第4話 巨漢雌オークからの救出者
目を開けると、朝日が俺の瞳孔を焼いた。
「いてぇ……」
どうやら、眠っている間に太陽様はお昇りになっていたようだ。この世界での初めての夜明けが野宿とは……少し、憂鬱である。
「ここはどこだ……?」
確か俺はなんか異世界転生して、人妻に襲われて、逃げたら妖精に会って、空飛んだら、ドラゴンに襲われて、ここに落ちて気を失ったということだ。
*****
ひとまず、周りを歩いてみよう。エメルも恐らくここら辺を飛び回って、俺を探していると思うから、そんなに遠くには行かずに。
しばらく歩いてみると、またまた集落が見えた。この森ほんとに集落多いな。
『良い雄の匂いがするねぇ……』
なんだ……?よく聞き取れないが、何か嫌な存在を感じる。
俺はその存在に背筋を強張らせた。
『イキのある人族の雄じゃん♡』
『あの感じから見て、経験はナシかな♡』
俺は嫌な予感が止まらず、とりあえず、身構えた。これでひとまず対処できそう。
『あら……警戒してる?』
『そんな強張らなくてもいいのに』
この集落、建物の出来から見た感じ、人間が作ったものではない。昨夜、人間の家を見たが、あんなに雑な出来ではなかったはずだ。
つまり……魔物……?
面倒事にはなるべく関わりたくない。ここは退こう。
俺はそう思い体を180度回転させた。
「あら……逃がさないわよ?坊や……」
俺はどうやら囲まれていたようだ。
巨漢な女オークどもに……。
*****
足早に退散しなければ!!!!しかし、それは叶わなかった。
人数も多いうえに、彼女らは巨漢の為、避難経路は俺が気づいた頃にはとっくに塞がれてしまっていた。
魔法を放とうとするものならば、そのまま押し倒されてしまい、魔法は照準が絞れず空打ち。
まずい、このままだと、俺の童貞がこの豚どもに奪われてしまう。
せめて死ぬなら、美少女が良いぞ……。
「いやぁ……男どもはみんな美形の奴らに取られて、私らは溜まる一方なのよ……だから、相手してよね♪」
「ずるーい♡次、私ね♪」
「それにしてもすごいわね……貴方のそのオーラ……子宮にキュンキュンきちゃうわ……」
「やめ……ろ……」
「あら?心配しなくて大丈夫よ?安心して、イって頂戴♡」
クソ……気持ち悪すぎて、今にも吐きそうだぜ……。
そんな俺に容赦せず、彼女たちは問答無用で俺のズボンを下した。
「あら……勃ってないわね……」
当たり前だ……お前なんかに誰が勃つかよ……。
口に出したいが、何故か口が開かない。これ、もしかして呪いか?!
「黙って、私たちのされるがままになりなさい」
お、終わった……。
俺はそう悟り、目を閉じた……。
その時だった。
「弱送風魔法!!!」
突如、中二臭い名前を叫ぶ男性の声が森の中で響いた。
すると、俺の感覚から、オークの重みの感覚が消え失せた。
「な……なんだ?!」
目を開け、声がした方向を向くと、そこには黒髪の腰に剣を構えているなかなか良い感じのおじさんが立っていた。
「早くこっちへ来い!」
彼はそう言って、俺を導いた。
俺は足早に彼と退散した。
*****
「はぁ……はぁ……おい、大丈夫か?」
「ああ、はい、どうもありがとうございました」
この世界にして初の男の人だ……。安心感がまるで違う。
「しかし、巨漢雌オークに襲われるとは災難だったな。あいつらは単独の雄には乱暴に襲いかかってくるから、本当に用心しろよ」
「あ、はい……ところで、「巨漢雌オーク」っていう呼び方してますけど、他にいるんですか?」
すると、男は不思議がった表情をした。
「巨漢雌オークと美形雌オークの違いはこの森にいるやつらなら、常識じゃないか」
まずい、どう返答しよう。
「あ、俺、ここで迷った冒険者でして……」
迷子は嘘じゃないからな。
「そうか、よそ者も迷子か……。そりゃ難儀なことだな、まぁ、迷子っていう要素は俺と同じか……」
「あ、貴方も迷子なんですか」
すると、男は少し、寂しげな顔で俺の方を向いた。
「ああ、狩りに出たときに、運悪く無属性竜と立ち会ってな。流石に実力差が大きすぎるから逃げたのだが、そうしたら、方角が分からなくなって。それっきり帰れてないんだ……クソ……女房もいるってのに」
男の声は震えていた。
そんな感じで言われてしまっては、同情してしまうではないか……。俺のガラじゃないぞ。
「とりあえず、二人で道のアテができるまで協力しましょう!」
「ああ、そうだな。ユウキだ」
「龍弥です」
二人はお互いに自己紹介をし、握手を交わした。
それにしても、エメルはどこに行ったんだろう。
*****
しばらく歩いていると、何やら、聞き覚えのある音が聞こえた。
ぎゃおおおおおおおおおおお……
「おい、龍弥とまれ!」
「あ、はい……」
流石にここまでモロに聞こえたら、流石に勘づく。この音はあの無属性竜の声だ。
多分、エメルの言う通りならば、あれくらいはすぐに倒せると思うのだが、どうも、あんなにでかいと、委縮してしまう。だって、倒したのまだ、ゴブリンだし。
何とか様子が見えないかな……。
「俺、ちょっと見てきます」
「気をつけろよ……」
「はい」
いざというときは倒してしまおう。できるかやっぱり分からないけど。
*****
気配で悟られないようにこっそり近づく……。こういう時の能力ってないのかな?
