102裏切り者2
「そんなことで俺を疑ったのか?」
どうにも状況証拠だけ認めるほど甘くもないようだ。
プニマッツは複雑そうな顔をして状況を見守っている。
単に動けないだけかもしれないが、うるさく口を出してこないのなら放っておく。
「じゃあ……こんなのはどうですか?」
俺は自分の荷物を漁る。
「死体袋……?」
取り出したのは、死体を入れる大きな麻袋だった。
「これがどうした? 買おうと思えばそこらでも……」
「これが見つかったのは悪魔のところで、です」
「なんだと?」
先日死体を持っていた魔物を追跡して、エダモスディが魔物を作っている拠点を見つけた。
エダモスディが去った後、中をこっそりと捜索して死体袋の山を見つけていたのだった。
「古びた血がついた死体袋ですよ」
袋の真ん中には黒ずんだシミがある。
それは古い血の痕跡。
最近使われた死体袋ではない。
「…………どこかで盗まれたのかもしれないな」
これでもまだ言い逃れする。
「じゃあこれは?」
俺は袋を裏返す。
「これとは?」
裏返したところに血の痕跡はない。
これは? と聞かれても何を指しているのか分からないというような顔をされる。
「ここですよ」
俺は袋の隅を指差す。
「なんだ? 何か書いてある?」
袋の隅には何か黒い文字のようなものがある。
「死体袋の中身なんて誰も気にしません。死体を詰めて、ここまで運んで終わり。ただ……どこにでもバカ真面目な人はいる」
俺は座っているマーデルの前に袋を放り投げる。
「書いてあるのは日付と名前。死体の名前と届けた日をわざわざ袋に書いておくような人がいるんです」
教会ごとに多少ルールが違うのはどうしても仕方ない。
俺がここに来るよりも前、およそ半年ほど前に他の教会から近くの町にある教会に聖職者が異動してきた。
以前いた教会では死体袋に死体を入れた日付と死体の名前を書き込んでおくことが普通だったので、異動してからも袋に情報を書き込んでいたのだ。
「死体は盗まれたものじゃない。全部ちゃんとここに運び込まれたものですよ」
袋に情報を書き込んだ当人にもすでに話を聞いてある。
「あなたに死体を引き渡したと言質はとってあります」
「そんな……」
死体はちゃんとマーデルが受け取っていた。
他に運ばれた死体は置き場所になかったはずなのに、運び込まれた死体分全ての袋がエダモスディの拠点で見つかった。
プニマッツは言葉を失ったように青い顔をしている。
まあ、二年も働いた同僚が悪魔崇拝者だったらショックだろう。
「死体を一つも処理しない間に全部盗まれちゃったんですか? それで騒ぎもせず、問題にもせず、放っておいたんですか?」
ちゃんとコチラだって証拠を用意している。
どうして悪魔のところに死体袋があったのか。
この矛盾を説明できるはずがない。
マーデルの杖を持つ手が震えている。
うつむいているために顔は見えないが、先ほどまでよりマーデルの姿は小さく見えた。
『どうして……』
「それに……あんた憑かれてるよ」
「つかれてる?」
幽霊を減らしてみて、一つ分かったことがある。
マーデルには幽霊が取り憑いている。
死体を処理する俺たちに対して、幽霊は別に恨みは抱かない。
何かの悪意を向けることもないので、取り憑いたりするような心配はなかった。
だが、マーデルには何体かの幽霊がまとわりついている。
幽霊が多くいた時には気づかなかったのだ。
『なぜ俺を魔物にした……』
「そいつらが言うのさ。俺たちの死体を悪魔に引き渡したってな」
「何を……」
死体を悪魔によって魔物にされた恨みが、マーデルに向かっている。
どうにか悪魔の手から逃れた幽霊が、マーデルの非道な行いを訴えかけている。
魔物と戦おうとし、幽霊が恨みを抱いていないプニマッツは悪魔崇拝者ではない。
だがマーデルは悪魔に魂を売り払い、悪魔に死体を引き渡していた。
たとえ確証となる証拠がなかったとしても、俺はマーデルのことを斬っただろう。
一度でも悪魔に魂を売り渡したものはもはや戻ることはできない。
恨みに囚われた幽霊たちが救われるには、マーデルを断罪するしかないのだ。
「まあ、言い訳は教会の審問官相手にしてください」
ひとまずマーデルを逮捕するだけの証拠は得られている。
それなら俺が手を汚すこともない。
「ほ、本当なんですか、マーデルさん?」
プニマッツは驚愕した顔をしてマーデルのことを見ている。
一方でマーデルは証拠となった死体袋に視線を落としたまま反応はない。
饒舌に返事をしていたのに、今はもう何もいうことがないようだ。
「今頃エダモスディの方にも悪魔祓いが……」
俺と時を同じくして、タランたちはエダモスディの討伐を行なっているはずだ。
参加できないのは残念だが、今回はこういう役回りだからしょうがない。
「なんだ?」
嫌なものを感じた。
窓の外に見える幽霊たちがざわめいている。
「……何かが…………くる」




