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第5話 エメラルド東大町

「ようやく、エメラルド大森林を抜けることができましたよ!」

「飛んでも、一週間かかるとは……予想外だぞ」


 エメルは俺のことを考えて遅いスピードで飛んでいたことは分かっている。しかし、それでもこんなにかかるとは、改めて、エメラルド大森林の巨大さを思い知らされた。


「エメラルド大森林を抜けた先に、エメラルド大町という町があります。そこで、身支度をしましょうか」

「お前はひとまず、服を買えよ?」


 こいつは現在、白い布地一枚で肌身を隠してるが、これは能力スキルで擬態させたダミーであるため、実際のところ全裸同然なのである。

 彼女は人の前で全裸になることに何のためらいもない為、隙あらば、擬態能力(スキル)の使うことのない楽な姿、つまりは痴態を俺に見せてくる。

 俺を弄んでいるのだろうかと本気で疑ったこともある。


「別に大丈夫なのに……」

「不満を垂らすな。お前のせいで俺が死にそうになってるんだよ」

「あら、良いですね……いつでも襲っていいんですよ」

「ほざけ」


*****


「龍弥様、つきましたよ!」

「でけぇな……」


 その町はものすごく大きな町であった。例えようにも、例えられない。


「この町に入るためには審査がいるので、とりあえず、門の前へ行きますね」

「ああ」


 入国審査ならぬ入町審査というものか。しかし、この大きさは国と名乗ってもいい気がするのだが……。


「エメル、ここは国じゃないのか?」

「あくまでも町ですね、この地域は大森林とその大森林の東西南北に位置する四つのエメラルド大町を合わせて、エメラルド国となります。ちなみに、王国ではないので王はいません」

「なるほど、ちなみにここは東西南北のうちのどの町なんだ?」

「ここはエメラルド東大町ですね」


 つまり、東か。


「次の者!」


 町の兵士が俺たちにそう声をかけた。


「龍弥様!私たちの番ですって!」

「ああ、そうだな」


 そう言って、俺たちは前に進んだ。


「それでは、身分証明書を出せ」


 身分証だって……?学生証は……今、持ってないしな。


「あ、はいはい。二人分のは私が持っていますので」


 エメルはそう言って、収納魔法だろうか?妙なゲートから、二枚のカードのようなものを取り出した。


「よし、大丈夫だ。入って良し」

「やったぁ」


 そう言って、エメルは門をくぐった。


「いつの間に身分証そんなもの作ったんだ」

「いつか必要になると思って、旅の間に作っていたのですよ。別に龍弥様でも作成は可能ですよ」

「ふぅん……ところで、女性の視線を感じるのだが……」


 先程から、女性の視線を激しく感じている。恐らく、特殊能力チートスキルの影響なのだろうが、いつ襲われるのかとちょっと怖い。


「あまり、夜に出歩くのはやめておいた方が良いですね、誘われたり、襲われたりするので」

「怖いね」


 そう、怖い。

 襲われて、間違っても童貞を卒業してしまったら、俺は死んでしまうからだ。童貞は卒業してみたいけど、死ぬのは嫌だ。一回死んでみたから、死ぬ辛さは痛いほど分かる。


「まぁ、死ぬんだったら、私で死んでくださいね」

「絶対にやらん、地獄行きはごめんだからな」


 エメルによると、俺はこの世界の魔王を討伐しないことには地獄行きになってしまうらしいからな。


「とにかく、安全を確保して一夜を過ごすためにも、宿を取りましょうか」

「うん、そうだな……」


*****


 ひとまず、俺たちは宿を取ろうと図り、冒険者用の小さな宿に訪れた。


「お部屋は二室で大丈夫ですか?」


 宿の受付がそう訊ねた。


「はい、大丈夫です」


 俺はそう答えた。


「別に一室でも大丈夫ですよ?楽しみましょうよ」

「二室で大丈夫です」


 やかましいエメルを捩じ伏せて、俺は念を押して言った。


*****


 この宿のエントランスには多少本が置いてある。何故かは分からないが、この世界の文字は日本語に酷似した文字だったため、読むことに全く困ったことはなかった。


 そこで、俺が気になった本は『エメラルド大森林におけるオークの生態』という本であった。前に襲われているし、ユウキの言った巨漢雌オークや美形雌オークとか言ってたけど、よく分からずじまいだからな。


