学校の怪異
生徒が皆下校した後の学校。辺りもすっかり暗くなった頃、職員室で何か作業をしていたはずの俺は、気が付くと学校を出て裏口の鍵を閉めようとしていた。校舎の中にはまだ仕事をしているはずの同僚たちがいるはずだ。
これで何回目だろう。無意識のこの行動や直前まで何をしていたのかを思い出せないことにももうすっかり慣れてしまって、驚きも、恐怖も薄れてしまっている。
とはいえ、いつもと違いこのまま帰るわけにはいかない、なのでとりあえず忘れてしまった直前までの記憶を取り戻すため、鍵をかけようとする手を止める。
少しずつ近づいてきた冬の影響で肌寒く感じる廊下を歩きながら考えるのは消えてしまった記憶のこと、明日の授業のこと、そして、今日何か変わるのかもしれないこの学校で起きている異常のこと。
俺たちがその存在を認識したのは一ヶ月前、だがそれの兆候は二学期が始まってすぐに出ていたのかもしれない。
今年も例年通り、数人の生徒が夏休みの宿題を忘れて来た。職員会議では「今回も夏休み明けでまだ気が緩んでいるだけだ、すぐに元に戻るだろう」とそう結論づけられたがその緩みが締まることはなかった。
日数が進むにつれて忘れ物する生徒は増え続け、さらにはあろうことか教職員の中にまでも波及していった。この異変に対し、俺たちは対象者へ聞き取り調査を実施したが、ほぼ全員がさっきの俺のように当時の記憶が曖昧だと言い情報を得ることはできず、原因を突き止めることはできなかった。
その間にも状況は悪化していき、遂には学校を無断欠勤・無断早退をする者も出て来るようになってしまった。
「で、私たちが呼ばれたってわけ」
そう言いながら住宅街を抜けた先にある小学校へ続く坂道を白い装束をモチーフにしたような服を着た女性が、その後ろにこちらは対照的にラフな動きやすい格好をした大学生ぐらい青年が二人を連れて坂道を上る
「ほう、つまり俺らは今から何をすんだ?」
二人の青年のうち、ツーブロックに上下ジャージ、大きくて重そうな荷物を背負っている方がそう言うと
「今回の依頼はその集団異常行動に霊的要因が関わっているのかの調査とそうであった場合の対象の除霊です。まずは学校にそれらしき霊遺物や霊魂があるのかを調査をします。」
もう一人の青年、坊主頭に同じジャージを着たどこかお坊さんの雰囲気を醸し出すほうがそう答える
それから彼は坂道を登り切り、校門の前で立ち止まっていた女性に駆け寄る
「どうかしましたか?」
青年がそう聞くと
「ん?いやね、さっき学校の中で待ってもらってる担当の人に電話かけてこの門を開けてもらうようにお願いしたんだけどぜんぜん来ないんだよ。」
あれから電話にも出ないし、と言いながら女性は片耳に当てていたスマホをポケットにしまう
どうやら、来るはずの人がいくら待っても来ないらしい
「どうしますか。」
「この門3メートルぐらいあるけど大丈夫そ?」
「問題ありません。急ぎましょう。」
そう言うと、二人は門を飛び越え、なぜか開いている裏口から校内へ入っていった
ガラガラと音を立てる扉を開けて、青年が職員室に入る
「男性の状態は」
そう言いながら小走りで部屋の中心へ進むと男性教師が一人倒れていた
「息もしてるし、脈も正常、特に目立った外傷も無し。」
寝てるのとそんな変わらないよ、と男の横で彼を診ていた女性が立ち上がりながら答える
「それよりそっちはどうだった、人でもモノでも何か見つけた?」
「いえ何も、ビックリするぐらい何もないし静かでした。」
「そっ・・・なんか、言動が裕樹に似てきてない、・・・・・ん?」
「何かありましたか。」
「まあ、ちょっとね。」
女性は困り顔で手を顎に当て、青年も俯いて何か考えている 静寂が場を満たす
さあ、この八方塞がりな状況で彼女たちはどんな選・・
「外面だけで物事を判断するには、洞察力がまだまだ足りてないぜ幽霊ボーイ」
顎に当てられていたはずの手を僕に向けながら女性はそう告げる、僕の目を見て・・・目を見て??
瞬間 扉目掛けて走り出す、見えてる、はやく、にげないとブガッ!?
開いてるはずの出入り口に思い切り体を打ち付ける
「最近は詠唱をわざわざ口に出さなくても結界はれるようになったんだ、便利だよな」
そう言いながら女が近づいてくる、
どうしよう、見られてる、はやく、にげないと、逃げれない、にげれない、ニゲれないなら、早く、はやく、
殺さなきゃ
心臓を狙って突き出した手は女の咄嗟の反応によって右腕を掠めるだけにとどまる
「くそっ反応が遅れた、気をつけろ真司、おそらく今回の依頼の原因はあいつで、記憶をいじってくるはずだ。・・・・・・おい聞いてんのか真司!・・・・真司?」
返事のしない真司くんを確認するために振り返った女の体が一瞬固まった
何故か?理由は簡単、女は見てしまったのだ、坊主頭の真司くんではなく、何度も忘れようとした、思い出さぬよう記憶の奥深くにしまったはずの
『自分を庇って死んだ先輩の最期の姿』を
その一瞬を逃さない、女が再びこちらを振り向いた時、僕に腕は彼女の胴の真ん中を貫いた 口から血を吹き出し、崩れ落ちながらも女は自らの胴貫いた腕を握りしめる
めんどくさいな〜〜君たちの負けなんだからさっさとその手離してよ、君の奥では、真司くんが男性教師と同じように幸福な記憶に包まれて眠ってるよ?
すると女が口を開いた
「確かに・・・・私はお前に負けた・・・でもお前、何か忘れてないか、自分で消した、大きな忘れ物を・・」
その瞬間、視界が縦にずれた
まるで、体を大剣で真っ二つにされたかのように。




