「刺繍なんて侍女にでもできる」と婚約を破棄されましたので、規則どおり退任いたします――公爵家の封印は、本日限りですべて無効です
「シルヴィア。婚約を破棄させてもらう」
わたしは針を止めなかった。途中で止めると、針目が狂う。
レヴィナス公爵家の針の間は北向きで、朝から夕まで光の色が変わらない。だからこの部屋で刺す。藍の布に、銀糸の三本取り。獅子の前脚、その第三指の付け根。ここで返しをひとつ入れるのが、レヴィナス家の紋のきまりだった。
入れた。糸を、ゆっくり引いた。それから顔を上げた。
「……もう一度、おっしゃってくださいますか」
「二度は言わない」
ユリウス・レヴィナス様は戸口に立っていた。部屋には入ってこない。十年、一度も入ってきたことがない。
その半歩うしろに、マリエル・ドゥーセ子爵令嬢がいた。淡い桃色の外出着に、手には焼き菓子の包み。わたしと目が合うと、ぺこりと頭を下げた。悪気のない下げ方だった。
「マリエルと結婚する」ユリウス様は言った。「君には十分してもらった。感謝している」
「感謝、ですか」
「ああ。よく尽くしてくれた」
わたしは膝の上の布を見た。獅子は右の前脚まで出来ている。あと三日で仕上がる封布だ。レヴィナス領の羊毛を王都の商会に五年ぶん卸す、その契約書に縫い留める分。
「封布は、いかがなさいますか」
「なんだって?」
「わたしが辞めれば、この家の封布を刺す者がいなくなります」
ユリウス様は、心底わからないという顔をした。それから、笑った。
「シルヴィア。刺繍だろう。侍女にでもやらせるさ」
マリエル様が、遠慮がちに片手を挙げた。
「あの、わたし、刺繍は得意なんです。子どもの頃から先生に褒められて。だから、その、わたしがやります。お役に立てます」
本当にそのつもりで言っているのが、声でわかった。
「シルヴィア様」マリエル様が小さく言った。「手、痛くないんですか」
わたしは反射で手を引いた。遅かった。
胼胝は三か所にある。糸を挟む右の親指と人差し指、それに布を張る左の中指。硬くて、爪のまわりの色が濁っている。夜会では手袋を外さない。外さないので、社交界ではわたしのことを、手を見せない令嬢と呼ぶらしい。
「みっともないだろう」ユリウス様が言った。「もう、やめていいんだ。君も楽になる」
「わたしを楽にするために、婚約を破棄なさるのですか」
「そう受け取ってくれても構わない」
ユリウス様は少し考える顔をして、思いついたように付け足した。
「なに、針を取り上げるわけじゃない。好きなら続ければいい。慰みごとにするぶんには、誰も文句を言わないだろう」
十二の年から、慰みごとで指の形が変わるものだろうか。
窓の外で、庭師が薔薇の枯れ枝を落としていた。ぱち、ぱち、と乾いた音がした。
「承知いたしました」とわたしは言った。
「わかってくれるか」
「婚約の破棄を、承知いたしました」
「うん。君なら分かってくれると思っていた」
ユリウス様は満足そうに頷いて、行ってしまった。マリエル様が焼き菓子の包みを机の端に置いていった。まだ温かかった。
わたしは針山に針を戻し、糸を切って、獅子を途中で置いた。
その足で、家令のボードワンのところへ行った。
「封布刺しの、退任届をお願いします」
老いた家令は、書き物机から顔を上げ、しばらくわたしを見ていた。
「……若様は、ご存じでございますか」
「侍女にやらせる、と」
ボードワンは目を閉じた。それから、抽斗の奥から罫の入った用紙を出した。使われた形跡のない用紙だった。使う機会が、十年なかったのだ。
