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第6話 彼女は仲間であった。

 俺たちが宿に戻る頃には空はとっくに闇に満ちていた。

 エメルが妙に暗くなる前に帰ることにこだわっているところに少し気がかりを覚えたが、まぁ暗くなる前に宿に戻ってゆっくりしたいという感情は非常に同感なので、俺たちは足早に宿に戻ったのだ。


 部屋は入ろうとしたとき、エメルは何度も……。


「戸締りはしっかりね!」


 と告げていた。妙に重いな……。


*****


 俺は部屋で荷物を整理していた。


「本当に異世界用品だな…………」


 と思いながら、自分の荷物を見る。

 武器や、ポーションとかいう異世界用品。ほんとに夢みたい。しかし、これは現実なんだな。


『異世界生活は楽しんでいるか?』

「……だれかなんか言ったか?」


 変な声が聞こえた。この部屋には俺以外誰もいない。


『おーい……聞こえてるか?』


 また、声がする。


 もしかして、この宿、心霊的な奴なのではないだろうか?すごく怖い。


「とりあえず、塩買ってくるか」

『幽霊扱いするな!!』


 大きな声がすると、部屋の中心が激しく光り始めた。そして、その閃光の中にとある人型の何かが出てきたのだ。


「だ……誰だ……?!」


 出てきた、そいつは金髪のイケメンだった。俺はイケメンが嫌いだからな……気に食わん、今すぐ殺したい。


「エメルから毎度話は聞いているだろう?俺が例の神っていうやつだ」

「神?!ほんとか……?」


 俺の神様のイメージはこんなイケメンな感じじゃない。なろう小説だったら、美しくも麗しい女神か、よくある感じのおじいちゃんが王道ではなかろうか。


「何でもかんでも、なろう系のテンプレに当てはめるな」

「いや、別にそう言うわけじゃ……。ところで、神様が何の用なのですか?」


 俺は面倒くさいので、とりあえず、こいつを神様だと認めた。


「いや、俺が送り出した転生者は楽しく生活できているかなと思ってな。特殊能力チートスキルはなかなか良いものだろう?」

「いや、今のところ、あまり使い慣れなくて……あと、童貞を卒業すると死ぬって何なんですか」

「それは特殊能力チートスキルに対するハンデなんだよ……やはり、世の中そんなに甘くはないからさ」

「ハーレム形成したかった」


 神様はその言葉に対し、高らかに笑った。


「ははは!大丈夫だ。その一種の呪いは魔王を倒したら、自動的に消えることになっている」

「まじですか」

「ああ、まじだ」


 それは、何て良い情報なのであろうか……。


 魔王を倒したら、童貞卒業できる。やべぇ……そんな未来をそ想像したら、興奮してきた。


「まぁ、魔王相手だったら、特殊能力チートスキルありでも結構きついから、そこんところは用心しろよ。念のため、エメルの他に旅の仲間を作ることを薦める。勿論、男か、エメルのように、お前に魅了されない女に限るがな」

「そうですか……」

「じゃあな。早めに寝ろよ!」


 そう言うと、彼は光を放ち、消えていった。


*****


 消灯し、俺はベッドの上で考え込んでいた。


 もし、彼が神様だったとして、何故彼は俺に魔王を倒してほしいのだろうか。しかし、じきにどれだけ考えても、答えにたどり着くことはないと気づき、考えることをやめた。


 それから、しばらくが経った。もう、深夜と呼べる時間だろう。


 普通なら、もう静かな時間帯のはずなのに、やけに騒がしい。特に俺の部屋の扉の前。


 ガチャガチャと扉の鍵を開けようと試みるような音が鳴っているような気がする。

 外からは悶えるような女性の声。


 ナニコレ……。


ガチャ……


 扉の鍵が開いた。


 そこには五人ほどの女性が立っていた。目が例の雌の目をしている。


「ああ……町で見たときから、良いと思っていたのよ……」

「宿の受付の時覚えてます?いやぁ、一目惚れしちゃったなぁ」


 よく見たら、宿の受付場もその中にいた。そして、その女たちは皆、薄着である……。みんな、見た目は良いな……。顔も体も。

 しかし、そんなこと思っている場合ではない。このままだと俺は童貞を奪われ、死んでしまう!


「さっさと済ませましょうか……」


 女がブラに手をかけた。そのブラが外れると、ふくよかな胸が一気に解き放たれ、豪快に揺れた。


 女たちがあわれもない姿になると、ゆっくりと俺の元に近づいてきた。


「ほら、ズボンをおろして?」


 そう言って、女たちは俺のズボンに手をかける。まずい、本当にまずい!!


睡眠魔法スリーピング!!!」


 突如、女たちは力が抜けたかのように倒れた。うう、俺の上に乗るな、胸が当たってる。


 俺は扉の方を見てみた。そこには汗をかき、必死な顔をしたエメルの姿があった。


「エメル……」


 エメルは無言で俺の飛び込み、抱き着いた。

 彼女は今、泣いていた。


「おいおい……どうしたんだよ」


 俺はそう言って、彼女の頭を撫でる。女性にこんなことしたことないが、こういう場面ではこれでいいよね……。


 彼女は構わず、俺の胸で泣いた。


「ぐすっ!ぐすっ!よがったー!よがったああああああ!!!」


 彼女は仲間のピンチに駆けつけ、そして、助け、無事を知ると、泣いて喜んだ。

 この時、俺は初めて、こいつを……エメルを「仲間」だと自覚した。


 今まではこいつを仲間だと、心の底からは感じていなかった。

 しかし、こんなの見せられたら、そう思わざる得ないじゃないか……。


*****


 全裸の女たちはひとまず服を着せ、エントランスに寝かし、俺らも就寝した。


 そして、翌朝……。


 宿のチェックアウトをするため、エメルと共に宿へ向かうと、そこには昨日襲ってきた受付嬢が立っていた。


「はい!チェックアウトですね!」


 昨日のことなどなかったかのように彼女は対応していた。


「あの様子……彼女に昨日の記憶はないのか……?」

「あの魅了されている状態は一種の混乱状態なのでしょうか?」


 エメルもよく分かっていないらしい。


 そして、宿を出た。


「それにしても、エメル、昨日はすげー泣いてたな」

「そりゃそうですよ。龍弥様を死なせたら、私が神様に怒られるんですから」


 そういや、昨日神様と会ったな……これは話したほうがいいのだろうか……。

 いや、やめておこう。本能がそう語っている。


「神様、怒ると怖いんですから……」


 しかし、エメルのその言葉が照れ隠しということは俺にはすぐ分かった。特殊能力チートスキルの読心術でも使ったか?いや、違うな、彼女の様子を見たら、余程の鈍感でない限り、気づくだろう。俺は鈍感なろう主人公にはならないぜ。


 俺は今一度、この二つの人生で初めての「仲間」を作れたこの日を心の中で祝った。


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