2話
転機が起きたのは一ヶ月前。
父が紹介したい人がいると言った。
(再婚かな)
なんとなくそう思った。
でもそれで良いと思えた。
俺の母親が病死したのは俺が小学四年生の頃。
その時から俺と父は男二人暮らしで毎日を過ごしていた。
再婚は考えなかったらしい。
父はずっと母のことを愛していた。
しかし、時折部屋の片隅で母の遺影を胸に肩を震わす父を見て、子供ながら胸が苦しくなった。
父が悲しそうに過ごすより楽しそうでいてくれた方が嬉しい。
だから再婚したいと言うのなら、俺は笑顔で承諾しようと考えていた。
高級そうなレストランに辿り着くと、先に着いてしまったらしい父と俺は予約の四人席に二人で先に座り、後から来る客人を待った。
(ていうか四人席なんだ)
そうか。
四人席ってことは再婚相手もこちらと同じく子持ち、か。
いろいろと考えを巡らせていると、
「ごめんなさいお待たせしちゃって」
こちらの席に向かって来る人物が父の紹介したい人だろう。
穏やかで優しそうな、可愛らしい女性だった。
(……え?)
俺はその女性の後ろについてくる人物を見て驚愕した。
そこで目にしたのは見たことのあるクラスメイトの顔。
卯月桃の顔だった。
「悠樹紹介するな。この人は卯月清香さん。隣がその娘の桃ちゃん。父さんな、清香さんと再婚したいと考えてるんだ。今日はお互いのことを知ってもらおうと思って挨拶の場を設けたんだ」
「よろしくね悠樹くん。大きいわねぇ、中学生? 桃と同い年くらいかしら」
父も清香さんも俺たちが同じ中学に通うクラスメイトと知らなかったらしい。
ニコニコ笑う親たちと反対に、俺と卯月は凍りついた。
いや、卯月は元の真顔から微動だに動かさないでいたが、とにかく俺は困惑でいっぱいだった。
あの“ナナシ”と呼ばれる彼女の親が父さんの再婚相手?
「悠樹くんのお父さんは本当に素敵な人ね。私もあなたの素敵なお母さんになれるよう頑張るからね」
「あはは……どうも」
一見朗らかで優しそうに見える女性だが俺は彼女の前科を知っている。
クラスではナナシと呼ばれている彼女の親がどういう性格なのかは彼女につけられたあだ名で察する。
なぜだ、親父。なぜこの人なんだ。
頼む考え直してくれ!
……などとは言えず俺は自分と同じく並ぶ料理を黙って見つめるばかりのクラスメイトに目をやった。
「……」
何も感じてないような空っぽな瞳で卯月は皿の料理を見ていた。
話によると卯月の誕生日は俺より二ヶ月後らしく、俺の妹にあたるらしい。
卯月と義理の兄妹になる。
毎日見るクラスメイトと突然親族関係になってしまった俺は、これから彼女とどう接していいか分からなかった。
お疲れ様です。続きます。