この国の公文書に、蝋印は使わない。蝋は割れるし、型は盗まれる。代わりに、家の紋を刺した小さな布——封布を、書類の綴じ目に縫い留める。糸の張り、針目の間、返しの向き。それは真似られない。上手に真似たつもりでも、王立照合院の台帳にある見本と重ねれば、必ずどこかがずれる。
だから封布を刺す者は、一家に一人だけ、名前で登録される。レヴィナス公爵家の登録名は、十年前からわたしだ。エルナード伯爵家三女、シルヴィア。十二の年に、前の当主様——ユリウス様のお父上に呼ばれて、針を渡された。
『上手だからではない』とあの方は言った。『三十日、同じに刺せたのはお前だけだった』
規則第十七条。封布刺しが職を退くとき、現行のすべての封布に返し針を入れる。紋の裏側、目立たない位置に、逆向きの一針。それが入った封布は、その日限りで無効になる。偽の書類が、辞めた人間の手を騙って出回らないようにするための規則だった。
「……本当に、よろしいので」
「規則です」
蔵の棚に、封布を縫い留めた書類が並んでいた。領地の水利、橋の架け替え、羊毛と葡萄酒の契約、王都の屋敷の権利、二年前の叙勲の受領。百三十一枚あった。
わたしは一枚ずつ布を裏返し、逆向きに一針だけ入れて、糸を切った。
夜が更けて、蝋燭を二度替えた。窓が白みはじめたころ、最後の一枚になった。
いちばん奥の、いちばん古い書類。領地の東の橋を架けたときの記録。獅子の刺し目は硬くて、ぎこちなくて、第三指の返しがわずかに大きい。十二の年に、わたしが刺した最初の封布だった。
そこにも、返し針を入れた。
朝の光で見ると、蔵の書類はすべて、ゆうべまでとまったく同じに見えた。
実家に戻ると、父は困った顔をした。怒りはしなかった。三女が公爵家との縁を失ったというのに、父にできるのは困ることだけだった。
「行き先は、あるのか」
「王都へ行きます」
「嫁ぎ先の当てもなく?」
エルナード家の紋は、長兄が継ぐ。次姉は伯爵家へ嫁いで、あちらの紋を刺す立場になった。三女のわたしは、嫁げばその家の紋を刺す。だからわたしは、自分の紋というものを持ったことがない。他人の家の獅子ばかり、十年、刺してきた。
「針は持っていきます」とわたしは言った。
王都の下町、鐘楼通りの裏に、ロザという婆さんの仕立て屋があった。窓に「繕い、直し、仕立て」と書いた板が下がっていて、三つとも字が傾いていた。
「手ぇ見せな」
入って三言目にそう言われた。わたしは手袋を外した。
ロザ婆さんはわたしの右手を取り、親指の腹を自分の親指で押した。それから中指の側面を見て、鼻を鳴らした。
「いい手だ」
わたしは何か言おうとして、言えなかった。手を褒められたのは、生まれて初めてだった。
「泣くんじゃないよ。仕事が濡れる」
「泣いておりません」
「そうかい。裏に部屋がある。飯は自分で炊きな」
仕事は、貴族の家のものとはまるで違った。子どもの膝の抜けた股引、荷運びの外套の肩、産着、喪服の袖丈直し。急ぎのものが多く、丁寧すぎると叱られた。
「あんた、丁寧すぎるんだよ」とロザ婆さんは言った。「これは明日また破れる服だ。明日また破れる服に、十年もつ針目を入れてどうする」
それでもわたしの針目は、揃ってしまう。十年、揃えることだけを身体に教え込んだ手だ。急いでも、疲れていても、同じ幅で入る。
手袋は、しなくてよかった。誰もわたしの手を見なかったし、見ても何とも思わなかった。
十日ほど経った日に、河岸で荷を運ぶ女が、六つになる息子の外套を持ってきた。
「これに、印を入れてほしいんだけどさ」
「印、と申しますと」
「うちの子、外套を三回なくしてんだよ。同じ形のやつが、河岸に何十枚もあるからね。取り違えられてもわかりゃしない」
女はそこで、少し言いにくそうにした。
「貴族の家みたいに、紋ってのがあればいいんだろうけど。うちみたいなのには、そんなもんないから」