そう思い、とにかく意識を「気配を消す」ということに集中させる。
これだ!!!
直観で感じた。俺は今消えてるも同然の状態になっていると。
ダッシュで行こう。それでも、これなら余裕だろう。
「さぁ、落ち着いて……落ち着いて、貴方の住処に戻りなさい」
エメルの声だ。
エメルは無属性竜の額に手を当てて、緑色のオーラを放ちながらそう告げていた。
でも、なんで全裸なんだよ。
しばらくすると、無属性竜は翼を開き、空の彼方へ飛んで行ってしまった。
「アレ?龍弥様じゃないですか!どうしたんですか?こんなところで」
どうやら、俺の存在を気づかれたらしい。あいつ、潜伏を見抜く能力でも持ってるのかな?
「それは、こっちの台詞だ」
「私はただ、無属性竜を長時間をかけておだてていただけですよ」
「お前、そんなことできるのか」
「まぁ、妖精霊族のみ取得可能な独立能力ですから。それでも時間がかかるので、暴力で済ませた方が楽ですね」
物騒な……。
「とりあえず、お前、服着ろ」
実はここまで、彼女は全裸で俺は理性に何とか打ち勝っていたのだ。でも、そろそろ限界かもしれん。
「あ、はい」
*****
しばらくして、ユウキがこの場に出てきた。
「無属性竜の奴……いつの間に、どこかに行ってたんだな。ところで、龍弥、そのお方は誰だ?」
「ああ、こいつはせい……むぐ!!」
俺が「精霊」と言いかけたところ、手で口を覆われた。
「ただの旅仲間です♡」
「ああ、そうか!良かったな!仲間が見つかって」
ユウキは純粋に俺の冒険仲間(仮)が見つかったことを喜んでくれた。この人、本当にいい人だな。
それにしても、だ。
(おい!なんで、嘘つくんだよ!)
(この森の人たちは妖精霊族に信仰心を持っているんですよ!こんなところで信仰なんてされたら面倒でならないじゃないですか!)
(ああ、そう……)
という会話を耳打ちで行った。
「さて……俺も早く集落に戻らないとな、とりあえず道を探さないと」
「貴方、迷子なんですか」
エメルはそうユウキに訊ねた。
「ああ、グリルス人族集落はどこにあるのか……」
「それなら、ここをまっすぐ行ったら、一日で着きますよ」
エメルはそう言って、方向を示した。
「本当か!!」
「はい!一応、目印を書いてある地図をどうぞ」
「助かる!!!」
ユウキは涙しながら笑顔を作っていた。その顔から、これまでの帰路がどれほど地獄だったかが見て取れる。
それにしても……ちょっと引っかかるなぁ……。
「それじゃ!俺は戻る!お前らも、がんばれよ!」
ユウキは地図を受け取るや否や、すぐに支度をし、歩き出そうとしていた。
分かれる前にこれはちょっと訊いておきたい……。
「ユウキさん!」
「ん?」
「最後に、貴方の奥さんの名前、教えてくれませんか?!」
「お!なんだ?いきなり、まぁいいか、ナオミっていう名前だ!可愛いだろ」
やはりか……。
「はい!とっても!帰ったら、たくさん相手してあげてください!」
そして、ユウキは答えるように手を振った。
「龍弥様、どうして、あのようなことを訊いたのですか?」
「ちょっと気になることがあって、まぁ、ナオミさんは結構溜まってるだろうからね」
エメルは俺の言葉に首を傾げた。