49悪魔の狙い3
「狙われた理由。それはおそらく……私の父が原因でしょう」
「父親? 貴族か何かか?」
親族が原因で悪魔に狙われるなんて、どんな親だろうか。
俺には、俺という実例がいるが、巻き込まれるならともかく親が原因で子がこんなふうに狙われることなどない。
「ゲルディット様もお知りだと思いますよ」
「俺が知ってる? 悪いが俺は貴族の顔も名前も覚えるのは得意じゃないぞ」
ゲルディットは比較的貴族というやつが嫌いだ。
態度を見ていれば貴族社会に溶け込める人じゃないことが丸わかりなゲルディットが分かる、と断言するような相手は数少ない。
「モラフィエル教皇。その娘が私です」
「きょうこ……」
何かに動揺することが少ないゲルディットが完全に固まった。
いや、ゲルディットだけでなく、俺やパシェも同じだ。
教皇。
いわゆる教会のトップ。
「マジかよ……」
言葉選ばずに言うのなら神に次ぐ権力者とでも言うのか。
フィローネという女神を信仰するフィローネ教がエリシオたちの所属しているものであり、世界最大規模の宗教である。
唯一神ではないものの、ほとんどそれに近いぐらいフィローネが強く信仰されている。
三つある大陸の二つがほぼフィローネ教の下にあり、今やフィローネ教は国家よりも強い力を持っているといっても過言ではない。
トップの教皇はもちろん全てにおいて権力を握っており、怒らせれば国だって滅びかねない。
「…………はぁぁぁぁ……」
そして俺たちにとっては遠い上司。
会社でいうなら社長、会長とかそんなクラスなのだ。
ゲルディットも第一線は引退したものの、教会所属のままだ。
目の前にいるのが社長令嬢だと聞いて動揺しない方がおかしい。
深いため息をついたゲルディットはガックリとうなだれてしまう。
薮をつついて蛇が出た。
原因となりそうなものを見つけたけれど、とんだ爆弾だったのだ。
俺はこっそり、背筋を伸ばす。
頭の中で失礼なことしてないよなと思い返してみるけれど、失礼だったような気もする。
「娘だと? 聞いたこともない……」
「それは当然です。バレると狙われるかもしれませんから。ここまでひっそりと暮らしてきましたし、私の素性を知っているのは本当にごく一部の方のみです」
「そうか……あんたを引きずり出したくて悪魔は画策しているようだな」
真の狙いがクレンシアなのか、それとも教皇なのかは知らない。
だが今のところターゲットはクレンシアなのだろう。
「他の奴への聞き取りは中止だ。頭痛くなってきた」
「私のこと、秘密にしていただけますか?」
「当然だ。教皇に睨まれるわけにはいかないからな……」
ゲルディットのため息が止まらない。
俺とパシェはどうしたらいいのか分からなくて、ただただ空気のように気配を消す。
あっ、クレンシアと目が合った。
微笑みかけられた。
しょうがないから引きつった笑みを返す。
思いもよらない相手だった。
俺もパシェみたいにヘルム被りたくなってきた。
「護衛の悪魔祓いとかいないのか?」
「そんなものいたら私の正体がバレてしまうでしょう?」
クレンシアはニコリと笑う。
自分が狙われていると聞いても、あまり動揺していないようだった。
あまり感情が分からない。
悪魔祓い向きといえばそうなのかもしれないが、ただの少女でもなさそうだ。
「……話は、分かった」
急な頭痛がするようで、ゲルディットはこめかみを揉む。
「教会から出るな。一歩もだ」
「分かりました」
「いくぞ、二人とも」
何だかすごく見られてる気がする。
俺はクレンシアの視線に気づかないふりをして、そそくさと部屋を出た。
「チッ……とんだことがあったもんだ」
クレンシアの部屋から離れてゲルディットは舌打ちする。
悪魔の目的が判明した。
狙いは教皇の娘クレンシア。
「聖都に着く前にどうにかしたいということなんだろうな」
これで多少強引な手を使ってくることにも納得がいく。
ただその代わりに重たい秘密と、絶対に守らなきゃいけないものができてしまった。
「懺悔室、空いてるかな? 叫びたい気分だ」
「なんて叫ぶつもりですか?」
「さてどうかな……周りに人がいるかもしれないことを考えると、神様の馬鹿野郎……かな?」
「いいですね。俺も叫びますよ」
やめといたらいいんじゃないかという思いよりも、俺も同じような気持ちの方が強い。
おお、主よ。
どうしてこんな試練を与えるのですか?
このままじゃ不遜な男二人に馬鹿野郎と言われますよ。




