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Oh mein Gott!  作者: クマ太郎
1/3

プロローグ~いなくなったはずの親友から電話がかかってきた①

「う…そ……ど、して……?」



買ってもらったばかりの真新しいスマホに、3年前不明になった親友の連絡先が入っていた……











3年前、行方不明になった家族がいた…

いや…正確にいえば、家族の…妹のような存在の親友がいた…


彼女…藤原ふじわら里桜りおは、私…宮代みやしろ希結きゆと同じ北海道の片田舎にある児童養護施設の出身で、物心つく前からずっと一緒だった。

なんでも私たちの親は親友同士で、お互いに身寄りのないシングルマザーであったようなのだ。

私たちが生まれてすぐ、母の運転で一緒に出かけた際に交通事故に遭ってしまい、親を亡くした私たちは二人揃って同じ施設に預けられたそうだ。


里桜はとても美人で、幼い頃から大人でもたじろぐような美貌の持ち主だった。

なのに、とても気が弱くて…すぐに泣いてしまうような子どもだった。

反対に私は、大人っぽい里桜とは、対照的で実年齢よりさらに幼く見える童顔。

成長してもすぐに私だと周囲が分かってしまうような特徴的な目をしているらしく、里桜は『たべちゃいたいくらい、かわいい』『すっごくきれい』と褒めてはくれるが、すぐに私が『児童養護施設の親がいない希結ちゃん』であることを周囲が認知してしまう特徴というのは、私のコンプレックスだったりする。

おまけに同じ年齢の子と比べても身体の成長が遅く、私の背は里桜より頭1つ分低かった。


それがあってか、幼い頃の私はすごく負けず嫌いだった。

男の子たちが、よく里桜をからかっていじめていた。

幼い男の子は、気になる子をいじめてしまうものだというが、すぐに泣いてしまう里桜が可愛かったのだろう…いつも彼女の周りには男の子が集まり彼女の玩具をとったり、髪の毛をひっぱったりしていた。

その度に、いつも私が間に入って男の子と喧嘩をしていた。


でも身体の小さかった私は、その度に喧嘩に負けてしまって…ボロボロになった私を彼女は何度も抱きしめては『希結ちゃん!ごめん!ごめんね!!』『めいわくかけてごめん!希結ちゃんが怪我しちゃうの、いやだよ!』『あんなの助けなくてよかったんだよ!べつのほうほうで、ほうふくすればいいんだから!』と大泣きしていた。

その時里桜が言った言葉の意味は半分も理解していなかったが、今にして思えば、頭の良い里桜は彼女なりの方法でやり返す気でいたのだろう…


不謹慎だけど私は、自分の怪我なんかよりも彼女…里桜に怪我がなくて良かった、とか…泣いちゃう里桜はやっぱり可愛いなぁ…とか思ってた。

私は幼いながらも里桜がすごく大事で、大好きで、『里桜は私が守らなくちゃ』なんて使命感にもえていたんだ…







………3年前、小学校を卒業して中学校にあがったばかり時期だった。

施設で仲の良かった先生が、私と里桜を卒業旅行と称して彼女の実家がある神奈川県の温泉地へ連れて行ってくれることになった。


オリビア先生はドイツ人のお父さんと日本人のお母さんがいるハーフの女性で、20歳になったばかりで先生たちの中では一番若くて、私たちと良く話が合った。


正確には、私たちと趣味が合った…といった方が正しいのか…

里桜と先生はいわゆる『アニメオタク』で『腐女子』というものだった。

何かを察知した二人は光の速さで結託し、仲良くなった。

私はというと、二人ほど熱量はないが割と何でも忌避感なく受け入れる『雑食』というやつで、そんな彼女たちのお目付役というか、ストッパー的な役割だったように思う。


あとは先生にドイツの故郷料理を教えてもらって、よく一緒に作っていた。

先生のお父さんは故郷のドイツでは有名な凄腕の料理人で、べた惚れしたお母さんのために日本に移住し、お母さんの故郷である神奈川県でドイツ料理のお店を開いているらしい。

先生は幼い頃からお父さんに料理を教わっていたらしく、先生の作ってくれるドイツ料理は本当に美味しい。

料理は当番制だったけど、先生に色々教えてもらうのがとても楽しくて、ずっと台所を占領していたものだから、いつのまにか私たちが料理担当のようになっていた。


オリビア先生はお父さんの血が濃かったのか、一見すると日本人要素が見当たらないほどの妖艶な金髪碧眼のドイツ人美女だが、推しのアニメキャラや漫画の話になると先生としての立場を忘れ里桜と夜が明けるまで濃いトーク繰り広げて他の先生に怒られるようなお茶目な人だ。

異性関係は少し奔放で、施設を出ると泣きながら先生に『捨てないでくれ』とすがりつく男性が何人かいたり、先生をめぐって喧嘩する男性を見かけたこともあるが…

すごく正直者で、偏見や打算も何もなく、良いことは良い、悪いことは悪いと損得なく言ってくれる彼女を…私たちは大好きになり、姉のように慕った。




……話はそれたが、里桜とオリビア先生が推していたアニメの聖地が神奈川県の温泉施設を舞台にしたものだったこともあり、中学の入学祝いもかねて、ゴールデンウィークに聖地巡礼に行こうという話になったのだ。


