29友の声2
「枝が少ないな」
焚き火の近くに枝が置いてある。
前にきた人が使わなかったものをそのまま置いといてくれたものだ。
ただ枝の量は少なく、一晩持つほどではない。
「近くで集めてこよう。エリシオ、行くぞ」
「へい」
焚き火のための枝を集めるために、俺とゲルディットで近くの森の中に入る。
「何か進展はありますか?」
地面に落ちた乾いた枝を拾い上げて小脇に抱える。
周りには幽霊もおらず、夕暮れの静けさのみが広がっている。
「お前には申し訳ないが、大物は何も。小物はいくらか叩き潰したんだが……ウルアスとメリンダの件以来こちらも慎重にならざるを得なくてな」
ゲルディットは長めの枝を半分に折る。
「父さんと母さんが残したリストには大物も多かったですもんね」
「もう……あんな犠牲を出すわけにはいかないからな」
ウルアスとメリンダは俺の父親と母親の名前だ。
そしてリストとは俺が抱える秘密の一つだった。
ある程度枝を確保した俺とゲルディットは焚き火の跡まで戻ってきた。
火をつけて、枝をくべる。
燃えている焚き火を見つめると、あの日のことを思い出す。
俺が全てを失った日。
雨にさらされながらもまだくすぶる家の燃え跡がまぶたに浮かぶのだ。
「エリシオ? なんか怖い顔してるね」
「……少し昔のことを思い出してたんだ」
床下のスペースから這い出した俺は両親の死を確認した。
途方に暮れたが、ふと床下には俺以外にも何かが置いてあったことを思い出した。
そこにはリストがあった。
「崇拝者及び……悪魔の可能性がある教会関係者のリスト……」
教会は腐ってる。
もはや内部に悪魔を抱えているのだ。
だが悪魔は巧みに隠れて、人の命を弄んでいる。
教会の中に悪魔やその内通者である悪魔の崇拝者がいると疑っていた俺の両親は、そのことを内密に調べていたのだ。
それがバレて殺された。
だから俺は悪魔に復讐を誓った。
腐った教会の中にいる悪魔もその崇拝者も全て殺してやる。
ゲルディットは父さんの仲間だった。
俺のことを保護して、存在を隠してくれた。
リストの存在は後に明かすことになったのだけど、今もリストに載っていた対象者を調査してくれている。
「ほら、焼けたよ」
「ありがと」
携行が簡単なものばかり食べていては味気ない。
少し焚き火で炙ることで、味気ない食事も少しはマシになる。
クーデンドから表面をサクッと焼いたパンを受け取って俺は微笑む。
ここまでの付き合いがあるのだから、クーデンドが悪魔と関わりがないことは分かりきっている。
しかし教会の中には悪魔がいる。
クーデンドが聖都に行っても大丈夫なのか、それが俺は心配だった。
「明日は早いぞ。早めに寝ることだな」
テントでもあればもうちょい快適なのだろう。
だがそんな贅沢品もない。
夜は寝具代わりの厚手のマントを体に巻きつけて、寝るしかない。
泥棒や魔物に襲われないように寝ずに番をする順番を決め、俺は地面に寝転がったのだった。
ーーーーー
『助けて!』
声が聞こえた。
まだ声変わり前の少年のような声。
俺は少し前にパシェに激しく揺り起こされて不寝番をしているところだった。
「どこから聞こえたんだ……?」
声が聞こえた方向が分からなくて、俺は周りをキョロキョロと見回す。
『助けて!』
「うわっ!?」
目の前に少年が現れた。
驚いた俺はバランスを崩して、座っていた丸太から落ちかける。
『お願い……助けて!』
「幽霊か……何をそんなに焦っている?」
うっすらと透ける姿を見て、少年が幽霊だとすぐに理解した。
『あれは……多分悪魔だ! このままじゃみんな食べられちゃう!』
「悪魔だと?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
適当に話を聞いて、成仏でもさせてやろうと思ったけれど俺は少年の話をちゃんと聞いてみることにした。
『ねえ、助けてよ!』
「落ち着け。それにお前……まだ完全に死んでないな?」
少年の体は点滅するように透け感の濃淡が変化している。
これはただの幽霊ではなく、本体がまだ生きていて不安定な状態、いわゆる幽体離脱になっているのだ。
だから意識がハッキリしていて、しっかりと話せる幽霊として目の前にいる。
「幽体離脱してるなら……そんなに遠くにいないはず。お前の本体はどこにいる?」
『僕の……本体……? …………あ、僕は崖から落ちて…………』
俺の問いかけに少年は眉をひそめる。
どうやら記憶がやや混濁しているようだった。
もしかしたら自分が幽体離脱した幽霊だという自覚もないのかもしれない。
「どっちから来た?」
『……多分、あっち』
少年が指差したのは先ほど枝を探した森の方だった。
「ゲルディットさん」
俺はゲルディットのことを起こす。
「なんだ?」
少し肩に触れただけでゲルディットはサッと目を覚ました。
これが本職の悪魔祓い経験者というやつだ。
「すごく嫌な予感がします」
「……久しぶりにそれ聞いたな」
俺の言葉を聞いてゲルディットはため息をついた。
「まだ分かりませんけどね。向こうの森の方、調べてきてもいいですか?」
「俺も行こう。パシェ、起きろ」
「寝る時もそのままなのか」
「お前の前で外すにはもうちょっと信頼を得なきゃな」
ゲルディットはパシェのことを起こす。
パシェは寝る時ですらヘルムを外さない。
体が痛くなりそうだ。




