42狙われた聖職者2
「私は聖騎士志望なの」
「へぇ」
俺は少し驚く。
教会の医療課にでもいそうな穏やかな見た目をしているのに、聖騎士を希望しているのは予想外だった。
「あなたたちは?」
「僕は会計課に」
「俺は聖騎士だ」
「あら、聖騎士なんですか! じゃあ一緒ですね!」
俺の答えを聞いて、クレンシアが手を打ち合わせて嬉しそうな顔をする。
「ご一緒することあるかもしれませんね!」
「……そうだな」
聖騎士の中でも悪魔祓いはちょっと場所違いのようなものだ。
聖騎士は治安維持などの警察業務的なものをやる他に魔物と戦う。
そして悪魔祓いの聖騎士は基本として悪魔と戦うのだ。
悪魔がいれば魔物とも戦うが、普通の聖騎士だと悪魔とはあまり戦わない。
ただの聖騎士同士なら一緒になることもあるだろうが、悪魔祓いになるつもりの俺とは一緒になる可能性は低くなるだろう。
別に見た目が綺麗だからと一緒になりたいと思うわけでもない。
「どうですか? 私たちと一緒に食事でも」
「……そうさせてもらおうか」
クーデンドにも友達は必要だ。
クレンシアの他にも二人、聖都の教会にそのまま勤めそうな見習い聖職者がいる。
悪魔祓いとなれば色々なところに行くことになるが、クーデンドの方は同じところで長く働くことになるだろう。
少しでも顔見知りを作ってやればクーデンドのためになる。
クレンシアの誘いに乗って俺たちは食事を一緒にとることにした。
残りの二人も女の子で、クーデンドはずっとアワアワしていた。
「教会にも女の子いただろ」
「いたけど……やっぱり、都会の子って雰囲気違くて……」
確かにクレンシアを筆頭にきらびやかな感じはある。
けれどそんな緊張することないではないか。
聖都に行ったら都会の人は多いし、お前も都会の人になるんだぞ。
俺は小さくため息をついたのだった。
ーーーーー
「ダモン! なぜ……どうして!」
ダモンの相棒だった聖騎士の悲しい叫びが聞こえてくる。
「うっ……」
「クーデンド、お前は見ない方がいい」
次の日、さっさと出発しようとしていた俺たちのところに悲劇の一報が飛び込んできた。
ゲルディットに呼ばれて共に向かったのは聖都に向かう道に繋がる大通り、町から外へと移り変わる境界近く。
そこには今、凄惨な現場が広がっている。
血で魔法陣のようなものが地面に描かれ、その真ん中に変わり果てた姿のダモンが横たわっている。
血が苦手なクーデンドは真っ青になって、俺も眉をひそめてしまうような状況だった。
そりゃあ、四肢が折れ曲がって、顔面が半分潰れていたら誰でも目を逸らしたくなる。
「悪魔でしょうか?」
「さあな。悪魔の可能性は高い……だが猟奇殺人者かもしれん」
俺の問いかけにゲルディットはぶっきらぼうに答えた。
先日再会を喜んだかつての仲間の姿を見て、ゲルディットは何を思うのか。
「悪魔じゃなくて、こんなことする人いるんですか?」
「時にはな。ヤバく見せるほどに悪魔の仕業だと疑われる。だから偽装のために悪魔がやったように見せかける事件も起こりうる」
血で魔法陣のようなものを描くなんて、どう見たって悪魔がやったように見える。
しかしそれを逆手に取って、悪魔のようなことをする人間も稀にいるのだ。
「……ダモンの幽霊はいないか」
みんながダモンの血で濡れた地面を見ているが、俺は周りの様子を観察していた。
大都市は嫌いだ。
幽霊が多い。
あまりに幽霊が多いとどちらが人で、どちらが幽霊かも分からなくなる時がある。
今も人が集まり、重たい空気渦巻く中で幽霊も集まっていて、普通の人が見えているよりも俺の目には倍の数の人が見えている。
あまりにごちゃごちゃとして気持ち悪くなりそう。
だがそれに耐えて俺はダモンの幽霊を探した。
もし幽霊がいたら、ソコリアンダの時のようにヒントになるかもしれない。
「悪魔の可能性が高そうですけどね」
「まあ、大体は悪魔だろうな」
悪魔のせいだと思わせるほどに、ひどい状況を作り出せる人は多くない。
だから悪魔の可能性が高い。
普通はそう考えるのだけど、俺はダモンの幽霊が見えないから悪魔なんじゃないかと思った。
こんな状態になって幽霊にならない方がおかしい。
なのにいないということは、悪魔に囚われた可能性がある。
「しかし……これはマズイな」
「何が、マズイんでしょうか?」
青い顔をしたクーデンドは人混みで現場を見ないようにしている。
「弱い悪魔はコソコソする。弱いからな。だがこんなふうにアピールする悪魔は自分を過信しているか……」
「強いか、ですね」
「そうだ。悪魔の仕業だとバレてもいい。それもこんな大きな都市で、ということだな」
「ダモンさんは……始まりでしょうか?」
アピールしておいて、あとは逃げるということもないだろう。
だとしたら、ダモンの殺害は悪魔による虐殺の始まりかもしれない。
「さあな。何も分からない。ただいま俺は……ダモンを殺した悪魔を見つけ出して八つ裂きにしてやりたい」
顔は冷静そうに見えているが、剣に添えた手は青筋がくっきりと浮かび上がるほどに柄を握りしめている。
「お前ら、夜間は絶対に一人で出歩くな。昼間でも人通りのない道は避けて、できるなら複数人で動け」
「……分かりました」
悪魔の危険が身近に迫っている。
平穏な都市のどこかに悪魔がいる。
隣の人かもしれない。
あるいは人混みにはおらず、次の狙いを物色しているのかもしれない。
思わず片手を剣にやってしまう。
急に周り全てが、信用できないものになってしまったかのようだ。
見えるものは多いのに、見えない何かが蠢いている。
「教会に戻るぞ。犯人探しのために都市は封鎖されるだろう」
人に紛れて悪魔が逃げるかもしれない。
そうならないように都市の人の出入りは制限されるはずだ。
聖騎士がやってきて野次馬たちに離れるように規制し始めた。
嫌な予感がする。
人も幽霊も多いこの都市で何が起きている?
少なくとも、クーデンドは外に出すべきではないかもしれない。
「いい先輩そうだったのにな……」
知り合ってすぐに先輩を失った。
これが悪魔祓い。
ゲルディットが再会を喜んでいた理由もようやく分かったような気もした。




