62根深い問題3
「本来ならこうして再会できたお前に吉報の一つでも送ることができたらよかったんだがな……」
「確かに……その点では情けないですね」
「うぅ……手厳しいことを言う」
本当のことだからアーゲインも苦笑して唸るしかない。
「でも俺がきました。リストに載っている奴らはこれから怯えて過ごすことになります」
「……ほぅ」
俺は銀色のオーラを放つ。
それを見て、アーゲインはニヤリと笑う。
確かに、俺はまだ戦力としては弱いかもしれない。
だが俺には霊視の力がある。
忌々しい呪いのような力であるが、悪魔が幽霊に手を出す性質を持っている以上は霊視能力は悪魔の発見に役立ってくれる。
これまで慎重に事を進め、大きな進展が見られなかったリストの大物の調査も霊視で見れば何かが分かるかもしれない。
あるいは幽霊が何かを導いてくれるかもしれない。
俺が悪魔の正体を暴いてやる。
「はははっ! 頼もしい限りだな! それなりに暴れるといい。どうせ枢機卿の座など惜しくはないのだから俺が責任を取ろう」
俺の目を見て、アーゲインは豪快に笑う。
「期待している。教皇が本当に悪魔かどうか確定はしていないが……いつかそれをお前が暴いてくれるといいな」
「暴いてみせますよ」
俺も銀のオーラを引っ込めながら、自信があるように笑顔を浮かべる。
必要なら本気で教皇にだって刃を突き立てるつもりだ。
「これからが楽しみだ。研修は全員受けることになっているから仕方ないが、その後のお前の配属は俺の権限でいじらせてもらう」
「どういうことですか?」
「本来研修が終わって、聖騎士として正式にそれぞれの地に配属される。悪魔祓いとなるためには、最低でも二年ほどは聖騎士として活動してからとなるのだ。例外はいるがな。お前も知っているパシェなんかはそうだ」
へぇ、と思ってしまう。
全身鎧の獣人悪魔祓いがイレギュラーな事を言われてもあまり驚きはない。
なるほどなと納得してしまう。
「お前も二年間の聖騎士経験を積んでもらう……という表向きの所属はそのままだ」
「表向き……」
「お前の体質は聞いている。今の銀のオーラ……魔聖どちらの力も持っている特異体質。さらにはもう悪魔と戦闘した経験もある。聖騎士として二年も塩漬けするのは惜しい」
銀のオーラを見て驚きが少ないとは思っていた。
やはり伝えていたのだなとゲルディットを見ると、軽くニヤリと笑っていた。
「表向きは聖騎士だ。だが裏では悪魔祓いとして活動してもらう。まあ、内部に潜んでいるかもしれない悪魔にバレないようにするための措置だ」
リストによれば教会の中に悪魔がいる。
悪魔祓いはちゃんと悪魔祓いとして登録されているが、二年の過程をすっ飛ばしてエリシオが悪魔祓いになれば怪しまれてしまうだろう。
そこでエリシオは悪魔祓いとして正式には登録しない。
悪魔の目を誤魔化して悪魔祓いとして活動してもらうのだ。
「本来一人で活動はしないが、お前は一人でも悪魔と戦える。そこも悪魔の目を誤魔化すのにちょうどいい」
悪魔祓いになると固定のペアを作る。
しかしエリシオは神聖力と魔力を一人で使える。
ペアを持たず活動するエリシオを悪魔祓いだと悪魔の方も疑わないのだ。
秘密の悪魔祓い、カッコいいじゃないかと俺は思った。
「基本的にはゲルディットと動いてもらう」
「えっ?」
ゲルディットが驚いた顔をする。
どうやら予想外の言葉だったらしい。
「引退した悪魔祓いだ。お前も悪魔祓いの登録から外す。名目上な」
「……引退すると言ったはずだが?」
「お前の引退届は薪が足りなくて燃やしてしまった。大して温かくもなかったな」
「この……ああ、もう」
ゲルディットは顔をしかめて大きなため息をつく。
「パシェはどうする?」
「彼女の希望次第だ」
「……そうか」
ゲルディットはすごく嫌そうな顔をしながらも、諦めたようだった。
俺としてもゲルディットがいてくれるのはありがたい。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ? 俺に答えられる事ならなんでも聞け」
「教皇の娘……クレンシアについてです」
「……ううむ………………」
俺が今心配していることが一つあった。
それはクレンシアについてである。
仮に教皇が悪魔だとしたら、クレンシアは何者なのか。
悪魔の子ということになるのか。
しかし悪魔の子が神聖力を持っているなんて異常な話あり得ない。
「教皇が悪魔だとしたら……彼女は……」
「彼女は人間だ」
「ですが……」
「……俺は彼女の出産に立ち会ったことがある。母の腹から生まれた……正真正銘の人間だ」
なら教皇とはどういった関係なのか。
俺は眉をひそめてしまう。
「教皇も最初から悪魔だったなんてことはあり得ないだろう。悪魔の身で教皇まで成り上がるなど不可能だ。ならば……おそらくどこかですり替わったのだ」
「つまり……クレンシアが生まれるまでは教皇は、本物の教皇で、今は偽物の教皇……だと?」
「その可能性がある」
一気に張り詰めた空気。
本当だとしたら、クレンシアは悪魔に父親を奪われた被害者にもなる。
そして、既存の人に悪魔がすり替わる可能性があるというとんでもない話でもあった。
「この話はかなり根が深い。仮に調べるとしても慎重さを求められる」
「彼女はこのことを?」
「誰がそんなこと言える? お前の父親は悪魔かもしれないなんてな。ただクレンシアは悪い子ではない。敬虔な信者で……聖女になれるほど強い神聖力を持っている」
「聖女……」
聖者とか聖女とかそんなものはただの称号に過ぎない。
だが、そう呼ばれるのにふさわしい力を持っているということになる。
だから悪魔に狙われたのかと俺の中で以前の事件について腑に落ちた。
「もしかしたら教皇に繋がる切り札になるかもしれないし、彼女の神聖力は大きな力になる。数ヶ月あるのだから少し仲良くなってみるといい」
色々めんどくさいな。
やはり結局は一歩ずつ進んでいくしかない。
だがこうして教会の中でも戦う人たちがいる。
俺の復讐はまだ始まったばかりだ。




