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こつこつ  作者: RenneЯ
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某年六月十五日、深夜

 某年六月十五日 深夜

 まだ初夏に差し掛かろうかという時期にも関わらず、記録的な猛暑に見舞われた田舎街。

 この街ーー仮に芦無(あしない)市とするーーでは、所謂盛り場と呼ばれるような、若者が集う繁華街ですらかつての喧騒は鳴りを顰め、今やシャッターの降りたテナントが立ち並ぶ、見る人が見ればゴーストタウンと見紛う程の閑散とした風景に成り果てていた。

 道を照らす街灯は、まばらに誰も居ないアスファルトを睨め付けるだけで、時折点滅する姿が、却ってこの街の時間がまだ動いている事を辛うじて知らせてくれる。

 無機質な静寂に包まれたこのシャッター街を、時折通りがかる人影が残す、こつこつ、という靴音だけが、生きた人の存在を示す、数少ないの足掛かりと言えた。

 

 そんな寂れた芦無住民の一人、春原(すのはら)真也(しんや)は、珍しく取れた有給を、この記録的猛暑による無気力に潰され、不貞腐れていた。

 そうは言っても、比較的湿度が高くなりがちな盆地に位置するこの街の猛暑は、観測気温三十六度の数値からはかり知れない過酷さを人体にもたらす。

 彼もまたこの異常気象の犠牲者に過ぎず、本来楽しむはずだったレジャーを切り捨てて身の安全を優先する羽目になっているのだ。

 ……キャンセル料もバカにならんし、やってられんよ全く。

 そう心中で独り言ちる彼の額には、粒のような汗が滴り落ちており、べったりと背中に張り付いたシャツも合わさって、今夏の過酷さを物語っている。

 本来であれば今頃、街外れのキャンプ場へ赴き、初夏の夜空を背景にビールとでも洒落込んでいたところで、この仕打ちだ。

 やり場のない憤りをぶつける様に、用意していた缶ビールを開けながら受ける扇風機の風は、無常にも彼へぬるま湯の様にまとわり付き、言いようのない気持ち悪さを感じさせていた。

 背中をぬらっと滑り落ちる汗の不快感を振り払うように、またビールへ口を付け、中身が空になっていることに気付く。

 溜息をつきながら、さてもう一本開けるかと、冷蔵庫へ立とうと思い立ったその時。


 ーーこつ、こつ


 ふと、何か硬い靴音が耳元をよぎった気がして、周囲を見渡す。

 ここは一人暮らしのアパート、それも3階の部屋だ。とっくに天辺を回ったこの時間に、しかもこの暑さでわざわざ外に出ようなどという、奇特な住民が居るとも思えず、意識の外へ追いやる。

 本来の目的へ戻ろうと切り替えて、再度冷蔵庫へ意識を向けかけた瞬間だった。


 ーーガガガガ、ガガガガ


 室内で鳴り響いたけたたましい音に、背筋が凍る。

 見ると、テーブルに置きっぱなしたスマートフォンが振動し、何がしかを知らせている様子。

 ……なんだ、ビックリさせやがる。

 この暑さの中で一瞬、薄ら寒さすら覚えた彼だったが、ほっと胸を撫で下ろし、スマートフォンを手に取る。

 こんな真夜中に、一体誰が何の用でと思わなくもないが、この小さな端末を通して、自分以外の誰かの息遣いを感じられたようで、気がつけばその安心感に任せて指先を画面に添えていた。

 見れば、画面にはたった一行の通知。


 【SNS 1件の通知】

 「こつこつ」さんがあなたのプロフィールを閲覧しました。


 全く身に覚えの無いアカウント名であるにも関わらず、まるで虫が背骨を這い登るような悪寒に見舞われ、ついスマートフォンを取り落としかける。

 何年も前にアカウントを作ってから、ろくに投稿もしていないSNSであり、誰かがプロフィールを閲覧することなど、これまで片手で数えられるほどしか無い。しかも、その全てがプライベートの知人だ。

 先程までとはまるで質の違う汗が、額から滑り落ちるのを感じながら、震える手で、そのアカウントのページを開く。


 真っ黒だった。


 アイコンにトップ画像、画面に配置される、ありとあらゆるものが黒で埋め尽くされている。

 投稿も無く、フォローもフォロワーも皆無、プロフィール欄も空白の、そのアカウントページで唯一、ログイン時刻だけが点滅している。


 「たった今」

読んで頂きありがとうございます。


連載形式としてますが、実は書き溜め無しの、書き立てホヤホヤ。

が、頑張って完走します。

気に入って下さった方、続きが気になるという方は、感想など頂けますと、泣いて喜びます。

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