表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―  作者: 柊梟環
EVOLVE Season5 ― 心が動く瞬間(とき)―
12/17

第7章 亀裂の記憶 ― 理性の迷路 ―(後編)

心の奥に残るノイズ。

拒絶できない違和感が、鷺沼を眠らせない。

灯の笑顔が、なぜか胸を締めつけていく。

夜が深く沈んでいく。

デスクの上のモニターは、スリープに入りそうで入らないまま、

青白い光を放ち続けていた。


鷺沼さぎぬまは背もたれにもたれ、天井を見上げた。

頭の奥で、誰かの声が響く。


 > 「エラーを減らすより、人を守る仕組みにしたい」

 > 「どちらかが使えなくなっても、それは終わりじゃない」


静かなのに、どこかやさしい声。

そのやさしさが、いちばん厄介だった。


理屈で説明できないものを、どうやって理解しろというのか。

理解できないのに、拒絶もできない。

まるで心の奥に、微細なノイズが走り続けているようだった。


――俺は、正しい。

   完璧であることが、正しい。

   理論で導ける答えこそが、唯一の道だ。


それなのに、なぜだ。

あの青年のコードを見たとき、

あの女性の声を聞いたとき、

なぜ、胸の奥が少しだけあたたかくなる?


(くだらない。情など、無駄だ。)


そう吐き捨てても、

心の奥では、まだ消えない光がちらついていた。


ふと、鷺沼は手を止めた。

モニターに映った自分の顔が、どこか疲れて見えた。


(……いつからだろうな。)


効率、結果、正確さ。

それだけを追いかけてきたはずなのに、

いつの間にか「人」を置き去りにしていた気がした。


彼の脳裏に、あかりの笑顔が浮かぶ。

あの女性は、左手が動かないというのに、

不思議なほど穏やかだった。

あの笑顔のどこに、そんな余裕がある?


 > 「私はね、神様に選ばれたと思ってるの。」


その言葉を思い出した瞬間、

心の中で何かが静かに弾けた。


(神様に、選ばれた……?)


では、自分は選ばれなかったのか。

努力して、完璧を積み上げてきた自分は、

何のためにここにいる?


理性がざわつき、

胸の奥で軋む音がした。


――くだらない。

  そんな感情は、俺には必要ない。


そう思った。

だが、もう完全には信じきれなかった。


夜の街の灯が、窓の外で滲んで見える。

その光の向こうに、

誰かのやさしい声がまだ残っている気がした。

「人は常に正確ではない」――

その事実を受け入れられたとき、

鷺沼の世界は静かに広がりはじめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