第3話 飛行能力でひとっ飛び
意外と戦えた。どうやら、エメルの言った『特殊能力』は本能的に身体が使用するものらしく、自転車を乗るかのような感覚で魔法なりの技をくりだし、ゴブリン共を殲滅させていった。
魔法は炎系魔法を使うと、山火事になってしまうので、水や氷を中心に発動させた。
「思ったよりも余裕だな……」
「言ったでしょう!最強だって!」
エメルはそう言いながら、ゴブリンを倒していく、しかし、彼女はゴブリンの息の根までは止めなかった。
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「しかし、多かったですね。恐らく、彼らの集落がこの近くにあると考えられます。一応用心しましょう」
「ああ、そうだな……」
一瞬にして、ゴブリンを倒しきった俺たちはひとまず先へと進んだ。
そこで、俺はエメルに先ほど気になったことを訊いてみる。
「なんで、さっきの戦闘、ゴブリンを殺さなかったんだ?」
「私はこの森を司る妖精ですよ。本来は監視するだけにとどまらないといけないのです。森の生物の命を奪うなど、言語道断!というわけです」
「つまり、戦闘を行うだけでも、ギリギリアウトのラインなんだな」
「まぁ、これも、龍弥様を導くという神様の命令の為なので……。特例です!」
特例か……。
「とにかく、今はこの大森林を抜けることを目標にしなくては!」
エメルは無理やり話の展開を変えた。
「ところで、このペースで行けば、あとどのくらいで森を抜けられるんだ?」
「えーと、この調子で歩いていくと……一年くらいですね!」
一年か……………………一年???!!!
「ソレ、まじ?」
「はい、まじです。この世界では移動に年単位は普通ですよ?」
まぁ、確かに電車も新幹線も車もない世界なら納得できるのだが……。森を抜けるだけで一年は流石に驚く……。
「まぁ、外に出られれば、機関車や馬車はあるんですが……」
「機関車はあるのか」
「はい、数年前にドワーフ族が発明して、急速に普及しました。動力源は火炎魔法ですけどね」
そんな風にエメルから外の話をされるとやはり俺は異世界に来たんだなということが痛感された。それは夢みたいな世界への期待でもあったが、未知の世界への不安でもあった。
「それにしても、徒歩って……ほかに移動方法はないのか?」
「ありますよ?一応私は空が飛べます」
「それ先に言えよ」
しかし、エメルは何故か難しい顔をした。
「どうした?」
「いや……飛べることは飛べるのですが、少し、問題がありまして……」
問題とな……。
「まず、龍弥様の『特殊能力』には飛行能力がない為、飛ぶことはできません」
「まじかよ」
「飛行能力は人族は取得不可能なものなんですよ。その為、龍弥様も体質的に取得不可になって、『特殊能力』にも組み込まれてないんです」
なるほど、ややこしくて、くそめんどいな。
「だから、移動する際は私が龍弥様を人力で運ぶ形になりますね。ハイ。あ、でも安心してください。私、力はあるんで!」
エメルは鼻から自信満々に息を吐きながら言った。
「乗っけてもらう感じでお願いします」
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「うわああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
高い!!怖い!!これやばい!!!!
「しっかりつかまっててくださいね!」
エメルはそう言って、もうスピードで空を飛んだ。
俺たちが歩く何百倍ものスピードでぐんぐん進んでいく。これならすぐ森など抜けられそうである。
「はぁ……はぁ……少し、慣れてきた」
俺はこの環境に慣れていき、周りの景色を見れるあたりにまで余裕は出来た。
その景色は…………絶景であった。
「すげぇ……」
「うふふ、分かりやすい反応ですね」
ひらけたその景色には果てしない草原地帯。地面が波打っている山脈。そのあたりには変な形をした魔物が点々としていた。それはやはり日本では見られないものであった。
「そういえば、魔物って魔王の手下じゃないのか?」
「一般にその辺にいる魔物は違いますね。人族に危害は与えているみたいですが」
なるほど、するとそれを解決するような職業なども存在しそうだな。
テンプレだと冒険者用のクエストがあったりとか。
「しかし、少しピンチですね」
「え?何が?」
「後ろを見てみてください」
俺はエメルの言う通りに後ろを振り返ると、何やら、緑の鱗が俺の視界を覆った。
「あ、あの時のドラゴン?!」
「はい、名称:無属性竜ですね。標準的なドラゴンです。基本攻撃は噛みつき、薙ぎ払い等です」
「火吐いたりはしないの?」
「それは火炎竜の役割ですよ」
役割とかそのへんはよくわからないが、とにかく今はピンチだ。
「倒せないことはないですが、戦うのは少し面倒ですね……もう少し、飛ばしてもいいですか?」
「え?まだスピード上げるの?」
その時、無属性竜が俺たちの方に向かって勢いよく突進してきた。
俺たちはその突進をまともにくらい、エメルはバランスを崩された。
「やべぇ!!!」
俺はエメルの背中からずり落ちた……。
「龍弥様ー!!」
俺はそのまま真下に急降下。
落下時の衝撃により、俺は一旦意識を無くした。