63ライバル?1
「晴れて君たちも聖騎士になったわけだが、聖騎士として覚えねばならないことも多い。まずは基礎的なことから頭に叩き込む。テストはないが、忘れていて他に迷惑をかけると先輩にぶん殴られると思え」
聖騎士研修が始まった。
この期に及んで、また座って話聞いていなきゃいけないのかとため息が漏れる。
仕方ない。
俺は退屈な時間を長いまばたきで対応しようとする。
決して寝ているのではない。
ただのまばたき。
少しばかり目を閉じている時間が長いだけの話だ。
「まずは聖騎士にも二種類ある。聖の聖騎士と魔の聖騎士だ。聖は神聖力、魔は魔力だな」
どうせノートなんか取らないのなら目を閉じて話に集中した方がいい。
いや、違った。
長いまばたきであって、目を閉じているわけじゃない。
「神聖力は他者に対する力、魔力は自己に対する力だ。もっと簡単にいえば、神聖力は自分に使えず他人にしか使えない。そして魔力は自分にしか使えず、他人に使えない」
神聖力には他人を治療する力もあるが、魔力と共通して身体能力を強化してくれる力がある。
ただ神聖力では他人しか強化できず、魔力では自分しか強化できない。
「だから聖騎士は単独で動かない。最低でも二名、できれば四名ほどがいい。これは悪魔祓いでも同じだな。サポートも治療もできる聖を中心に、聖聖、聖魔の組み合わせが基本だ。魔二人だけ……ということは少ないな」
悪魔祓いでは聖魔のペアが基本単位になる。
しかし単なる聖騎士では聖聖と互いに神聖力で強化し合うこともあるのだ。
こうしたことはすでに習ったことであり、俺はまばたきを継続する。
時々先生の声が遠く聞こえたりするが、決して寝てはいない。
「単なる聖騎士なら悪魔との交戦は避けろ。悪魔祓いであっても危険な相手だから、悪魔と遭遇したら撤退して悪魔祓いの到着を……待て」
「……危ないですね」
俺は目を開ける。
いつの間にか先生が俺の近くにいて、俺に向かって拳を振り下ろしていた。
俺は目を閉じたまま拳を受け止めていたのだった。
まばたききている人間を殴りつけようとするなんて聖職者失格だろう。
「寝てるからだ」
「寝てなんていませんよ? 現にこうして防ぎましたから」
寝てたら防御なんてできない。
防いだということは寝ていないという証左なのである。
「俺はシュミンと知り合いでな。ある生徒の聞いたことがある」
「シュミン……ああ、あの人ですか」
シュミンとは聖騎士なんかになるなと言った先生の名前だ。
「……お前がエリシオだな?」
先生、何を言ったんですか?
写真もないこの世界で、話に聞いただけの相手をすぐに察することができるなんて、なかなか難しい。
「違います。僕はアーサーです」
「ああ、そうか、アーサー。だが知っているか? この教室にアーサーなんて名前はいない」
先生は呆れたように答える。
「手紙に書いてあった通りだな」
「なんて書いてあったんですか? 絶世のイケメン?」
「馬鹿言え。手紙にはお前の文句でいっぱいだった。気だるげな目、生意気な態度、講義中に寝る図太さ……奇公子とも呼ばれていたらしいな」
「身に覚えがないですね」
俺は肩をすくめてみせる。
「ふん、それなのに成績はトップ、剣術も一番だったらしいな」
「ああ、それは身に覚えがあります」
「ふふ、生意気だな。まあいい。生意気なやつはすぐに死ぬか……あるいは死なないで生き残るかだ。どうせテストもしない。自信があるなら寝ててもいい」
先生は呆れたように笑い、教室の前に戻る。
「寝ててもいいと言ったが殴りに行かないわけじゃないから、他の奴も気をつけて寝ろよ。さて、講義の続きだ」
どうやら許されたらしい。
またしても退屈な講義とやらが始まってしまったので、俺はまたしてもまばたきに興じる。
とりあえずその日はもう殴られることはなかった。
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「聖騎士は体力勝負だ。体力がなくて困ることはあっても体力があって困ることは基本ない。鍛錬は続けてもらうが、研修の期間にはより強靭な体力を作ってもらう」
何も暇な講義だけが研修ではない。
むしろ講義の比重は小さく、体を動かしていくことがメインだったりする。
「まずはここを二十周。魔力も神聖力も使うなよ」
大教会には広い訓練場もある。
普段は聖騎士たちが使っているが、今は研修生しかいない。
「こ、ここを二十周?」
「マジかよ……」
訓練教官はサラリと二十周走れと言った。
けれども訓練場は広く、二十周はかなり大変そうでみんなざわつく。
「いいから走れ。早く終わったものから休憩。最後の者は次回五周プラスだ」
「いきなりスパルタだな」
俺も軽くため息をつく。
初日からこの広さを二十周かと思ってしまう。
「ほら、始め!」
訓練教官はパンと手を打ち鳴らす。
二十周でも大変なのだから、さらに五周も追加されたらキツイことこの上ない。
みんな慌てて走り出し、俺は最後尾からゆっくりと追いかけるように走っていく。
流石に一周二周で根をあげそうな奴はいない。
だが、五周を超えるとつらそうな顔をする奴が現れ始め、十周を超えると俺が同じペースで走っていても順番は半分ほどまで上がってきた。




