60根深い問題1
聖都に辿り着いたことで、見習いたちも正式に発表された所属先で確定となった。
クーデンドも会計課所属となって一安心していた。
聖都の大教会の会計課ともなればエリートだ。
これから大変だぞ。
「希望に満ちた目をしているな。その気持ち、忘れるな。悪魔は肉体だけじゃない、心まで手を伸ばしてくる」
俺も聖騎士の所属となった。
いわゆるこれで本格的な聖職者となったわけだが、聖騎士としては見習いとなる。
卒業しても下っ端なことに変わりはないのだ。
今は新しく加入となった聖騎士たちが集められている。
前の方では騎士団長となるアーゲインが挨拶をしている。
全体で集まった時には枢機卿らしく落ち着いた服装をしていたが、今は鎧姿だ。
鎧の方が似合っている。
「色んな奴がいるな」
他の部署の聖職者たちは直接所属する協会に向かうが、聖騎士に関しては一度集められてからどこに行くのか決まる。
その都合で人は多い。
当然ながらクレンシアもいる。
「これから三ヶ月、お前らには聖騎士としての基礎を叩き込む。それから勤務地域に配属になる」
いつの間にかアーゲインの挨拶が終わって、教官役の聖騎士がこれからについての説明を始めていた。
てっきりすぐどこかに行かされるものと思っていたが、研修があったのか。
そういえばそんな話もされていたような気がするけれど、授業もまともに聞いていなかったので覚えてない。
「配属される地域は希望がある程度通るが……期待もするな。研修があるといっても、お前らはもう聖騎士だ。いつでも悪魔や魔物と戦うという気持ちを持って生活するんだ」
みんな真剣な顔をして話を聞いている。
この中で、何年後かにまた会えるのは一体何人だろうか。
「研修は明日からだ。遅刻、無断欠勤は許さん。明日からは研修……いや、厳しい訓練が待っているぞ」
「ここまで来て訓練か……」
正直言って訓練なんかしたくない。
俺は小さくため息をついた。
「部屋に戻っていい。この中にエリシオというものはいるな? エリシオは前に来い」
「げっ……何だよ」
謎の呼び出しに俺は顔をしかめる。
みんなが立ち上がって部屋に戻っていく。
俺もこっそり部屋に戻ってしまおうかと考えたが、流石に無視するわけにはいかない。
奇公子と呼ばれていたのも過去のことで、ここでは大人しく目立たず過ごすつもりだった。
人が少なくなってきて、ようやく俺も立ち上がる。
「お前がエリシオだな?」
「はい、そうです」
「……死んだ目をしてるな」
「そこまで酷いですか?」
キラッキラな目をしているとは思っていない。
だからといって死んだ目というほどでもないだろう。
確かに、周りの奴らに比べればいくらか死んでるかもしれない。
特に理由もわからず呼び出されたら多少はそんな目にもなる。
「まあいい。お前を呼んでいる人がいる。あいつについていけ」
希望に満ちた目をしてないから死んでいるとは酷いものだ。
ただ俺以外にもそんな目をしている人もいた。
希望したところに行けずに聖騎士に回された奴らだろう。
ただそんな奴らと一緒にされるのも困る。
「行きましょう」
俺は若い聖騎士についていく。
職位の低い聖職者たちの部屋があるところではなく、職位の高い聖職者の部屋があるゾーンに向かっていく。
階段を登り、上の階へ。
上の階ほどお偉いさんが住むところになる。
流石にちょっと緊張する。
「こちらでお待ちです」
結構上に来た。
つまり相手はかなり職位として上の相手になる。
「失礼します。お連れいたしました」
「おお、待っていたぞ。開いているから入れ」
この声は、と思った。
「久しぶりだな。こうしてまた会えて嬉しいぞ」
「騎士団長……がお呼びでしたか」
「呼び方はそれでいい。様も卿もいらない」
部屋にいたのはアーゲインだった。
騎士団長と呼べと言っていたことを思い出して、とりあえず騎士団長と呼んでみたら嬉しそうに笑った。
堅苦しいのが嫌いなのはお互い様なようだ。
「見知った顔もいますね」
「嬉しいだろ?」
「ええ、とっても」
「なら少しぐらい嬉しそうな顔しろ」
部屋にはゲルディットもいた。
相変わらず元気そうで何よりだ。
「お前たちは仲が良さそうだな」
「ええ、とっても仲良しですよ」
「団長と団長のカミさんよりは仲が良いですよ」
「……皮肉屋が二人揃うと大変だな」
アーゲインは苦笑いを浮かべる。
「皮肉屋だなんて、ありのままを言っているだけなのにな」
「そうか。俺とあいつはまだまだ仲が良いぞ」
「それは意外でした」
「ふん……ご苦労だった。君は下がっていい」
アーゲインはゲルディットの言葉に軽くため息をつくと、案内してくれた騎士を下がらせた。
「いきなり呼び出してすまなかったな」
「いえ、大人しく過ごそうと思ってたのに、ちょっと注目浴びちゃったなってぐらいです」
「……そうか」
「俺のせいじゃないですよ」
どういう教育してるんだ?
アーゲインはそんな目をゲルディットに向けた。
ゲルディットはわざとらしく肩をすくめる。
俺の性格がいいもんじゃないことも分かっているが、ゲルディットに会って影響を受けたことも否めないと思う。




