11/17
第7章 亀裂の記憶 ― 理性の迷路 ―(前編)
灯が語る“選ばれた意味”。
その言葉は鷺沼の理性をかき乱し、
心の奥の氷を溶かしはじめる。
深夜。
デスクの上に積まれた設計図が、
白い光に照らされて静かに輝いている。
鷺沼は目を閉じても、
灯の声、凪の言葉、環の表情が次々と脳裏に浮かんできた。
「人の誤差は、不具合じゃない」
「今できることを使いたい」
「……神様が選んだ」
どの言葉も、理屈ではなく心に残る。
そして、理屈では説明できないものほど、
彼の中で何度も反響して消えない。
――俺は、間違っていない。
――正しい道を歩いている。
――迷う必要など、ない。
言葉に出すたびに、
まるで自分に呪文をかけるようだった。
しかし、パソコンのモニターに映る凪の設計書を見ると、
自分の論理にはない“柔らかさ”がそこにあった。
人を拒まず、曖昧さを受け入れる構造。
完璧ではない。だが、壊れない。
(……なぜだ。)
頭の中をぐるぐると、理屈が回り続ける。
心が眠れず、夜がただ静かに流れていく。
「選ばれた」という言葉を否定しながら、
鷺沼は自分の中に一度も感じたことのない温度に気づく。
静かなひび割れは、やがて大きな光へとつながる。




