第4章 やわらかな証明、やさしい光(前編)
第九工程で見えはじめた、“柔軟な設計”の意味。
凪の理屈と環の声が、鷺沼の理性にさらなる揺らぎを生む。
それは、心に届く“証明”だった。
プロジェクトは第九工程へ。
凪が設計した新しいアルゴリズムは、
複雑な条件を一瞬で処理しながらも、どこか“やさしさ”を感じさせた。
「……これ、前より柔軟ですね。」
会議の最中、鷺沼が小さく呟いた。
凪は少し笑って答えた。
「はい。でも、最初に“柔軟すぎる”って言われた案を、もう一度見直してみたんです。
“想定外を想定に入れる”ほうが、結果的に安定するんですよ。」
その言葉に、会議室が一瞬静まる。
鷺沼は資料をめくりながら言葉を探した。
「……理屈としては理解できます。
ですが、それではエラーが拾いきれない可能性もある。」
凪は頷いた。
「そうですね。でも、“拾いきれないことがある”って、
最初から知っている仕組みのほうが、
人は安心して使えると思うんです。」
理屈じゃなく、実感で話す声。
それが鷺沼の心をわずかに刺した。
環が小さくうなずいて、そっと口を開く。
「……凪くんの言うとおりかもしれません。
人もシステムも、どこかで誰かに支えられて動いてる。
だから、“完全じゃなくても大丈夫”って思えるのは、
優しい仕組みだと思うんです。」
その言葉に、鷺沼は一瞬だけ視線を上げた。
環の声は小さく、震えていた。
けれど、その震えがまっすぐ届いてくる。
沈黙が落ちる。
鷺沼は何も言わずに資料を閉じ、短く息を吐いた。
「……次回、その設計でテストを進めましょう。」
わずかに声が揺れていた。
それに気づいたのは、環と凪だけだった。
◇◇◇
― 鷺沼・内心 ―
“完全じゃなくても大丈夫”。
――そんな言葉、信じられるはずがない。
だが、あのときの環の声は、
どこまでもまっすぐで、
自分が何を守ろうとしてきたのかを一瞬見失わせた。
理性がまた、静かに軋んだ。
環の震えた声は、誰かを責めるためのものではなく、
誰かに寄り添うための言葉だった。
そのやわらかさが、鷺沼の胸に深く残った。




