65ライバル?3
「クレンシアを見てる時の顔、鏡で見たことあるか?」
「はぁ? なんだよ?」
「鼻の下伸び切って地面につきそうになってるぞ」
敵意はありませんというつもりで軽い冗談で返しておく。
「な、なんだと……!」
「ああ、悪い。訂正するよ」
ギュドスは俺の冗談で顔を赤くする。
怒りか恥ずかしさのどちらかだろうけど、どっちかは知らない。
「鼻の下引きずってたわ」
敵意はありません。
「このやろう!」
「おっと」
今にも殴りかかってきそうなので俺はスピードを上げる。
「待て!」
「なんで追いかけてくる? クレンシアとよろしくやってろよ」
再び横に並んでくるギュドスに俺は嫌そうな顔をする。
ほっといてクレンシアの横で険しい顔でもしてれば、俺は近づかない。
なのになんでわざわざ横についてくるのだ。
「あんなに馬鹿にされて黙ってられるか!」
「俺がいつ馬鹿にした?」
「今も! まさに! してるだろ!」
「してないな」
俺はこんなに無害アピールをしているだけなのに、馬鹿にしているとは心外だ。
馬鹿だとは思ってるけど、馬鹿にするつもりはない。
「ふぅ」
あれを馬鹿にしているなどと言われては会話も成立しない。
俺はさらに少し速度を上げる。
「……ふっ」
「おおっと?」
クレンシアのところに行けばいいのに、なぜかギュドスはさらにスピードを上げて俺を追い越した。
そしてチラリとこちらを見て馬鹿にしたように笑う。
そうか、そのつもりか。
俺が速度を上げて少し追い抜く。
するとギュドスも追い抜き返す。
「ふっ! お前なんかには負けないぞ!」
何回かそんなことを繰り返すと、今度はギュドスは追い抜かれまいとかなりの速度で走り始める。
「ふっ、どうだ……追いつけな………………」
「はぁー、しんど」
ギュドスが振り向く。
しかしそこに俺はいない。
もうちょっと首を戻してみると、俺が見えるだろう。
「気づくの思ったより早かったな」
ある程度速度が上がり、俺のことを気にしなくなった時点で俺は速度を落として元のように走り出した。
ギュドスはそのことに気づかず、俺と大きく差を広げていた。
最後まで競い合うと思ったか?
そんなことしない。
「ああ、これで静かに走れる」
およそ半周分の差がついた。
スピードを落としてまた並ぶのも変だし、スピードを上げて追いついてくるのにも大変だ。
個人的には気づかず一周してくれれば面白かったのにと思う。
変に絡まれたせいで、周りの研修生からもチラチラと見られている。
注目を浴びたせいなのかクレンシアは流石に俺に近づいてこない。
注目されるのは嫌らしい。
ただすごくムッとした顔をしているのはチラリ見た感じでも確認できた。
「えっ……」
あと三周。
とんだ馬鹿のせいでだいぶ上位にはなってしまったが、もうちょっとで終わりだ。
後ろ、特に最後尾近くはひどいもので、早めにゴールしておけば普通に長いまばたきするぐらいの時間はありそう。
そんなことを考えていたら肩を掴まれた。
今この場でそんなことをしそうな奴は一人しか思いつかない。
「ゼェ……てめぇ……人のことゼェ…………馬鹿にすんなよ……」
「うわっ!? 出た!」
俺の肩を掴んだのはギュドス。
流石にかなり疲れた様子だ。
変にスピード上げた挙句に出し抜かれたのだと気づき、さらには半周差を追いついてきた。
一周差なのでもうギュドスも残りわずかなのに、わざわざ距離を詰めてきたのだ。
変態か、コイツ。
「あっ、ちょ、まっ……」
付き合ってらんない。
俺は足を速めてギュドスを振り切る。
流石にもう速度を上げるほどの元気はないのかギュドスはついてこない。
「なんで俺なんだよ……」
クレンシア、それにギュドス。
厄介な奴に目をつけられたものだ。
それに俺は小さくため息を漏らしてしまったのだった。




