↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―  作者: 柊梟環
EVOLVE Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―
PR
9/17

第5章 凍てつく静けさ ― 鷺沼の夜 ―

理性という鎧に身を包む鷺沼(さぎぬま)。

しかし、環(たまき)と凪(なぎ)、柊(しゅう)の姿が胸に残り、

夜の静けさが彼の孤独をあらわにしていく。

会議を終えた鷺沼(さぎぬま)は、

静まり返ったオフィスの椅子にひとり腰を下ろしていた。


資料の束を閉じても、

あの声が、耳の奥に残っている。


“完全じゃなくても大丈夫”

“やさしい仕組み”


――あの女性(環(たまき))の言葉。

  そして、あの青年(凪(なぎ))の柔らかい理屈。


どちらも間違ってはいない。

だが、正しいとも言い切れない。


鷺沼(さぎぬま)にとって、それは理屈の外にある“余白”のようだった。


余白は、恐ろしい。


そこには不確定があり、曖昧(あいまい)があり、

彼のように生きてきた者には、何よりも嫌うべき「隙(すき)」だった。


――“隙(すき)を許せば、すべてが崩れる”。


それが鷺沼(さぎぬま)蓮(れん)という人間の、

長年の信念であり、鎧(よろい)だった。


しかし、頭の中では何度も同じ場面が再生される。


凪(なぎ)の笑顔。

環(たまき)のためらいながらもまっすぐな声。

そして、彼らを包む如月(きさらぎ)柊(しゅう)の穏やかな眼差し。


思い出すたび、胸の奥で

“音のしない揺れ”が生まれる。


「くだらない。」


独り言のように呟(つぶや)き、

ペンを強く握りしめた。


手の甲に浮かんだ血管が、

そのまま理性の線のように見えた。


――自分は間違っていない。


正しいことをしている。

正しい仕組みを作ることが、人を救う。


そう言い聞かせるたびに、

心の奥で何かが軋む音がした。


視界の端に、

モニターの隅で光るメッセージ通知が見えた。



 差出人:永峰(ながみね)凌(りょう)



本文は短い一文だった。



□□□


 『明日のレビュー、灯(あかり)さんがリモートで入ります。』


□□□



――また、あの人たちか。


鷺沼(さぎぬま)は息を吐き、

椅子を回転させて窓の外を見た。


夜の街が、静かに瞬いている。


それはまるで、どこか遠くで

“やさしい光”がまだ消えずにいるように見えた。

完璧を求めるほど、人は孤独になる。

その事実に、彼はまだ気づけない。

けれど決して消えない“やさしい光”だけは、胸の奥で確かに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。