108強い男
「どうも」
「ああ、エリシオ……さん」
「呼び捨てでいいですよ。これまで通り」
俺は教会に入院しているプニマッツのところを訪れた。
神聖力で傷は治したが、腹を刺されたのだから少しの間は安静にしていなきゃいけない。
「調子はどうですか?」
「もう体調は問題ないよ」
体は問題なさそうだ。
しかしプニマッツはどこか気落ちしたようにも見える。
「やっぱりショックですか?」
「……少し、な」
二年も一緒に働いていた。
しかも同じ教会にいたというだけでなく、嫌われていて狭い焼却場で共に過ごしていた関係だった。
よほど嫌いあっていない限りは多少の情は生まれてしまう。
寡黙なプニマッツだってマーデルのことは仲間だと思っていた。
特に共に足も悪いなんていう共通点もある。
それなのにマーデルは悪魔崇拝者であり、逃げる時にはプニマッツのことをナイフで刺しもした。
ショックなのは少しどころじゃない。
「全く気づかなかった。エダモスディが悪魔なこと、死体を盗んでいたこと、マーデルが悪魔崇拝者だったこと……」
もう一つ、プニマッツは元聖騎士だ。
近くに悪魔崇拝者がいて、職場が悪魔のための死体供給場となっていたことにもまたショックを受けている。
「確かに何も気づけなかったですね」
「笑ってくれ」
「笑いはしませんよ。気づけなかったけど……ちゃんとあなたは聖騎士だった」
どこかに気づくチャンスはあったのかもしれない。
しかし疑いの目で見ているわけでもないなら、気づけなくてもしょうがないだろう。
「どういうことだ?」
「あなたをあそこに紹介したのはエダモスディです」
「悪魔が自分の領域に聖騎士を置くなんてそんなことすると思いますか?」
「……いいや、何でだろうな」
プニマッツは険しい顔をして肩をすくめる。
「プニマッツさんを引き込むつもりだったんですよ」
「俺を?」
「足を怪我して一線を退いた聖騎士……悪魔がいかにも弱みにつけ込みそうじゃないですか」
実際マーデル一人では仕事が大変だったという側面はある。
しかしプニマッツを選んだのは、仲間に引き込めそうだったから。
体を悪くして聖騎士として戦えなくなった。
マーデルに境遇も近い。
弱みにつけ込んで、仲間として引き入れることができそうだと思われていたのだ。
「そんな誘いを受けたことはない」
「そうですよ。そこが誤算だったんです」
プニマッツは眉をひそめるが、俺は思わず笑ってしまう。
「プニマッツさんは腐らなかったんです。だから誘えなかった」
二年間かけてマーデルもプニマッツと仲良くなった。
けれども悪魔に手を貸すほどプニマッツは弱さを見せるようなことがなかった。
結局最後まで悪魔に手を貸せと誘う隙がなかったのである。
「立派な聖騎士ですね」
「…………そうか」
たとえ聖騎士として戦うことができなくともプニマッツは崇高な精神の持ち主だった。
調査上二年前、プニマッツが来た時期ぐらいからエダモスディの行動は目立ち始めている。
ただ実はそれより前からエダモスディは成りすましていて、マーデルも手を貸していた。
プニマッツが来て真面目に働き、弱みを見せなかったことで死体の供給が滞るようになった。
そのせいでエダモスディが苛立ち始めて、綻びが生まれてきたのだ。
「プニマッツさんの悪魔にも揺らがない精神が、悪魔を見つけるきっかけとなったんです」
俺の言葉にプニマッツは目を丸くする。
「……そうか。そうだったのか」
「助かりました」
「いや、実際倒したのは君たちだ。感謝するのは俺の方だ」
プニマッツは涙ぐみながら俺のことを見る。
少しはプニマッツの気持ちも軽くなっただろうか。
「お礼は受け取っておきます。結構大変だったんで」
「血だらけの君を見て驚いたよ。悪魔祓いだったことにもね」
「ああ、悪魔祓いなことは秘密なんで、お願いしますね」
俺がウインクしてみせると、プニマッツは微笑んで頷く。
「これからもあの仕事を続けるんですか?」
「ああ、俺がやらずに誰がやる? 今も死体は溜まっていっている」
プニマッツは焼却係の仕事をこれからも続けていくようだ。
「……頑張ってください」
「君がいなくなるのは痛手だな」
プニマッツが仕事をしてくれるなら、今後は死体が利用されるようなこともないだろう。
俺とプニマッツはどちらともなく手を出して握手する。
死体を燃やすのも悪魔を倒すのも大変な仕事だ。
だけど強い心を持って真剣に立ち向かえば、決して折れることはない。
「それじゃあ」
「ああ、悪魔祓いは大変だな」
俺はプニマッツの病室を出ていく。
しばらくは教会からプニマッツの方にも手伝いを出してくれるらしい。
また煙突に集まる幽霊が出てくるのかなと思うと、俺は少しだけ微妙な気分になるのだった。




