表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋以前、以後愛。  作者: 秋月流弥
4/6

4話

翌日学校へ行くと冷やかしの言葉が俺たち二人に降り注がれた。


「見たぞ一緒に帰るところ!」

「まさか片瀬の名字になるなんてな」

「ヒューヒュー」


俺と卯月を見てクラスメイトは囃し立てた。

どこかで情報が漏れたらしい。

学生ってのはどうしてこんなに他人のことであーだこーだ盛り上がれるのだろうか。


(卯月は大変だな。小学校の頃からずっとこんなこと言われ続けてきたなんて)


慣れなのか彼女の精神が屈強なのか知らないが、どんな言葉にも氷のように表情を崩さない卯月を凄いと思った。

感心すらした俺だけど、いただけないところもあった。


「おじゃまします」


卯月は家に帰る時、絶対にただいまと言わない。


それについて清香さんもずっと注意していたが卯月は一度もただいまと言ったことがなかった。

それに俺や父さん、清香さんにまで卯月はどこまでも他人行儀だった。

反抗はしないものの、どこか余所余所しい態度の彼女に父も寂しげに眉を下げた。


「なあ」

休日の土曜日。

ショッピングに出かけた両親の隙を見て、俺は飲み物を取りに台所に来た卯月に言った。


「もうちょっとその態度やめられないの。父さん落ち込んでたぞ」

「……態度って何が? 別に啓介(けいすけ)さんに何もしてないよ」

「一回もただいまって言ったことないじゃん。いつまでも父さんに敬語だし。他人行儀すぎだろ。義理でも家族なんだから」


やっと父が再び新しい幸せの形を手に入れたのに。

もう父に悲しい顔はしてほしくない。


「俺の父さん、俺の母さんが死んでからずっと塞ぎ込んでて。やっともう一度愛せる人に出会えて俺も嬉しかったんだ。清香さんがどんな人だろうと、俺は父さんが選んだ幸せを応援する。それに俺、清香さん好きだよ。料理も美味しいし優しいし思ってたよりずっとちゃんとしてるし」


あ。

今のはかなり失礼な言い方だったかも。


「って失礼だよな。悪い」

「別に。私だってお母さんに関してはクラスの皆と同じこと思ってるよ。再婚離婚のエンドレス、学習しない懲りない人って」

「母親のことそんな言い方するなよ。俺が言えた義理じゃないけど」

「そう言いたくなる親なの。こうも毎回重ねているとね」


卯月は言った。


今思うと、俺は今、初めて彼女とちゃんとした会話をした気がする。


「お母さん好き嫌い激しくて、一回ダメになるとすぐ別れちゃうから。何回父親が変わっても父親って思えないの。どうせこの人も他人に戻るから、って」


あ、そうか。

卯月にとっては今回の父との再婚も、今までしてきた一連の出来事の一つに過ぎないんだ。


父の再婚も、この母子にとっては経過の一つ。


「……」

「ごめんね」


黙り込む俺に卯月は謝った。


「なぜ謝る」

「お母さんの毒牙にかからせてしまって。悪女の娘である私にも責任があるから」

「だから母親をそんな言い方すんなって。ていうか終わったみたいに言うなよ。絶対また離婚するって確証ないし。それに清香さん父さんとラブラブじゃん。うまくいくんじゃね?」


「……そうね」


それだけ言うと卯月は「私、宿題残ってるから」と部屋にこもってしまった。


お疲れ様です。読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