46悪魔崇拝者4
「あの子が死んだっていうのは本当なのかい?」
「……ダモンのことを知っているのですか?」
「そりゃもちろんね」
ウルモンはゆっくりと立ち上がると、泣き崩れる赤毛の女性の肩に手を添える。
「ダモンとシウは、この孤児院出身……恋人だったことも知ってるさね」
腰を屈めてシウの足に刺さったグラスのカケラを取り除くと、ウルモンの手が淡く光る。
シウの足の傷が治っていく。
どうやらウルモンは聖職者のようだ。
「ダモンについて話を聞きたい」
「この子が泣いてるの見えないのかい?」
ウルモンはギッと眉間にシワを寄せてゲルディットのことを睨みつける。
「見えています」
短い睨み合い。
ゲルディットは短く答える。
「なら少しぐらい死を悼む時間ぐらい与えてやってもいいんじゃないかい?」
「死を悼んでいる間に新たな犠牲者が出るかもしれない」
「たかだかちょっとのことだろう! これだから悪魔祓いは……悪魔と戦うためにどこかに人の心でも置いてきたのかね!」
ウルモンが声を荒らげるが、ゲルディットは冷たい目をしている。
悪魔は死を悼む時間も待ってくれないかもしれない。
こうしている間にも誰かが死んでいるかもしれない。
ただちょっと泣くための短い時間ぐらいなら、そう思う気持ちも分からないものではない。
「やめて、ウルモンさん……彼も、ダモンも悪魔祓いだったのよ」
涙を流しながら、シウは肩に添えられた手に自らの手を重ねる。
「……だから悪魔祓いは嫌いなんだ」
ウルモンは顔を歪めてため息をつく。
「ダモンについて……私で話せることがあるならなんでも話します。それが……彼のためなら」
シウは震える声で答える。
「正しい判断を感謝する。ダモンに手を出した報いは……必ず受けさせる」
「……うっ、よろしくお願いします」
どうして悪魔というやつは悲しみしか生まないんだ。
ほとほと、腹が立つ。
ーーーーー
「有力な情報はなかったな」
シウはなんとか質問に答えてくれた。
自分と会った後にダモンが殺されたのだと聞いてより大きなショックを受けていたが、どうにか持ち直してほしいものだと祈るしかない。
「あの婆さんは……俺たちのことが嫌いらしいしな」
ついでにウルモンにも話を聞いた。
悪魔祓いに対して嫌悪感を隠さない。
ダモンのため一応聞き取りには応えてくれたが、協力的な態度ではなかった。
「会うタイミングはある程度決まっていたようだが、それだけという話だからな」
違う場所で生まれたが、ほぼ同時期に親を亡くしてダモンとシウは孤児院で出会った。
共に育ち、教会に入って教育を受けた。
ダモンは聖騎士となり、シウは教会で働いていたが辞めて孤児院を手伝い始めた。
そのうちにダモンは悪魔祓いとなり、各地を転々として今はこの辺りで活動するようになって、シウと再会することとなる。
恋が燃え上がり、時々こっそりと出会っていたのだ。
定期的に会っていたようだけど、何か目新しいような話もなかった。
「ただやはり……二人が合っていたことを知っていた……ということになりそうだな」
シウと会っている時前後がダモンを襲う狙い目だろう。
ならばシウと恋人であって、定期的に会うのを知っていたことになる。
教会に帰りながら推測を巡らせる。
ダモンをやったのは悪魔だろうが、力の強い悪魔がコソコソと聖騎士一人を追いかけ回してタイミングを図るなんてことはしない。
協力者。
いわゆる悪魔崇拝者の助力がありそう。
「そうなると相棒のノートムぐらいか……?」
「お前らはどうなんだ?」
「私は知りませんでした」
「俺は前にちょっと、な」
セベストは首を横に振り、ハイネマンは気まずそうに答える。
「巡回後、どこかに行くのを見かけたことがある。だがそれぐらいだ」
「そうか」
仲間にも秘密だった。
「まあ、恋人ができたなんて言ったら……聖騎士やめろと言われるような世界だからな」
ゲルディットは小さくため息をつく。
過酷な世界の聖騎士は恋人を作ることだって簡単じゃない。
好きな人ができて、仮に思い通じるなら聖騎士なんて辞めて幸せになった方がいい。
祝福してもらえると言えばそうだが、恋人ができたことで周りに変な気の使い方をされるのも嫌がる人もいる。
周りに言って回らなくても、おかしくはない。
「エリシオ、お前はどう思う?」
「…………あの孤児院、怪しいです」
「どこがだ?」
「……分かりません。でもなんだか……異様な雰囲気があるんです」
俺がどうしても気になっていることが一つある。
孤児院に幽霊がいなかったということだ。
孤児院に集まるのは孤児だ。
体が弱くて死んだり、子供についてきた親の無念がいたりする。
そうでなくとも他に町を浮遊している幽霊だって周りにいるだろう。
なのに幽霊がいなかった。
ウルモンが聖職者で神聖力を持っているとしても、孤児院は教会じゃない。
何かがありそうな気がする。
ただあの小綺麗な孤児院に何かをこじつけるのも難しい。
「あの婆さんも怪しいな」
「確かに彼女は我々を嫌っているし、二人が恋仲にあることを知っていましたね」
「でもそれだけじゃ疑えないだろう?」
セベストは同意するように頷くが、ハイネマンは肩をすくめる。
「良さそうな孤児院だったろ。綺麗だし手入れも行き届いてた」
「まあ、確かに。もっと古くてがたついた孤児院も多いからな。よくやってるんだろう」
「みなさん! 問題が発生しました!」
教会に帰ってきた。
そんな俺たちを迎えてくれたのは最悪のニュースだった。




