41狙われた聖職者1
パシェとも少し打ち解けたが、クーデンドとパシェは打ち解けていないのでヘルムを外すようなことはない。
クーデンドなら別に大丈夫だろうと思うのだけど、パシェ自身が信頼できなきゃしょうがない。
「人が多いね」
「ここまでくればもう聖都も目の前だからな」
旅を続けて、だいぶ聖都も近づいてきた。
まだ到着とはいかないが、旅の終わりも見えてきていた。
比較的大きめな都市にまでやってきて、クーデンドは人通りの多さに驚いている。
今までいた町だって大きいと思っていた。
だがそれよりももっと人が集まる大都市があるのだと思い知った。
ただ聖都なんかになるともっと大きいぞ、と俺は微笑ましくクーデンドのことを見ている。
俺は回帰前の経験があるので、人が多くともそんなに何とも思わない。
だがクーデンドは大きな町と多くの人に圧倒されてしまっている。
パシェは相変わらず寡黙を貫いている。
「早めに教会行くぞ。部屋余ってるといいがな」
「余ってますかね」
聖職者の旅で良いところは教会に泊めてもらえるということだ。
聖職者なら空いている部屋を使わせてもらえる。
ただそれも状況による。
部屋が空いてるなら、使わせてもらえるのだ。
空いていなきゃ使わせてもらえないのは当然のことである。
町は大きい。
大きい町にある教会も当然大きい。
とすると部屋も多く、普通なら泊まらせてもらえるだろう。
ただ今は普通じゃない。
「他の見習いが移動してるからな。空いてるかどうか……」
俺たち以外にも見習い聖職者がいる。
俺たちがいた教会だけでなく、他の教会でも同じように聖職者を育てていて、一斉に配属先に動き出しているのだ。
大きな都市の教会に泊まって、宿代を浮かせようと考える聖職者は多い。
集まってくるもの、あるいはどこかに向かうものが多くいるタイミングに当たってしまうと部屋がないということもある。
ゲルディットは泊まる時には良い宿に泊まるくせに、教会があればちゃっかりと教会に泊まろうとする。
俺として良い宿に泊まれるから文句はないのだけど、ケチなんだか何だか分からないものだった。
「あっ! ゲルディットさん!」
教会に向かっていると、若い四人ほどの男性がゲルディットに声をかけてきた。
「ん? ああ、久しぶりだな」
「どうもお疲れ様です! お仕事の最中ですか?」
白い鎧に胸元には聖騎士の紋章。
名前は知らなくても、教会の聖騎士なことは見ればすぐ分かる。
みんな二十代後半から三十代ぐらいだろうか。
やはり悪魔祓いなだけあって、がっしりとしている。
「子守りの最中だ。特にこいつは、お前らの後輩になる」
ゲルディットが俺の肩に手を乗せる。
「よろしくお願いします」
「聖騎士希望?」
「はい」
「それだけじゃない。悪魔祓いだよ」
「それは良い道を選んだね」
悪魔祓いに進むつもりだと聞いて、四人は感心したような顔をする。
「僕たちも悪魔祓いだ。ゲルディットさんにはお世話になってね。ダモンだ」
「エリシオと申します。悪魔祓いの先輩でしたか」
暗い茶髪の男、ダモンが手を差し出して、俺は握手に応じる。
ゲルディットと親しげに話している時点でその予感もあった。
「聖? それとも魔?」
「聖です」
「聖で悪魔祓いか。勇気があるね」
「悪魔は許せませんので」
「頼もしい後輩だ。僕も聖。聖同士で組むことはないけど……複数人で動くことは多いから一緒になるかもね」
俺がニコリと笑うとダモンも笑顔を浮かべる。
ダモンは良い人そうだなと思った。
悪魔祓いは割と体育会系っぽそうなイメージを抱いていたが、四人とも雰囲気としては柔らかい。
ダモンは俺よりも少し身長が低いけれど、手はゴツゴツとしていて鍛錬を重ねたことがよく分かる。
「お前らも仕事か?」
「都市警備です。ここは多くの人が集まって悪魔にも狙われやすいので」
「ふーん。まあ頑張れよ」
「ありがとうございます。それじゃあ失礼します」
ダモンたち四人は俺たちとは逆方向に向かっていった。
「少し嬉しそうですね」
ゲルディットの機嫌が少し良さそうだ。
どこかそんな感じがするという程度の話だけど。
「ああ、多少は良いな。悪魔祓いは特に……次に会えるかも分からないからな。また仲間に会えるのは嬉しいもんだ」
ゲルディットは目を細めた。
笑っているようにも、少し寂しさを覚えているようにも見えるのだった。
「しかし……悪魔祓いが動くか」
「何かあるんですか?」
「分からん。何もないように派遣されたんだろう。つまりは何か起こるかもしれない、と誰かが考えてるようだな」
「悪魔を呼び寄せる何かが?」
「まあ新入りのうちに聖職者を潰しておこうなんて悪魔の動きもないことはない。さっさと聖都に行ってゆっくり休みたいもんだ」
悪魔祓いが町にいるなら安心だろう。
そのはずなのに、うっすらと不安でも覚えるようなことを言うものだ。
その後、教会に空き部屋があったので、そこに泊まらせてもらうことになった。
ゲルディットの機嫌が悪くならなくてよかった。
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「初めまして、私はクレンシア。あなたたちも聖都に?」
「ああ。あなたたち、ということは君たちも?」
「そうよ。よろしくね」
教会には十人ほど泊まっている聖職者がいた。
そのうちの半分ほどは、俺たちと同じく聖都に向かう聖職者だった。
教会の食堂で、クレンシアという女の子を始めとした他の子と挨拶を交わす。
クレンシアは金髪に碧眼、美形の顔立ちをしている。
いかにも聖職者といった清純な感じもある。
クーデンドなんか顔を赤くしていた。




