武家の異端児は姉に遭遇する2
「へ、ヘレナ姉さんお帰りなさい……」
「はい、ただいまぁ」
ヘレナ・レーヴェン。
レーヴェン家の長女にして、唯一の女系。
彼女に関して、俺が持ちうる情報は少ない。
王都でも屈指の魔導士である事と、身長180㎝越えの巨女であることの二点だけ。
姉さんを始めとした兄弟達は、多忙で屋敷にいる事の方が珍しいため、風の噂程度の情報しか入ってこないのだ。
ただ、『色々ぶっ飛んだ人』というのは聞いている。
普段の生活の中で、何かと姉弟に関する噂話が聞こえてくるからだ。
この前聞いたのは、姉さんが単騎で敵の軍勢を壊滅させたという話。
しかし、今まさに対峙している本人からはそんな気配は全くしない。
糸目でイマイチ表情を読み取りずらいというのもあるだろうが、彼女の口調や態度からは温和な雰囲気を感じる。
「それより姉さんはどうやってここに?王都にいたんじゃなかったの?」
「魔法で来たのよぉー♡」
簡単に言うけど王都から屋敷まで半日はかかるんだぞ!?
それをこんな一瞬でどうやって移動したんだ、もしかして転移魔法ってヤツか?
姉さんをよく見てみると髪や服、主に下半身の部分に集中して植物の葉がくっついている。
転移ならこういうゴミは付かなそうだけど、もしかして走って来たのだろうか。
いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。
俺の態度によっては、魔石の確保が困難になる可能性が高くなるかもしれない。
「あの姉さん、この魔石だけど……」
「良いわよぉ、あげるわ。使い道無かったし」
あっさり……。
恐る恐る切り出した俺に姉さんはぶっきらぼうに答えた。
(姉さんは俺が泥棒に入った事に怒っていない?てっきり罰を与えるために帰って来たのかと思ってたのに……)
ふと姉さんを見ると、彼女は転がっている魔石よりゴーレムの方に注目しているようだ。
そして口を開く。
「このゴーレムはアレスが作ったのぉ?」
「はい。今日初めて作ったのでまだまだ荒い所はありますけど……」
その時、姉さんの眉毛がピクリと動いた気がした。
彼女はそのままゴーレムを立たせると、何かぶつぶつ言いながらゴーレムを物色し始めた。
ぺてぺた触ったり、腕を動かして見たりと念入りにゴーレムを調べている。
そしてそれが一段落すると、俺に向き直った。
「さっき初めてって言ったけど、誰かに教わったのかしら?」
「いえ、蔵書庫から持ち出した魔導書を参考にしただけです。これはまだ試作品で、これから構造をもっと練り上げたものを作るつもりです」
「(初めてでクオリティの高さ……。しかもさらにレベルアップを図っている)」
姉さんは顎に手を当て、またぶつぶつと独り言を始めた。
ゴーレムの構造に何か間違いがあったのだろうか。
姉さんは王国でも5本の指に入る魔導士と聞く。
魔法に関しては厳しい目を持っていてもおかしくなさそうだ。
もし何か言われても貴重な意見として今後の参考にしよう!
「アレス。魔石を譲る代わりに条件を出すって言ったらどうするぅ?」
姉さんの口から放たれたのはゴーレムに関する指摘ではなく、交渉だった。
彼女は依然変わらず、努めて温和に俺にどうするか問いてる。
しかしそこには妙な迫力もあり、妙な緊張感が水滴となって頬を伝う。
「条件……ですか?勿論飲みますよ!何でも来いです!」
精一杯の見え切り。
だがこれでいい。
魔石を手に入れた先に夢の続きが待っているのなら、手段は選んでいられない。
どんな雑用でも受け入れる所存だ。
俺の返答に姉さんはにっこり微笑むとこう言った。
「お姉ちゃんとデートしましょう」