*****


『エメラルド大森林におけるオークの生態』 著:ジョブリエル・カルスリス

1完全に容姿主義社会のオーク社会


 エメラルド大森林に多く生息している生物の一種であるオーク種。彼らの社会は完全なる容姿主義の社会なのである。特に雌オークはその容姿差別が秀でて激しい。


 研究上、雌オークでも二種類が存在することが分かっている。

 体系、容姿ともに美しい姿を備え付けてある「美形雌オーク」。

 体系は巨漢でそこまで美しい容姿を備え付けていない、その姿は例えるならば豚であろうか、それが、「巨漢雌オーク」である。


 雄オークは少しばかりの差はあれど、差別的には扱われない。雌と比較しての話であるが。


 それでも、雌の差別は正直言ってもすごいとしか言えない。美形雌オークは雄オークからもてはやされ、子作りをし、家庭を持つ。そんな幸せな空間である集落を彼らは築く。

 しかし、その空間に巨漢雌オークの姿はないのだ。


 巨漢雌オークは別の場所に住処を築き、過ごす。そこに雄オークはいないため、同族で交尾をすることはない。

 しかし、彼女らの血は絶えていないのだ。では、どうしているか。森の中で迷った冒険者や狩人等の他種族の雄を襲うのだ。彼女らは滅多に交尾ができないため、襲うときの目は狂っている。相当溜まっているのだ。

 そこで、生まれる子供は必ず雌オークになるらしい。研究によれば、巨漢雌オークによるその遺伝子に強さからそうなっているようだ。


*****


 なんていう差別社会だ。現代社会でこんなことが起きていたら、炎上モノだな。まぁ、あるんだろうけど。


 ちなみに、この本の著者であるジョブリエル・カルスリスはどこかの貴族となかなかの上流階級らしい。趣味で生物学を研究しているのだとか。この本も趣味の一環だとは……。

 

「龍弥様!そろそろ行きましょう!」


 支度が済んだエメルがエントランスに降りてきて、俺にそう告げた。

 ちなみに、俺はさっきから済んでいる。この読書は単なる暇つぶしだ。


「よし、行くか」


 というわけで、衣服・防具屋に訪れた。ガチガチの鎧も売っていれば、現代日本人が来ていそうな軽装も置いてある。異世界でもこんなのあるんだな。


「龍弥様!こんなのどうですか?」


 俺がエメルの方を見ると、そこにはへそや肩を露骨に露出した服を着たエメルが立っていた。


「エメル……なんだ?そのやけに露出の多い服は」

「こういうの着てたら、人族の一人や二人、釣れると思いまして」

「おまえ、欲求不満なのか?」

「いえ?妖精霊族に性欲はありませんよ。一応性器は持ち合わせておりますが、性欲はありません。無性生殖できますしね」

「有性生殖もできるの?」

「はい、一応」


 つくづく分からん。こいつ。


「とにかく、普通に冒険者らしい服を選べ……」


 俺は呆れながらも、彼女の服を一緒に選んだ。


「さて、そろそろ俺の服も」


 と俺は呟くと、エメルは首を傾げた。


「龍弥様は買う必要ないでしょ」

「なんでだ?」

「その装備は神様が与えてくださったので、防御力的には最強ですよ?」


 そうなのか?こんな布一枚なのに……。この世界は見た目と中身のギャップが激しすぎる気がする。


「まぁ、予備の服は買っとくよ」

「あ、私も買います」


*****


 武器屋。雰囲気は日本の楽器屋に似ている何かを感じる。玄人臭い人たちが集まりそうな店の雰囲気だ。


「やはり、片手剣か……」

「持ってみます?」


 というわけで、一回、剣を持たせてもらった。


「結構、重いなぁ……」


 振り回せなくはないが、結構苦労しそうな重さであった。


「エメル……。俺って最強の力を持ってるんじゃなかったっけ?」

「本気出したら、巨大な岩でも持てるんでしょうけど、頑張らなかったら、普通の人族の男性くらいの力量だと思いますよ」


 ああ、そう……。


 そんな会話をしていると、店の店主が声をかけてきた。良かった、良い感じの男性だ。


「ならば、軽量加工魔法がかけられている剣を選ばれてはどうですか?」

「軽量加工魔法?」

「その名の通り、軽くなる魔法です。片手剣のやつだったら……これですかね?」


 結構、デザインは好みな感じの剣だ。

 一回、持ってみる。


「お!いいですね!これ!」

「気に入ったのですか?」


 エメルはそう俺に訊ねる。


「うん、あの、これください。エメル、金あるか?」

「大丈夫ですよ、お金の問題は心配しないでください」


 エメルはそう言いながら、収納魔法のゲートを出す。

 そこから、彼女は財布を取り出した。


「エメルはどうするんだ?」

「私は一応、軽いサブの剣と、杖を買います」


 俺たちは商品を三つ買って、武器屋を去った。


 


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