69お買い物1
一月も経てば、なんとなく他の奴らがどんな奴かも分かってくる。
自ら望んで聖騎士になった奴もいれば、希望が通らなくて聖騎士になった奴もいる。
優秀な奴もいれば、あまり聖騎士に向いていなさそうな奴まで様々だ。
同期ではあるものの、実際配属されるとバラバラに各地を転々とすることになる。
仲良くしていたって今後一生会わない可能性だって否めない。
面倒だし対人関係では付き合い少なめでもいいかなと思っていたのだけど、何かとクレンシアが絡んでくる。
明るい性格をしているクレンシアは、いつの間にか同期の研修生たちの間でも中心的な人物になっている。
それはいいのだけど、なんで俺に絡んでくるのか分からない。
そうしながらさらに一ヶ月が経って二ヶ月が経過していた。
残り一ヶ月我慢すればいい。
「まあ、いいんだけどあいつがな……」
ギリギリクレンシアに絡まれることは許容するとしても、そのせいでギュドスに睨まれるのは納得いかない。
実力の差を見せつけて腕をへし折ってやったから絡んでこないが、怖い目をして睨んでくる。
非常に繊細な心の持ち主である俺はそんなふうに睨まれると、心を痛めてしまう。
ウザいからもう一度腕でも折ってやろうか、と。
「今日の訓練はこれで終わりだ」
走り込みは毎日続いている。
一応聖騎士が体を治療してくれるので負担は少なく、最初に比べるとみんなの体力も上がってきている感じがあった。
それから剣の訓練に移るのだけど、神聖力を使って強化したりされたり、複数で戦ったりとやり方は色々だった。
今日はペアを作って戦い、聖役の聖騎士が強化してくれるので聖騎士を守りながら相手を倒すという訓練内容であった。
「明日は一日休みだ」
「ほんとですか!」
「やった!」
ここまで全くの休みなしで訓練を続けてきた。
久々の休みと聞いて、みんなのテンションも上がっている。
「そして明後日からは聖都を出て実戦的な経験を積んでもらう。実際に悪魔と戦うんだ」
わいわいとした空気が一変する。
突然の実戦宣言に、明日の予定を考えていたみんなの動きが止まった。
「準備はこちらで行う。特別お前らで用意するものはない。だが外に出る上で野宿なんかも行うかもしれない。自分で必要だと思うものがあるなら用意しておくように」
結局多少の準備は考えてやっておけということだ。
休みと言いながらあまり楽しめるような休みではない。
「まあでも準備はしてくれるっていうしな」
なんの準備もしない奴が現れても困るだろう。
必要最低限の準備はしてくれるはずだ。
俺として必要最低限の準備があれば特に必要なものはない。
旅にふかふかのベッドを持っていくことはできない。
「……お菓子でも買ってくかな?」
魔物の討伐を安全を配慮して行われる。
研修生は聖騎士に同行していく形で向かい、聖騎士のサポートを受けながら戦う。
基本的には飯さえあればよく、必要なものとして思いついたのはちょっとした旅の潤いが欲しいぐらいだった。
だが持っていける旅の潤いも、こんな異世界じゃ多くない。
せいぜい日持ちするお菓子ぐらいだ。
「お菓子、買われるんですか?」
「うおっ?」
誰に対してでもないつぶやきであり、聞かれているとは思わなかった。
しかし俺の後ろにはクレンシアがいた。
また絡みにきた。
見てみろ、ギュドスがこっち睨んでる。
「いや、買わない。明日は丸一日寝てることにするよ」
俺の中の危機回避能力がとっさに答えを弾き出す。
素直に買い物にでも行こうと思うというとめんどくさそうだと感じた。
「どうでしょうか、私とお買い物に行きませんか?」
しかし時すでに遅しだった。
クレンシアはいい考えと言わんばかりに手を打ち合わせて、笑顔を浮かべる。
「別に俺と行かなくても、お前となら行きたい奴はいっぱいいるだろ?」
「あら? でも私はエリシオさんと行きたいんですよ」
「俺は別にそうでもないんだ。それに見てみろ。お前のせいで俺が睨まれる」
クレンシアが振り向くと、ギュドスはなんてこともないように装う。
上手く誤魔化すものだが、ギュドスが俺に対して態度が悪いことはクレンシアも分かっている。
クレンシアは苦笑いを浮かべる。
「注意は……してるんですけどね」
「まあでもあと一ヶ月……仮にあいつが配属一緒だったらすぐに異動してやる」
「そんなに嫌わないであげてください。悪い人ではないで……」
「悪い人でなくとも睨みつけてくる奴は嫌いだよ」
俺はため息をつく。
良いやつでも嫌なやつでも知らない。
俺に睨みを効かせてくる時点で、俺にとっては嫌なやつだ。
「まあ、買い物は他のやつといけ」
俺は手をひらひらと振って、部屋に戻るのだった。
ーーーーー
「チッ……なんだよ?」
朝早く、部屋のドアがノックされる。
もはやノックというより激しく叩いている。
のんびり寝ているつもりだった俺は、ノックの音に起こされてフラフラとドアに向かう。
「なんだ……」
「お買い物行きましょ!」
ドアを開けると、そこにはクレンシアがいた。
「あっ!」
俺は無言でドアを閉めた。
これはきっと夢だ。