わたしは外套を裏返して、襟の内側を見た。何もない布だった。
「お仕事の道具で、ひとつ挙げていただけますか」
「道具? 荷紐だけど」
「結び方は」
女は面食らった顔をしてから、指で宙に形を作った。河岸には河岸の結びがあった。二重に回して、輪をひとつくぐらせる。荷が濡れても解けない結び方だという。
わたしはそれを、襟の裏に刺した。糸は目立たない生成りにして、大きさは親指の爪ほど。誰も気づかないが、母親だけは触ればわかる。
「あんた」女は襟の裏を親指でなぞって、それから何度もなぞった。「これ、うちのだ」
「はい」
「うちのだよ、これ」
女は代金のほかに、干した無花果をひと袋置いていった。ロザ婆さんが横からひとつ取って食べた。
「紋てのはね」と婆さんは言った。「持ってる家が偉いんじゃない。なくすと困るもんに、付いてるんだよ」
その男が来たのは、王都に出て三週目の夕方だった。
上着の右肘が、裂けていた。安い布ではないが、仕立てはひどく地味で、袖口が擦り切れている。役所の人間の服だとわかった。
「これ、直りますか」
「明日の朝には」
「助かる。明日、着なきゃならないので」
男は椅子に座って待った。帰らないのかと思ったが、帰らなかった。灯りの下でわたしが繕うのを、ずっと見ていた。落ち着かないので、わたしは手だけ動かした。
繕い終えて糸を切ったとき、男が言った。
「返しの向きが、全部同じですね」
「……はい」
「三十針以上あって、一つもぶれてない」
わたしは顔を上げた。男は目つきの悪い、痩せた人だった。歳はわたしと変わらないくらいに見えた。
「失礼ですが、レヴィナス公爵家の封布を刺していた方ですか」
指先が冷たくなった。
「なぜ」
「台帳で見た手だから」男は上着を受け取りながら言った。「獅子の第三指の付け根で、必ずひとつ返す。あの返しが少し深いんです。癖なんでしょうね。十年ぶん見ましたが、一度もぶれていない」
「……あなたは」
「王立照合院の、カイ・ロレンツといいます。封布を見る役人です」
わたしは、名乗るべきかどうか迷った。
「シルヴィア・エルナードです」
「知ってます」カイ・ロレンツは言った。「名前は書類で、手は台帳で。……順番でいえば、手のほうが先でした」
彼は代金を置いて、それ以上何も訊かずに帰った。翌朝、繕った上着を着て通りを歩いていくのが窓から見えた。
噂は、下町のほうが早い。
レヴィナス公爵家の書類が、通らないらしい。
最初は羊毛の契約だった。五年ぶんの卸しが、照合院で受理されなかった。次に、領地東の橋の架け替え。石工が集まっていたのに、着工の許可が下りずに解散した。それから、王都の屋敷の権利の更新。叙勲の受領記録の再発行。
封布が違う、というのが理由だった。
「刺し直させればいい話じゃないのかい」とロザ婆さんが客に訊いていた。
刺し直しているのだ、と客は言った。何度も。何度も出して、何度も突き返されている。公爵家の若様が照合院で怒鳴ったという話まで、鐘楼通りまで流れてきていた。
わたしは股引の膝に当て布をしながら、その話を聞いていた。
マリエル様の刺繍は、きっと綺麗だろうと思った。先生に褒められたと言っていた。褒められる刺繍というのは、たいてい、本当に綺麗なのだ。
その晩、わたしは自分の手を灯りにかざして、しばらく見ていた。
いい気味だとは思わなかった。思わない自分を、少し立派だと思いたかったが、そうでもなかった。ただ、東の橋のことが気になっていた。あの橋を渡って、三つの村の子どもが冬に医者へ行く。十二の年に刺した最初の封布は、その橋の記録だった。
