84あっけない門出
「今日はこれで終わり。そして……研修もこれで終わりだ」
聖騎士たちと最後に戦って聖騎士になるための研修は終わりを迎えた。
たかが数ヶ月なので、すぐに終わるだろう。
そう思っていたが、思い返してみると長くも感じられた。
短いんだか、長いんだかよく分からない。
何にしても面倒な研修は終わった。
この日のために集められた聖騎士と休む間もなく戦わされたからみんなバテバテになっている。
「ご苦労だった。お前らは今この瞬間から正式に聖騎士となった。部屋に配属先が書かれた書類が届けてある。各自確認の上、迅速に配属先に向かうように」
なんともあっけないぐらいの聖騎士のスタート。
そこに感傷も余韻もなく、聖騎士たちは訓練場を去っていく。
「早く確認して、早く出た方がいいぞ? 配属先によっては遠いからな」
聖騎士へようこそ、なんて歓迎は期待していないが、突き放すのも早すぎるとは思う。
「さてと」
俺やペリフェなど体力に余裕のある組はさっさと部屋に戻る。
机の上に封筒が置いてあって、俺は個人の部屋に勝手に入ったのかとまず思った。
見られて困るものはない。
こんな世界じゃエロ本一つだって入手は大変なものなのだ。
「……チッ!」
封筒の中には一枚の紙が入っていた。
普通なら配属先が書かれているのだろう紙には、騎士団長室と書かれていた。
んなめんどくさいことしないで最初から部屋に呼べばいいのにと不満が口から漏れてしまう。
「はぁ……」
ため息をついた俺は騎士団長室に向かう。
部屋から喜びの声が聞こえるようなところもある。
流石に嫌だと叫ぶやつはいないので、静かな部屋はどんな思いなのか俺には知る由もない。
「エリシオです。配属先にやってきました」
「おお、来たか。入れ」
俺がドアをノックするとアーゲインの声が返ってくる。
部屋の中にはアーゲインの他にゲルディットとパシェもいた。
「俺は騎士団長付きですか?」
俺は配属先が書かれた紙を指で挟んでペラペラと揺らす。
「俺に付きたいならそれでもいいぞ。騎士団長の仕事は大変だからな。お前は頭もいいと聞いている」
「美人上司なら少しは悩むんですけどね」
「俺も昔は美形と言われた」
「悪魔にですか?」
「悪魔も魅了したものだ」
流れるようなくだらない応酬。
騎士団長という座についたのは伊達じゃない。
「冗談はさておき……君の立場をハッキリとさせておこう。君は今日から聖騎士、そして悪魔祓いだ」
本来なら経験を積まねばならない悪魔祓いに俺は正式配属された。
「ただし表向きはまだ聖騎士だ」
悪魔祓いを名乗ってしまうと悪魔と戦えるだけの力があると周りに公言するようなものとなる。
悪魔からしてみればハッキリと敵の先鋒となるわけで、悪魔、人間両方から注目されてしまう。
悪魔祓いではあるものの、悪魔祓いであることを俺は隠して活動する。
「しばらくは悪魔祓いのサポートチームとして働いてもらう」
「……そんなものあるんですか?」
「ああ、悪魔祓いになることを望んでいるが、さまざまな事情から悪魔祓いにはなれなかった聖騎士などが悪魔祓いの活動をサポートしている」
そんなの知らなかったなと俺は思った。
言ってしまえば実力が足りないから悪魔祓いになれなかった人たちだろうか。
悪魔と戦うなんて怖いという人もいるが、悪魔と戦いたくても戦わせてもらえない人もいる。
なんとも世知辛い世の中だ。
「少し特殊な立場とはなる。お前がまだ悪魔祓いとしての実力を兼ね備えていることは悪魔祓いの中でも一部のものしか知らない。時と場合によっては一般的な聖騎士として活動してもらうこともあるだろう」
「聖騎士なりたての新入りに任せるには責任重くありません?」
「嫌なら辞めろ」
「辞表書く紙ください」
「書くつもりもないだろうに」
アーゲインは俺の心を読んだように笑う。
「早速だが一人目……いや、一体目のターゲットの話をしよう」
大変だろうがやってもらう。
そんなつもりで俺の意見など軽く流されて会話は進む。
結局やるのだから俺としても構わない。
「ミルド王国、スタギイン地方のコームダス。そこの領主ブマリビュート・エダモスディが三等星の悪魔の疑いあり。調査して、悪魔だった場合は討伐だ」
知らん横文字が一気にいっぱい出てきた。
とりあえず三等星の悪魔というところは聞き取れた。
「お前はゲルディット、パシェと組んでコームダスに向かえ。向こうでは悪魔祓い五名とサポートメンバーが待っている。仔細は向こうにいる悪魔祓いから聞いてくれ」
「……分かりました」
このスピード感、ゾクゾクするな。
「お前が死んだ場合、こちらが何かしようとしていたとバレないようにお前は聖騎士として処理される。いいな?」
「もちろんです」
英雄として名を残すことも期待はしていない。
死んだら終わり。
別にどんなふうに名が刻まれようと興味はない。
「初仕事だ。上手くやってくれよ?」
「成功させるんで、お祝いの準備でもしといてください」
「ふっ、生きていたら何か考えてやろう」
ああ、ようやく始まった。
そんな感じがする。
「今すぐに準備を整えろ。明日、朝イチで出発だ」
「了解です。今すぐでもいいですよ?」
俺はゲルディットの言葉にニヤリと笑う。
もうすでにどこかへ行く用意はできている。
部屋に戻って、少ない荷物を引っ掴めばどこへでも行ける。
「そう急ぐな。今日ぐらいはゆっくりと寝ておけ。明日からは戦いの日々になるんだからな」
「じゃあたっぷり寝ておきます。パシェもよろしくな」
「うん。よろしく」
こうして、俺の悪魔祓いとしての戦いの火蓋が切られたのであった。




