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18真相1

 悪魔の手が迫っているとしたら、ソコリアンダの遺体をこれ以上保管しておくのも危険だ。

 遺体から得られる情報もない。


 ソコリアンダの遺体を保管することはやめ、お別れの葬儀を開くことに決定した。


「何なんですか! これ以上付き合ってはいられません!」


「お座りください」


「おお、怖い」


 一方で俺たちも捜査を加速させていた。

 教会内の女性が怪しく、外部から見た意見が欲しいと言ってデルクンドの妻を呼び出した。


 腰まである長い髪に、やや派手な顔立ちをしたデルクンドの妻は怒って立ち上がる。


「誰があなたのいうことなんか……」


「パシェ」


「なっ……」

 

 ソコリアンダとの関係を聞かれて、デルクンドの妻は自分が疑われていると気づいたのだ。

 だが魔物騒動のおかげで事態にも時間がなさそうだと悟った俺たちは、多少強行でも捜査を進めることにした。

 

 パシェがドアの前に立つ。

 いまだにパシェの性別ははっきりしないが、デカイことはそのままだ。


 パシェにドアの前に立たれると、普通の女性はなす術もない。


「あなたとソコリアンダ大司教……どんな関係だったのですか? あなたとソコリアンダ大司教が会っていたという話もあります」


 踏み込んだ質問をしたのは、ソコリアンダのことを聞いたら動揺を見せたからだった。

 どいつもこいつも嘘が下手。


 全部隠そうとするから変に動揺が目立つのだ。

 さらに畳み掛けるようにウーリエの目撃証言も突きつける。


「誰にも言わないと約束してくれるかしら?」


「もちろん。この部屋の中の話はこの部屋の中だけに留める」


「……彼に…………迫ったことがあるわ」


「なんだと?」


 肩で息をするように怒りをあらわにしていたデルクンドの妻。

 そして口から飛び出して言葉にゲルディットは眉をひそめた。


「夫のデルクンドは……不能、なのです。ずっとそのことについて悩んできました」


 デルクンドの妻はストンと椅子に座り、観念したように重たくうなだれる。

 不能とは男性的な機能が役に立たないことを言う。


 そういえば前にヒッチと言い争う時にそんな話をしていたな。


「不能なのはわかっていて彼と結婚しました。しかし私も一人の女性……ケンカが多くなって、デルクンドとは仲が悪くなってしまったのです。そんな時にソコリアンダ大司教が相談に乗ってくださいました」


 そこからの流れはメルシッダと似たようなものだ。

 相談に乗ってもらっているうちにソコリアンダに邪な思いを抱き、そして抱かれようとまでした。


 とんでもない話である。

 だけど、娯楽的なものも少ないこの世界では貞淑に過ごすこともまた難しいのは、俺も感じている。


「けれど……彼は私を受け入れてくれなかった」


「拒否されて……殺したんですか?」


「そんなこと……確かに少し恨めしく思ったわ。自分には心を決めた人がいるのだと、答えられた」


 否定するように首を振ったデルクンドの妻は悲しそうな目をしていた。


「どうだ?」


「ドロドロした恨みはありそうですね。勢いがあれば殺すかもしれません」


「またそれか……決定打がないな」


 俺の言葉にゲルディットは深いため息をついた。

 デルクンドの妻を帰し、部屋には三人だけ。


 ゲルディットが聴取の後に俺に意見を求めるのはもはや恒例となっている。


「刺されてもおかしくない男だな」


 ゲルディットは最終的にソコリアンダのことをこう評価した。


「ヒッチの妻もノーワも同じ感じか」


 すでに他の二人にも話を聞いた。

 ヒッチは他の女性にも手を出していた。


 それを不満に思った妻の相談にソコリアンダが乗っていて、最終的にヒッチの妻が一方的にソコリアンダに思いを寄せていた。

 ノーワも仕事が上手くいかないところに、とどこかで聞いた話のようだ。


「周りをよく見ていて相談に乗るのが上手い。だが一方で優しすぎる。女性に気を持たせてしまう」


「ちょっとコツを聞いてみたいものですけどね」


 ソコリアンダは相談に乗っていただけだ。

 しかしよほど相談に乗るのが上手かったのだろう。


 無意識に相手の心に入り込み、好意を持たせてしまったのだ。

 もし仮に意図的にそうしていたのだとしたら、刺されたことに同情の余地もないぐらいだと言っていい。


 四人もの女性を生霊にしてしまうほどの懐の深さだと言い換えられるのかもしれない。


「結局誰なのか特定はできない」


 メルシッダと違うのは、残る三人はソコリアンダに直接アピールを仕掛けていたというところだった。

 だが三人ともソコリアンダに拒否されていた。


 恨むような理由がある。

 だが一方で三人ともヤバさを感じさせるほどに深い負の感情をあらわにはしなかった。


 三人誰でもやりそうだし、三人ともやらなそう。

 そんな微妙なラインに収まっている。


「もしかしたら、四人とも違うのかもしれませんね」


 何というか。

 ドロドロが足りない感じがする。


 四人も集まると雰囲気が悪くてドロドロしてるように見えたが、一人一人ピックアップすると意外と愛憎の憎が強くない。


「ここに来てか? ……ソコリアンダがモテない男だったら楽だったのにな」


「あっ、ズルい」


「今日の仕事は終わりだ」


 ゲルディットは立ち上がると懐から小瓶を取り出してグッと口に含む。

 ふうとため息つくとお酒の匂いが部屋に広がる。


「もうこうなったら本人に聞くしかないですかね」


「本人? ソコリアンダにか?」


「そうです」


「死人からどうやって聞く? そもそも聞けるなら聞いてる」


「……まっ、見ててくださいよ」


 俺は部屋を出ていく。


「パシェ、ついていくな」


 二人で動け。

 ゲルディットに言われたことを守ろうとしてついてこようとするパシェをゲルディットが止める。


「何かするつもりなら、させてやろう。そのためにあいつを引き込んだ」


 ゲルディットはふっと笑う。


「お前もいるか? ……そうか。あいつがああやって動き出した時は、何かが動くんだ」


 酒の入った小瓶を差し出すゲルディットにパシェは小さく横に首を振ったのだった。


「俺たちに見えないものを見てる。そんな感じがするのさ」


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