わたしが返し針を入れたから止まっている、のではない。規則どおりに辞めたから止まっている。その二つは違うはずだった。違うはずだと、何度か言い聞かせた。
カイ・ロレンツは、それきり十日ほど来なかった。次に来たときも、公爵家の話は一言もしなかった。役人として、しないのだと分かった。彼は袖のほつれを直させて、代金を置いて、帰りぎわに一度だけ振り返った。
「橋の許可は、王家の仮封でも通ります」
それだけ言って、出ていった。
わたしに言ったのではないのだと思う。誰かがそれを思いつくまで、ずっと同じことを言い続けている人の言い方だった。
ユリウス様が店に来たのは、木枯らしの吹きはじめた日だった。
外套の裾が泥で汚れていた。あの人が泥のついた服で人前に出たのを、わたしは初めて見た。
「シルヴィア。帰ってきてくれ」
挨拶より先にそれだった。
「レヴィナス家の書類が、一枚も通らないんだ。領地の橋が止まっている。冬までに架けないと、東の三つの村が春まで孤立する。……君の手が要る」
ロザ婆さんが奥へ引っ込んだ。気を利かせたのではなく、面倒だから消えたのだと思う。
「マリエル様は」
「あれは刺せる。上手いんだ。なのに照合院が意地悪をしている」
「照合院は意地悪をいたしません」
「君なら分かってくれるだろう」
その言葉を、わたしは十年、いろいろな場面で聞いてきた。夜会に出られないときも、指が腫れて匙が持てないときも、婚約を破棄されたときも。
「分かりません」とわたしは言った。
ユリウス様が黙った。
「けれど、規則は申し上げられます。台帳の登録を書き換えるには、二つ要ります。前任者が同席して、返し針が本人の手によるものだと証すこと。それから、新任者が照合院で三十日、毎日同じ紋を刺して、針目の揺れが規定の内側に収まると示すこと」
「三十日も待てるか」
「十年かけて登録した手を、三十日で替えようという話です」
彼は何か言いかけて、やめた。
「……同席してくれるのか」
「いたします」わたしは針を置いた。「ただ、わたしはもうレヴィナス家の者ではありませんので、日当を頂戴します」
照合院の照合室は、天井の高い、灰色の部屋だった。
長机に、マリエル様の三十日ぶんの見本が並べられていた。日付の入った小布が三十枚。白い麻に、レヴィナス家の獅子。
わたしは一枚目を見た。綺麗だった。糸の艶が出ていて、たてがみの流れがやわらかい。子どもの頃に褒められたというのは、嘘ではない。
カイ・ロレンツが、一枚目と三十枚目を重ねて、灯りにかざした。
わたしのいる場所からでも、ずれているのが見えた。第三指の付け根の返しが、一枚目では小さく、三十枚目ではほとんど返っていない。間の日のものは、日によって深かったり浅かったりした。上達している。上手くなっている。だからこそ、揃っていない。
「同一の手とは、認められません」カイ・ロレンツは言った。「規定の揺れの幅を、十七日目、二十二日目、二十九日目で超えています」
「そんな馬鹿な」ユリウス様が身を乗り出した。「見ろ、こっちのほうが上手いじゃないか。前より綺麗だ。誰が見てもそうだろう」
マリエル様が、小さく息を吸った。
「……ユリウス様」
彼女は三十枚を順に見ていった。一枚目から、三十枚目まで。それから顔を上げた。泣いてはいなかった。
「わたし、上手には刺せます。でも、同じには刺せません」
部屋が静かになった。
「毎日刺していると、良くしたくなるんです。ここをもう少し柔らかく、ここをもう少し細く。手が、勝手にそうします。……止め方が、わかりません」
わたしは、この人を少しだけ好きになった。
「わたしのせいで、村が孤立するのは嫌です。だから、正直に申し上げます。わたしには、できません」
