。悟さんが訊ねるとさっきまで笑っていたシュレイナの顔が急に無表情となり、俯いてしまった。
「ごめん、さっきの言葉は嬉しかったんだけど、今の私には二人に魔法を与える事が出来ないの。今の私じゃ……魔力が足りない」
そんな、シュレイナは一体何を言っているんだ。私達二人には彼女の言っている意味が分からなかった。けど悟さんは、何か知っているようだ。
「やっぱり、その魔力、何があったの?シュレイナ」
シュレイナは何も応えず首を左右に小さく振るだけだった。
「そうか………じゃあ僕が二人に魔法を与えるよ。やり方を教えいてくれる?」
悟さんが、私達に?シュレイナは俯いていた顔を上げた。
「悟、出来るの?」
「やってみないと分からないけど、やらないよりはいいだろ?」
「そうね、じゃあ今から説明するわ。みんなで外へ出ましょ」
何はともあれ、私達に魔法の力が宿る。一体どんな事をするんだろう。私は胸を膨らましながら、ログハウスの外へ出た。