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人類第五進化論  作者: 蚕糸暁
前書き
1/11

令和■年■■月■日_日本医療研究大学付属病院にて

◆地下研究室にて

「日本における最古の疫病に関わる記録は古事記、或いは日本書紀にまで遡る。


初代天皇である神武(じんむ)天皇が即位するまでの間、我々は八百万の神々の支配の下で生きていた。当時、少彦名命(すくなひこなのみこと)と云う神が全土を巡っては知恵の遅れた我々に薬草による治療法を言い広めていたのだと云う。我々の内、誰かが疫病に(かか)ると真っ先に神への祈祷(きとう)を以て神霊を調合し薬物を服用する。土着信仰の強い儀式ではあるが、その医薬知識と云うのがなかなかのモノで、桃や葡萄(ぶどう)を始め現代でこそ薬効を認める植物が多数使われていた。


時に我々は無意識下に知覚できない神や霊等を盲信している者を無条件に見下す傾向にないだろうか。例えば先に挙げた神への祈祷を医療行為として行っていた者、或いは厄災の度に神の怒りを鎮める為と称し人を(にえ)にする人身御供(ひとみごくう)と呼ばれる風習。神に祈れば疫病は治るか。もし治るのであれば世に蔓延(はびこ)神々は一体なんだ。医学的効力がないから新たな神が次々と生まれているのだろ。贄もそうだ。人を焼き殺し、崖から突き落としたとて災害が収まる道理はない。医学的見地でなくとも愚行だ。神だの霊を崇拝したが故に無意味に死んでいた者が何人いる、と凡人なら考えるだろうが面白くなるのは此処からだ。


彼らの行動もその端にまで遡れば現代を生きる我々から見ても実に理に適う事がある。先に挙げた贄の話、確かに先人は神の怒りを本気で鎮めようと断腸の想いで家族を贄に出したのだろう。当然、そんな事をしても災害は収まりはしない。が、不思議な事に災害における被害は減らす事ができる。タネはこうだ。災害が起これば当然、畑も住む家も荒れて喰って寝るのもままならない、それも突然に起こる。備えがあればわざわざ人を贄に出したりしないだろ。嵐が来た、住む家もあって冬を越えるだけの食糧もある。そんな中で誰がわざわざ好き好んで人を捧げようとする。自分の家族が贄になるかも知れんと云うのに。と言いたいところだが、我々人間の中にはどんな状況であろうが神の怒りを鎮める為と人を捧げる阿呆もいる。私の苦手なタイプだ。真面目で融通の利かない堅物な奴ら……脱線したな。所で君は人身御供で使われる人間がどんなものか知っているか。その多くが子供、或いは女。つまり間引きだ。確かに人を捧げても災害は収まらない。だがその後はどうだ。我々が生きていくには喰うモノがなければならない。だが、限りがある。西部劇では女、子供には温情を与え生かす事もあるが災害時では勝手が違う。食料の確保、村の復興を最小限の食糧消費で行わなければならない。そこで女は兎も角子供は役に立たないまさに穀潰し。男尊女卑と云う価値観も相まって神を崇拝している彼らに人身御供と云う風習は、まさに人類存続の為の間引きの口実に最適という訳だ……


君ならもっと面白い話にできたのだろうな。残念ながら私には君のような文才がない。が、そんな事は今の私にとってはどうでも良い事なのだよ。何処で、誰が、何を叫ぼうが、或いは死のうが知った事ではない。私は遂に実現させたのだよ。進化だ。人間は遂に新たな領域へ進化することができるようになったのだ。進化論? はっ、私が言っているのはそんな底の知れた戯言などでは断じてない。アレはまさに私が想像していた通りだ……神は私だ。私なのだよ。がはははっ、興奮が収まらない。今日、君を此処に呼んだのは他でもない。アレを見せてやりたかったからだ。では行こう。

早速行こうではないか、暁君。彼女の行き着く先をな」

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