「上手であることは、求められておりません」とわたしは言った。「同じであることが、求められています」
ユリウス様が、わたしを見た。
カイ・ロレンツが台帳を開いた。革の背の、分厚い帳面だった。
「レヴィナス公爵家の登録申請は、十年前、先代の当主が出されています」彼は頁を指でなぞった。「申請理由の欄に、こう書いてあります。『三十日、同じに刺せたのはこの者だけであった』。……家格でも、婚約でもありません。手で登録されています」
ユリウス様の顔から、順番に、いろいろなものが抜け落ちていった。
あの人が何を思い出しているのか、わたしにはだいたい想像がついた。手袋のこと。針の間に一度も入ってこなかった十年のこと。みっともないだろう、と言った日のこと。
「シルヴィア」彼は言った。「……すまなかった」
十年で、初めて聞いた言葉だった。
「橋は、どうなさいますか」
「え」
「東の三つの村です。冬までに架けないと、春まで孤立します」
彼は口を開けて、閉じた。それは自分で考えることだ、と思った。わたしはもう、この人の言葉の先回りをしない。
カイ・ロレンツが、受領証をわたしの前に置いた。
「前任者の同席に対する日当です。規定で、銀貨三枚」
わたしは署名した。ユリウス様が何か言いかけたのが、視界の端に見えた。端金だ、とでも言おうとしたのだと思う。言わなかった。
銀貨三枚は、下町の仕立て屋の三日分の稼ぎだ。わたしはそれを財布に入れて、照合院を出た。
冬のはじめに、東の橋が架かったと聞いた。レヴィナス公爵家は、王家の仮封を借りて着工したそうだ。仮封は年に三度しか借りられない。三度で足りるように、あの人が領地の何を諦めたのかは知らない。
マリエル様からは、一度だけ手紙が来た。婚約は、しないことにしたと書いてあった。字は、丁寧で、揺れていた。
カイ・ロレンツが、また上着を持ってきた。今度は肘ではなく、袖口だった。
「もう買い替えられたらいかがですか」
「同じ仕立ての上着が、もう売っていないので」
彼は椅子に座り、それから、懐から白い小布を出して机に置いた。麻の、封布の寸法に裁った布だった。
「一つ、頼みがあります」
「照合院のお仕事ですか」
「いえ。これに、あなたの紋を刺してほしい」
わたしは布を見た。それから彼を見た。
「わたしに、紋はありません。三女ですので」
「家の紋の話をしていません」カイ・ロレンツは言った。「台帳には、家の頁とは別に、刺し手の頁があります。家に属さない、その手だけの紋を登録する頁です。……ご存じなかったですか」
「……存じませんでした」
「使う人が、ほとんどいないので」
彼は少し言いよどんでから、続けた。
「レヴィナスの獅子が消えたとき、台帳から、あの手が消えました。私は十年ぶんあの針目を見てきたので、正直、困りました。あれは、消えていい手ではない」
窓の外で、鐘が鳴った。日が落ちる。
「困ったから、来たのですか」
「はじめは、そうです」彼は目を逸らさなかった。「今は違います」
わたしは布を引き寄せた。
何を刺すか、考えるまでもなかった。獅子ではない。薔薇でも、鳥でもない。
一本の針と、その先に、逆向きの一針。返し針だ。辞めるときに入れる、終わりの印。それを、はじまりの紋にする。
糸を三本取って、布を張った。手袋はしていなかった。ロザ婆さんの店では誰も気にしないし、この人は最初から、わたしの手のほうを先に知っていた。
針を入れる。糸を引く。返す。
十年、他人の家の獅子ばかり刺してきた手が、はじめて自分の名前を刺していた。
誰にでもできる仕事だと、あの人は言った。
そのとおりだ。誰にでもできる。
——十年、同じ手で、一度もぶらさずに刺し続けられるなら。




