31見えないものから1
「その子、全然目を覚まさないね」
「崖から落ちたんだ。生きてるだけでも不思議なぐらいだからな」
俺は少年を背負って歩いていた。
完全に日は昇り、暖かさを感じるようになってきたが、少年は俺の中で寝たままだった。
「村が見えてきたね」
目的としていた村が見える。
なんの特徴もない、本当にただの村。
だが静けさが強い。
大人が数人見えるけれど、何だか雰囲気も暗い。
「デリン!」
そのまま進んでいくと村人の男が俺の背負っていた少年に気づいた。
誰も知らなかったらどうしようかと思っていた。
知っている人がよかったと内心でホッと胸を撫で下ろす。
「この子の知り合いですか?」
「ええ、この村の子ですよ。今、親を呼んできますね!」
村人の男が走っていく。
待っているとすぐに二人の男女を連れて戻ってきた。
「デリン! ああ、よかった!」
少年の名前はデリンというらしい。
デリンの母親は、デリンのことを見て涙ぐむ。
「親御さんですか?」
「そうです!」
「家までこの子を運びますよ」
自分が背負っていないからと良い顔しやがって。
子供といえど、寝ていて体重が全てかかっていると意外と重たい。
俺としては父親にバトンタッチしたかったのに、ゲルディットが勝手なことを言ったので家までデリンを運ぶことになった。
「俺は聖騎士のゲルディットと申します」
「息子を連れてきてくださいましてありがとうございます。数日前から姿が見えず……探していたんです。見つけられず……諦めかけていました」
「数日前から……何があったのですか?」
「実は……他にも子供たちが行方不明で」
聖騎士とはこの世界で一種の警察のような役割も果たしている。
そのためにサラッと聖騎士だと明かすだけでも、一般の人相手ならばある程度の信頼を得られる。
デリンの父親もゲルディットが聖騎士だと聞いて、気まずそうにしながらも正直に話を打ち明け始めた。
「子供が行方不明? なぜですか?」
「それが理由も分からなくて。子供なら勝手に遠出したり、家出するようなこともありますが、複数の子供達が急に帰ってこなくなるなんて……」
「こちらのデリン君は崖の下に倒れていました。怪我をしていて、崖から落ちたようです」
「崖から? どうして……」
「その理由を俺の方が聞きたくて」
どうにも雲行きが怪しい。
そのことに勘づいたゲルディットは話を聞き出そうとする。
「理由と聞かれても……崖は村からも遠いし、危険なので近づくなと……」
「他の子が失踪した理由に心当たりは?」
「そちらの方も……小さな村なので子供もみんな知り合いですが、一斉にいなくなるような理由はありませんよ」
デリンの父親は困り果てた顔をして深いため息をつく。
「最近何か問題が起きたりしたことは?」
「問題なんて……少し前に近くの村で魔物が出たと騒ぎになりました。ですが聖騎士様が倒してくれたと」
「他にトラブルも起きていなければ、子供の行方も分からない。そういうことでよろしいですね?」
「……ええ、そういうことです」
こういう時に真剣に仕事をするのはさすがベテラン聖騎士だ。
俺がすごく嫌な予感がすると伝えたせいもあるのだろうが、聖騎士としての仕事の進め方は参考になる。
相手も堂々としたゲルディットのことを、普段は不真面目そうな男だとは思いもしないだろう。
「他の親御さんに話を聞いても?」
「もちろんです。家を教えましょう」
俺はすでにトラブルだと気づいているが、クーデンドは今になってようやく怪しい雰囲気があることに気づいたような顔をしている。
「これって……何なのかな?」
教えてもらって、行方不明になっている他の子の家に向かう。
クーデンドがこっそりと俺に話しかけてくる。
「十中八九ただの家出ではないだろうな。何かに巻き込まれた可能性が高い」
「何かって……」
「何だと思う?」
俺の中での答えは決まっているが、幽体離脱したデリンの話が根拠の推測を話すわけにもいかない。
「集団家出じゃないなら……人さらい?」
「その可能性もあるな」
悪魔の悪意も世界に存在しているが、人間の悪意も当然存在している。
人を誘拐して売り払うクズ人間も世の中いるのだ。
「まあ、どっちかだろうな。人か、悪魔か」
「……そうか。悪魔の可能性もあるんだね」
誘拐されたという認識は変わらない。
だがその犯人が人なのか、悪魔なのかで事件の性質も変わる。
俺たちは家々を回って話を聞いた。
しかしどこも同じようなことを言うばかりで新たな情報もない。
「あの子が起きてくれれば話を聞くんだがな」
「聖騎士様!」
「ん? あんたは……」
次にどうするべきか。
流石のゲルディットも考え込んでいるとデリンの父親が走ってきた。
何をするのにも情報が足りない。
世界は広く、闇雲に動いてはただ時間のみが消費されてしまう。
人だろうが、悪魔だろうが誘拐されたことはまず間違いなく、時間を無駄にするような動きは避けたい。
「どうかしましたか?」
「デリンが……あの子が目を覚まして。聖騎士様を探しているのです」
「……行ってみようか」
ゲルディットがチラリと俺のことを見て、俺は頷き返す。
デリンの家に向かう。
「いくぞ」
「あぅ……」
「はぁ、ほら」
「……エリシオ、ありがとう」
「時間が惜しい」
「あ、うん」
クーデンドが歩き回って疲れた顔してるので、肩に手を置いて神聖力を流し込んで足を治してやる。
俺のことをクーデンドがうるうるとした目で見るが、男にそんな顔されても嬉しくはない。
今はすぐにでも動けるようにしとかなきゃいけないから特別だ。




