45悪魔崇拝者3
「結局一組……か」
「そのおかげで俺たちは出れるんだからいいだろ」
「まあ、そうですね」
流石に長々と会議はしない。
次の日には助けを求める騎士たちは出発した。
悪魔祓いの聖騎士に加えて教会の聖騎士も加えて、馬に乗っていまだに残るダモンの血の跡を乗り越えて町を出たのだ。
「ただ……今は誰も信用するな。たとえ俺でもな」
残った悪魔祓いは二組。
一組は教会の警護に当たることになって、もう一組はダモンを殺した犯人探しをすることになった。
そして俺たちはその補佐、と名目上はなっている。
だが実際はゲルディットが率いている。
同行してくれている悪魔祓いはダモンとノートムと一緒にいた悪魔祓いのペアだ。
聖のセベストと魔のハイネマンという男性二人組。
セベストは線が細い感じの体格をしていて、やや癖の強い茶髪、顔つきは少し学者っぽい感じがある。
ハイネマンはがっしりとした体格の偉丈夫で、顔もゴツゴツとしている。
背はパシェの方が高いのだけど、大柄な体格のせいで威圧感はパシェにも劣らない。
ただ柔らかくて人の良さそうな笑顔を浮かべる人だ。
「ゲルディットさんが信用できなきゃ誰が信用できるんですか?」
「いつか俺に襲い掛かられても後悔するなよ?」
「その時は俺が引導を渡してあげます」
セベストとハイネマンは、ダモンとノートムのためにと教会の外に出る危険な役割を買って出てくれた。
だが、セベストとハイネマンだって信用できるかどうかは分からない。
ダモンの恋人について何かを知っていた可能性はあるし、悪魔と内通している可能性も否定はできない。
「あれが孤児院です」
俺たちはダモンの恋人探しを始めていた。
まずは孤児院。
そうはいっても孤児院だって大量にあるわけじゃない。
ただ俺が思っていたよりも孤児院はそこらにある。
病気や怪我なんかで死ぬ人は教会や神聖力のおかげで低いものの、盗賊や悪魔、魔物のせいで時に人が死に孤児が生まれる。
そのために孤児院というものも決して珍しい施設ではない。
「さて、ここに若い女性はいるかな?」
子供の笑い声が聞こえてくる。
町中は不穏な出来事に影を落としているものの、たとえ危険があろうと生活はしなければならない。
現場を見たわけでもない一般の人はどこか事件を遠くに感じていて、早くも普通の生活に戻っている。
いちいち悪魔にも怯えていられない現状があるのだ。
「割と綺麗な建物だな」
小さめな教会のような建物が孤児院だった。
「シスター! お客さんだよー!」
孤児院の横にある小さな中庭で遊んでいた子供が俺たちに気づいた。
「あら? お客様?」
「若い女性、赤毛」
建物の角から顔を出したのはまだ若そうな女性。
一つに束ねられた長い髪は赤毛だと、俺とゲルディットは視線を合わせた。
「孤児院の人か? 俺たちは教会から来た」
「教会から? ええと、今はウルモンさんを呼んできますね!」
近くには子供もいる。
いきなり悪魔の話をするわけにもいかない。
赤毛の女性が顔を引っ込めて、どこかに行ってしまった。
「…………」
「どうかしたか?」
「いえ、なんでも」
俺は周りの様子を見ていた。
見えちゃいけないものが見えるのも、何かのヒントになるかもしれない。
恋人に未練たらたらでダモンの幽霊でもいないかなと思ったのだけど、孤児院の周りには幽霊はいなかった。
たったの1人もいないのだ。
「お待たせしました!」
孤児院のドアが開いて、赤毛の女性が孤児院の中に迎え入れてくれる。
ニコリとした笑顔の朗らかな、いい人そうである。
「ウルモンさん、教会の方です」
奥の部屋に通されると、そこには杖をついた修道女がいた。
「見ない顔だね。私はウルモン。この孤児院を管理している老ぼれさ」
「俺はゲルディット。聖騎士、職位は司教だ。いきなりの訪問、申し訳ない」
ゲルディット、司教だったのか。
実は聞いたことなかったけど、結構偉い人なんだと今更発覚した。
司教に任ぜられるにはただ年齢を重ねるだけではダメだ。
ちゃんと実績的なものも必要になる。
ゲルディットなら実績十分か、とすぐに納得した。
「いやいや、いつでも訪ねてくれていい。それで聖騎士様が何の用だい?」
「いま巷で噂になっている件、ご存知ですか?」
「いや、詳しくは。酷い事件が起きたと。ここは現場から遠い。子供の前で酷い事件の噂話もできないからね。人が死んだとは聞いてるよ」
「ええ、死んだのは……聖騎士のダモン」
「えっ……」
グラスが床に落ちて割れた。
赤毛の女性の手から滑り落ちたものだった。
水でも、とトレーに乗せて持ってきたが、全て落ちて、全て割れてしまった。
「ダモンが……死んだ?」
「……あなたがダモンの恋人……だな?」
赤毛の女性は大きく目を見開き、動揺に足元をふらつかせる。
壁に手をついて、なんとか体を支える。
「ウソ……」
「本当だ」
「そんな……!」
赤毛の女性は口を震える手で覆い、涙を流し始める。
もはや足に力が入らなくて地面に座り込んでしまう。
割れたガラスが足を切ったけれど、それすらも感じていないようであった。