里桜と先生がすごくやる気で、施設からの許可も下りて準備もとんとん拍子に進んだ。

何もかもが、こわいくらい順調だった…




旅行中に震災に遭い、里桜とはぐれてしまうまでは……




とても規模の大きい震災で、テレビでは何日もニュースで状況や行方不明者について放送されていたらしい。

山の土砂も酷く、怪我人や死者も多数……

私もオリビア先生も、先生の家族も瓦礫の下敷きになったが、すぐに救出されて幸い軽傷で済んだ。





……でも、3日たっても…1週間たっても里桜だけは見つからなかった……





結局、1年たっても里桜は発見されず……里桜は死亡者とみなされた。



施設で、里桜のために小さなお葬式をひらいてもらった。

オリビア先生はずっと泣いていて…何度も何度も里桜の遺影に『ごめんね…ごめんね…』と謝っていた。




……正直、私はこの時のことをあまり覚えていない。

ただ頭の中が真っ白になって、ああ…里桜はこの世界のどこにもいないんだって思った。

目から涙がずっとでていて、止まらなかった…



それから、私は毎日学校帰りに里桜のお墓に通うようになった。

部活には入らず、ずっと施設と中学校と、里桜のお墓の往復ばかり…3年間仲の良い友達もできなかったが、私は気にならなかった。




今日も、里桜のお墓の前でいっぱいおしゃべりした。




学校であった出来事…施設で先生とまたドイツの郷土料理を作ったこと…

最初は失敗ばっかりだったけど、あれから随分と私の料理の腕も上がった。

オリビア先生が『将来はドイツで料理のお店を開けるよ!なんたって料理人のパパ直伝なんだから!』なんて、笑いながら太鼓判を押してくれたこと…


部活にも入らずに暇をもてあましていた私に、オリビア先生が英語とドイツ語を教えてくれたこと…

意外と先生はスパルタで、できたら次々と課題を与えられて大変だったよ。

『英語が話せるようになれば、いつか海外に旅行に行っても困らないでしょう?』

『あとドイツ語は個人的に学んでほしいと思ったのよ。ワタシの故郷、ドイツは良いところだから……いつかキユにも行ってみてほしいの。北海道と同じくらい、自然もたくさんで綺麗なところなの…きっとキユも気に入るわ!!』

だって…相変わらずお茶目な先生だよね?

でもおかげで、日常会話に困らないくらいには上達したと思う。


あと1週間で中学も卒業で、もうすぐ高校生になることとか…

小学生の頃は、里桜と一緒だったおかげか時間が短く感じたの。

でも中学校にあがってからは、随分と時間がゆっくりたつように感じたな…

私のいつも一緒だった片割れ、里桜がいないとこんなに時間の感じ方が違うなんてね……


高校受験合格のお祝いに、昨日スマホを買ってもらったこととか…

きっと先生たちなりに、中学が別でお別れする子の連絡先を交換するためって考えたんだろうけど…

正直、いらなかったよね…私友達いないのになぁ。

友達なんて、施設のみんなと…オリビア先生くらいだよ……


オリビア先生が、結婚してドイツに行ってしまうことになったこととか…

先生ってば…それで私にドイツ語を教えたのかな?

……思えば、先生はいつも私の傍にいていっぱい気にかけてくれた。

里桜がいなくなったばかりで、精神的にまいってしまった私がご飯を食べられなくなった時、チキンスープを作ってくれて…いらないって言ったら無理矢理口に流し込まれたことがあった。

『ワタシは立派な先生じゃないから言うけど…被害者のために生きるのが使命だとか、命の大切さとか…そんなのどうだって良いから……ワタシのために生きなさいよ!』

『キユまでいなくなったら、ワタシ…泣くからね!!他の子の世話なんて知ったことじゃないわ!!いなくならないでよね……キユは、ワタシの友達なんだから!』

あれは思い返すと笑っちゃうなぁ……先生の台詞じゃないよね…






「えへへ……でも、オリビア先生が結婚かぁ…寂しいけど、嬉しいなぁ…」



「相手の男の人ね、ドイツの有名なレーサーなんだって。去年ドイツのおばあちゃん家に遊びに行ったときに出会ったんだってさ。凄いよねぇ」



「………明日ね、先生ドイツに発つんだって。」



「みんな……変わっていくんだね。私より先に先生が施設からいなくなっちゃうなんてなぁ…」



「私はあと3年後だね。どんな大人になってるのかな……もしかしたら先生の言うとおり、ドイツの料理人になってたりして……」

















ぽた…  ぽた…
















「あれ…?どうしたんだろう…?何か、涙でてきた…」






(そうだ……高校を卒業したら、私も施設を出なくちゃならない…あと3年…)



(どんな大人になるんだろう…どんな仕事をしてるだろう……あんまり、想像できないなぁ…)



(結婚は…出来るのかな…?恋愛は……?)



(私にも、好きな人はできるのかな……いつか私にも家族が出来るのかな……?)



(………家族……)










「……そっか、寂しいんだ…私、先生もいなくなって…ひとりぼっちになっちゃうから…」



(駄目だ、私…あと3年で、私は大人にならなきゃいけないのに……こんなんじゃ駄目なのに…でも……)



(里桜に…また、会いたい……寂しい……どうしようもなく一人が嫌だ……)



(……もう死んじゃっても良いから、会いに行きたい……)



(里桜と同じ場所に…………)














「里桜……会いたいよ…」






彼女に会いたくて、会いたくて…目をいくらこすっても、じわりと私の目には涙が浮かんできて…



一瞬、視界がぐにゃりと歪んだ…






(えっ…何…?やばい……貧血…?)







その瞬間








ピリリリリリリリリ




瞬間、私のスマホが鳴った。

私が登録している番号は、施設とオリビア先生の番号しかないのでどちらかだろう。





「っ!?」






しかし、着信先の登録名はそのどちらでもなかった。







「………えっ、何……?………り…お…?」







そこには、私が登録したはずのない………できるはずのない番号……




『藤原 里桜』




………いなくなったはずの、親友の名前が表示されていた。








読んでいただき、ありがとうございます。

続き、頑張るぞ-!!

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