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アフォリズム

〈汝も冬貪慾なのか太る月 涙次〉



(前回參照。)



【ⅰ】


じろさん、「魔界健全育成プロジェクト」の會議室で、現場のトップ、佐々圀守と對峙してゐた。じろさん「佐々くん、俺逹一味がルシフェルを引つ張つて來てから、『斬魔』の件數が減つてゐると云ふのは、確かゝ?」-佐々「はい、データでは大分減少してゐますね。それが何か?」-じろ「なに、ちよつと氣になる事があつてね」。じろさんは仕事のリーダーであるカンテラが、ルシフェルと岩坂十諺とを天秤に掛けた事には文句はなかつた。一味の代表者として、それは當然の事だ、と思つた。だが、岩坂との刎頸の交はりは長い。何とかして岩坂を立ち直らす事は出來ないものかと、考ヘ倦ねてゐたのだ。



【ⅱ】


戀愛が一期の夢だとすれば、「結婚は人生の墓場である」と云ふ箴言にも頷ける。-贋ラ=ロシュフウコオ。岩坂は、猫逹との戀愛期間を過ぎて、彼らと結婚したやうなものなのであつた。謂はゞ、猫への愛が彼を殺し、職を奪つたのだ。彼が「猫nekoふれ愛ハウス」の「マスター」だつた事を考へ併せると、それは大きな皮肉、運命の定めた試練だつたのかも知れない。



【ⅲ】


岩坂は「ふれ愛ハウス」をちよくちよく覗き、保護猫逹がハウスの*「スーパーヴァイザー」であり、彼に代はる「マスター」である時軸麻之介に懐き、猫特有の媚びを賣つてゐる事に嫉妬した。時軸憎し- 岩坂は大の猫嫌ひで、亡靈仲間である元・「番軍」の大原虎鉄と組んで、時軸殺害を企てた。大原が猫を憎んだ如く、岩坂は時軸を憎んだ。ところが、** 時軸、「和合空間」と云ふ術(それも大技だ)を持つてゐる。この術下では全ての諍ひは停止し、「和」の精神に從はなければならない。然し、岩坂とて魔導士の端くれである。打倒「和合空間」を目指す祕策を練つた。



* 前シリーズ第186話參照。

** 前シリーズ第155話參照。



※※※※


〈小説や書いても書いても終はりなきその怨念に似た筆を持ち 平手みき〉



【ⅳ】


要は先手必勝である。時軸が「和合空間」を展開する前に、彼の動きを止めてしまへばいゝのである。それには大原の體術(前々回參照)が役に立つだらう。事實は、この時點で岩坂と大原が魔道に墜ちたも同然な事を示してゐた。が、「斬魔のプロ」カンテラには、容易に彼らのプランは讀めた。大體に於いてこんなのは素人考へでも分かる事なのだ。「俺も髄分と舐められたものだ」、とカンテラは思つた。で、予防線としてカンテラは、「亡靈避け」の結界を「ふれ愛ハウス」に張つた。幾らじろさんが岩坂贔屓だと云つても、彼を【魔】的な道から救ひ出す事は、叶はなさうだつた。



【ⅴ】


じろさんが、「ふれ愛ハウス」にやつて來た。彼には特別な敬意を拂つてゐる大原、思はず怯んだ。この事で岩坂の目論みは脆くも崩れた。時軸に「和合空間」を發動させる隙が、そこに生まれた。だうせ「和合空間」の中では岩坂退治は出來なからう。皮相な事に岩坂はそれで亡靈としての命脈を長らへる事になる。そんな譯で、「或ひは岩坂を斬るか-」と考へてゐたカンテラ、拔き掛けた傳・鉄燦を元の鞘に戻した。「畜生! 私の猫逹を返せ!」と云ふ岩坂の叫びが、虛ろに谺した...



【ⅵ】


思へば、* 岩坂がまだ松見鉄五郎を名乘つてゐた頃、**「ねかうもり」が岩坂を襲ひ、じろさんが其処を助けた- じろさんと岩坂との仲はそれ以來のもの。じろさんそれを淡い思ひ出として、胸に仕舞つた。



* 前々シリーズ第18話參照。

** 猫と蝙蝠のキメラ。當時ルシフェルの使ひ魔だつた。



【ⅶ】


で、この一件、内輪の問題解決をしたに過ぎないが、「余計な死者を出さなかつた」と云ふ點が、「プロジェクト」管理官・仲本堯佳の琴線に触れたのか、特別に報奨金が下りた。「プロジェクト」のテーマが、「ニュー・タイプ【魔】」に効力を發揮するかは、未知數の儘。



【ⅷ】


上記の理由で、「プロジェクト」から下りたカネはまだまだ少額だつた。カンテラが何故そんなにカネに拘るのかは、誰も知らない。人に訊かれると、「なに、將來的に世界平和の為に、使はうと思つてね。それでカネを貯め込んでゐるのさ」などゝ、はぐらかすカンテラ。今日も彼は、虛無の風に吹かれ、一人佇んでゐた...



※※※※


〈1月や駄作は駄作放つて置く 涙次〉



【ⅸ】


ルナアルのアフォリズムに拠れば

「蛇、長過ぎる」

だが人生は短い

特に僕逹猫に與へられた命數は。

猫である事の哀しみは

日々の悦樂に隠されてゐる

思ひつきり遊んだ後は

埓もない午睡

三食晝寢付きとはこの事だ

「冬、長過ぎる」

冬毛に覆はれた僕逹の躰の

發する熱をフローリングの床で冷ます。

嗚呼猫を愛する多くの人間逹よ、

猫の倖せは

人に抱かれると云ふ事ではない-

勝手に生きる

それだけだ。


-谷澤景六-


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