59復讐のリスト
聖都までの残りは悪魔祓いたちが護衛してくれることとなった。
騎士団長のアーゲインは別の仕事があるらしくて同行はしていないが、後で話そうと痛くなるほどに肩を叩いて行ってしまった。
新しく到着した見習いも含めて同期は二十人ほどとなっている。
半分以上は街で悪魔騒動があったことなど知らない。
クーデンドも全てが終わった後に知って、また危ないことをしてと俺は怒られた。
流石に悪魔祓いと一緒だとトラブルもなく進む。
クレンシアは俺に話しかけたそうにしていたが、色々と後ろめたさがあるのかチラチラ見てくるだけで声はかけてこなかった。
俺としても面倒は避けたいから、別にこちらから声をかけることもない。
「わぁ……」
「ここが聖都。もっとすごいだろ?」
そうして聖都に到着した。
クーデンドはポカンと口を開けて周りを見ていて、田舎者丸出しだ。
ただ同じようにしている人も多い。
「せめて口閉じとけ」
俺はクーデンドのアゴを掴んで口を閉じさせる。
聖都は言うなれば、世界最大の都市といっても過言ではない。
なぜなら世界で最も安全な都市であるからだ。
この世界における最大の脅威は、やはり悪魔だ。
そして聖都は教会の大本山であり、聖職者が集まる場所となっている。
教会ではなく町に全体に神聖力が溢れている。
悪魔や魔物の脅威が世界で最も少ない場所なのだから、人も集まるのだ。
「ま、教会の力が強いってのが良くわかるな」
宗教都市なのだから戦争なんかのリスクも少ない。
名実ともに世界一安全な都市という金看板は強い。
そのせいで町の外側に幽霊が大挙してて、ちょっとビビったのは秘密だ。
「聖リトム=イルミナウス大教会……」
そんな町の中心には教会の力を誇示するような大きな教会が立っている。
かつて現れた大悪魔を倒した悪魔祓いが建てたとされる教会の荘厳さは、俺でも目を見張るものがあった。
こんなところで働くのに憧れる気持ちも少しはわかる。
「ようやくここまで来ることができた……」
遠かったな。
俺は目を細めて大教会を見上げる。
遠いというのは距離だけの話ではない。
時間としても遠くかかってしまった。
「ここからが始まりだ」
ーーーーー
大教会に泊まって十日ほど経った。
他の地域の見習いたちも到着して、ようやく正式な任命がなされることになった。
そして任命に先駆けて、歓迎の式典が行われる。
「緊張するね」
「俺たちがすることない。ただ黙って話聞いて、飯食えばいいだけだ」
長いテーブルが並ぶ広い食堂に見習いたちが集められた。
ざわつく見習いたちはそわそわとして落ち着かない。
「静かに! これより歓迎の式典を始める」
食堂の奥の方は一段高くなっていて、座するとこちらを眺める形になるようにテーブルがやや弧を描くように配置されている。
一段高くなっているところに上がったヒゲの老人聖職者が食堂に通るしっかりとした声を出すと、途端に見習いたちは静かになった。
流石に聖都に集められるのはエリートであり、こうした時の動きはしっかりしている。
「尊き方々のご入場だ!」
食堂の大きな扉が開いて、ゆったりとした神官の服に身を包んだ聖職者たちが入ってくる。
奥の方のテーブルに並んでいく彼らは教会の高位聖職者たちだ。
「教会は腐ってる……」
「ご紹介いたしましょう! 端からアーゲイン・ミエル・シュタイネスト枢機卿」
高位聖職者の中にはアーゲインもいた。
騎士団長ともなると教会の職位も高い。
大司教のさらに上、枢機卿というのがアーゲインの職位だった。
「続きまして」
「エルシアン・ダッド・ミヒャウル枢機卿……六等星悪魔の可能性あり」
ふくよかな体格に人の良さそうな笑顔。
見ているだけでなんでも打ち明けてしまいそうな人格者に見える老年の男はエルシアン。
ヒゲの老人聖職者よりも早く、俺は名前を口にした。
「こちらの方は……」
「ブルーテスター・ギリウス・クーデルヒルダ枢機卿」
岩のようなゴツゴツとした顔に鋭い目つき。
むすりとしたような表情の五十代ぐらいの男がブルーテスター。
「こいつは悪魔崇拝者……疑い」
みんなは憧れのものを見るような目で枢機卿たちを見ていた。
しかし俺の目つきはそんなものとは程遠い。
「そして最後に……」
「モラフィエル・アデン・ヒューガスト教皇。悪魔の可能性……大」
金髪に碧眼のイケオジが最後に立ち上がり、みんなに向かって手を振る。
もう六十も近いはずだが、いっても四十ほどにしか見えない。
教皇。
教会のトップ。
クレンシアの父親。
「リストによると……あいつらには悪魔や悪魔崇拝者の疑いがある」
両親が残したリスト。
そこには大物の名前が載っていた。
教会のトップである教皇や枢機卿の名前。
そして悪魔の疑いがあるかどうかも書いてあった。
疑いではあるものの、それはただ確定していないというだけで、俺の両親はこれらのターゲットを疑っていた。
教会は腐ってる。
もう中身まで、トップまで腐っているのだ。
手の届く距離まで来た。
だが、倒すのは今じゃない。
「証拠を掴み、お前らの正体を白日の下に晒す」
俺が教会に入った理由は単純だ。
復讐。
悪魔と戦う力をつけるため。
そして、悪魔の喉元に近づくためだった。
「遠かったな……だがここまで来たぞ」
枢機卿の挨拶も俺の耳には届かない。
いつか見ていろ。
俺はお前らに復讐する。
ここに来たのは、その第一歩である。
ーーー第一章完結ーーー




