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第9話 氷結の妖精

 ゴブリンが取り囲んでいたその場所には一人の青髪の少女がいた。何故か全裸である。

 その少女は体の「タイセツなブブン」を何とか手で覆い隠し、彼女の美しい瞳からは涙が流れていた。


「おい、エメル。大丈夫か。俺、誘惑させちゃうんじゃ……」

「いや、大丈夫です。彼女は見た感じ、妖精霊族の一種、妖精族です。妖精霊族は基本的に人族相手に欲情はしません。(交尾は可能ですが)その為、龍弥様の能力スキルも私や彼女には基本、効果しないのです」

「なるほど」


 なかなかに分かりやすい解説だ。


「なら、安全だな」


 俺はそう言いながら、少女に近づいた。


「あ……あの……」

「ん?どうした?」

「あの、見ないでください!!」


 少女はそう言いながら、俺から離れ、身を覆い隠し、ケダモノを見るかのような目で俺を睨んだ。


「エメル……どうしよう、魅了するどころか、完全に嫌われちゃったよ」

「本気で落ち込んでますね、龍弥様」


 正直、特殊能力チートスキルが手に入ったことから、こんなくだりはもうないかと思っていたよ。

 そんな感じで少女の反応に少しばかり心の傷を受けたのであるが、これほどの傷、無理やり襲われて、犯されて、殺されそうになったことに比べれば、屁でもない。


「とにかく、服を生成して、着せましょうか」


 そう言って、エメルは軽々と自身の魔法で真っ白な服を生み出した。

 正直、言って地味である。


「お前、ファッションとか興味ないのか?」

「逆に龍弥様はあるのですか?」


 まぁ、あると言ったら、嘘になるけど。


「でも、これは流石に地味すぎないか?」

「妖精霊族はこういう服が好きな人が多いんですよ」


 なるほど、種族によって、ファッションの趣味も違うようだ。そんな情報は知らないな……。

 実は作中で度々ある俺の読書であるが、書かれているシーン以外にも色々と俺はこの世界の本を読んでいるのだ。少しでも、この世界の常識を覚えておきたいからな。しかし、そんなことはどこにも書かれていなかったな。

 まぁ、ファッションなんて、前世でもここでも、全く興味なんてなかったから、書かれていても、読んでいなかったと思うが。


*****


 着衣が完了した少女にとりあえず、話してみることにした。


「君、名前は?」

「…………………………」


 少女は口を開かない。黙って、冷酷な目で俺を見ていた、

 その目、傷つくなぁ~。


 それにしても、冷たすぎる。冷たい目線だけで、触覚まで冷たく感じるものかね。

 皮膚が冷たすぎて、凍えそうだ。


「龍弥様!龍弥様!(小さい声)」


 何故か、エメルの声が小さい。耳打ちしているわけじゃないのだから、もうちょっと声を出せばいいのに。


「龍弥様!凍ってる!凍ってる!(小さい声)」


 凍ってる?確かに、凍えるように寒い。冷たい。

 しかし、さっきから、何故、彼女は弱の火炎魔法を放っているのだろうか。


「本当に凍ってますよー!(小さい声)」

「ふっ、滑稽ね(小さい声)」


 なんだ、「滑稽」とは、この女……。別にロリコンというわけでないが、襲ってやろうか。俺はそんな性癖ないし、昨晩抜いたから、今日は理性にも耐えられるだろう。

 しかし、おかしいな。さっきから動かそうとしているのに、全然体が動かない。


 腕どころ、指一本すら動かない。こんな時に金縛りだろうか。


 こんな時に使えない能力スキルはないだろうか。そう思い、俺は脳内にある能力スキルを一通り思い出した。そうすると、良いものがあった。


 その名も、『俯瞰視』。自分を第三者視点としてみることのできる能力スキルだ。


 使いどころのないダメ能力スキルだと思っていたが、まさかこんなところに使い道があったとは。

 俺は早速、俯瞰視を使ってみた。おお、見えるぞ、俺の姿が。何度か鏡や水の反射とかで見たことあるけど。


 その姿を見て、俺は自分の今の姿を滑稽だと思ってしまった。


 俺は今、氷漬けにされていたのだ。


 俺は黙って、自身の身体に火炎魔法を勢いよくかけた。すると、俺の身を纏っていた氷結はみるみるうちに溶けていく。そして、やがてものの数秒で氷結は全て水と化した。


「なんだ、もうちょっと凍っていても面白かったのに」

「冗談じゃない!この身体が頑丈だったからよかったものを!」


 見た目や先ほどの事例のことから、やはり彼女は氷の妖精のようだ。しかし、こいつ、最強チーターであるはずの俺を軽々と氷漬けにするとは……。


*****


 ようやく、落ち着いて話ができる雰囲気になった。話の進行は少女の信用度のことを踏まえて、エメルが担当した。


「あなたの名前を教えてください」

「覚えてない……」

「年齢は?」

「分からない……」

「ご両親はどちらへ?」

「知らない……」


 しかし、エメルが何を訊いても、「覚えてない」「分からない」「知らない」と答えるだけ。

 そこで、エメルは少女の額に手を当てた。どうやら、何かを調べているようだ。

 そして、それが終わると、エメルは俺の方を向いて言った。


「どうやら、彼女は重度の記憶障害のようです。原因は何か魔法による人為的なもののようです……彼女に残っている記憶は基本的な生活で使う語学や算術等の教養知識。あと、魔法の使用方法と……そのくらいでしょうか」

「そうか……」


 俺は再度、少女の顔を見る。

 その顔は俺を氷漬けにしていた顔とは全く違い、曇りに曇りまくっていた。


「私の居場所はない……」そう言っている顔だった。


 孤独か……。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人目の妖精の登場タイミングとキャラ設定が絶妙に良いです。 文体だけでなく、言葉の区切りや長さ、改行の位置、主人公の思考論理など、最近のなろう小説で大人気の作品の潮流をうまくトレースしてお…
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