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ハピネスメリー

18 ハピネスメリー


 「おーい、メリーいるかー」

 メアが声を張り上げた。

 ここに、先刻居酒屋にてメアが話していた妖精、ハピネスメリーがいるようだ。

 青白い幻想的な光、樹齢何千年もありそうな巨大な樹木。

 いかにも妖精が居そうな場所である。


 「久しいなメアよ」

 僕達が立つ右斜め後、木々の間からややしわがれた男性の声が聞こえた。

 「おひさーだぞ!メリー」

 どうやらこの声の主がハピネスメリーで間違い無いらしい。


 現れた姿は何というか、妖精と言うよりは精霊のようだった。

 しかも欧州の童話に出てくるような可愛らしいものではなく、どちらかというと、先住民が崇めているトーテムのような見た目だ。

 身長は三メートル程か。

 僕の身長の二倍近くある。

 木の様な肌、やたら大きな目鼻口。

 分厚い唇の内側にはどれも同じ大きさ形の四角い歯が並んでいる。

 鶴の様な白と黒の翼が体の横から突き出しているが、見るからに硬質で、それを以て空を飛ぶ事は不可能に思える。

 背中には無数の枯れた蔓が伸び、マタギが羽織る毛皮の様な形を形成している。


 「お前がここに来た理由は分かっている………」

 「なら話は早いぞ!教えてくれ!」

 「待て、分かってはいるが一応、話してくれ、思い違いは重大な事故を招く」

 「思い違ってたらそん時は言い直すぞ、早く教えてくれ」

 「………その前に、お前たちが我が知識の片鱗に触れる資格があるか見極めさせて貰おう」

 「えー、前アタシ合格したじゃん、いいだろー」

 どうやら、メアは前にこの妖精に会った際に何らかの試験を突破したらしい。


 僕はメアに小声で今から何が行われるかを聞いた。

 特に隠す事でもなかったのか、メアは普通の声量で答えてくれる。

 「知識を試す………っていうかこいつが出すクイズに答えるだけだぞ」


 メアの問いかけにメリーが呼応する。

 「左様………準備は良いか?」

 彼は僕達の顔を見回し、沈黙を肯定と受け取ったようだ。

 両手を上げ、羽を広げ叫ぶ。

 「ハピネスメリーの!ハピネスクイーーーズ!!」

 千代が「いぇーい!」と乗り気でラルカさんは拍手、僕、メア、黒田は沈黙だ。


 僕らの反応には目もくれず、メリーは問題を出題する。

 「問題! パンはパンでも、食べられないパンはなーんだ?」

 クイズというかなぞなぞだった。

 しかも超易しい………

 「分かった!賞味期限の切れたパンや!」

 「いや、待て………目玉っ子!賞味期限は食品をおいしく食べられる期限だからこの場合は消費期限が正解じゃないか?」

 どうでもいいけど千代の事目玉っ子って呼ぶんだ、黒田。

 悩む二人の横を見るとラルカさんが「パンなのに食べられない………哲学でしょうか………」などと独り言を呟いている。

 これ僕が答えた方がいいのかな。

 いや待て、皆が必死でボケようとしている所で普通に回答して冷めるパターンだこれ!

 ってそんなわけ無いか………


 意を決した僕が回答しようとすると、メアが先に口を開いた。

 「フライパンが答えじゃないか?」

 「「「!!!!!!!!」」」

 千代、ラルカ、黒田が驚愕の表情を浮かべた。

 ハピネスメリーも感心した様に頷き言う。

 「ふむ、流石魔王としての力はいまだ健在か………」

 「おお!正解や!」

 「なるほどそういう考え方もあるのか………」

 「流石メアさんです。私感動のあまりフライパンになってしまいたい気持ちです」

 「あれ?アタシ何かやっちゃいました!?」

 四人ともテンション高いな。


 大学の友達と飲み会に行った時、僕だけ毒無効能力でアルコールが効かず、周りの友達だけがテンション高くて寂しくなったのを思い出した。

 「じゃあ、約束通り教えてくれ、アウラの居場所を!」

 メアがハピネスメリーに向かって言った。

 「アウラ………ああ、背中を大怪我していた男のことか?」

 「そうだぞ!そいつの居場所を教えてくれ!」

 「待て、先程確かにお前は正解にたどり着いた。だが、その前に二回間違えているではないか。猿にタイプライターを適当に打たせても、やがてはシェイクスピアを書き上げるように、何度も回答すればいつかは正解するだろう。故に先程の回答は間違いとする!」

 「猿にタイプライターを打たせても五分もしないうちに飽きると思うぞ」

 「いや………うん。分かった、もう一度チャンスをやろう、次の問題に答える事ができれば! 望み通りアウラの居場所を教えてやろう!!」

 ハピネスメリーか提示した妥協案にメアは頷いた。


 「よし、では行くぞ!ハピネスメリーの!ハピネスクイーーーズ!!」

 それ毎回やんの?

 「Hになるほど、硬くなる棒ってなーんだ?」

 一問目と同じ簡単な問題。

 悩む必要は無い、僕が答えてしまおう。

 答は………

 「ち◯ち◯!」

 千代が間髪入れずに答えてしまった。

 それにしてもど直球だな、千代。

 「残念!答は鉛筆でしたー!」

 「えー、なんで鉛筆が硬なるん?」

 千代が抗議の声を挙げるとハピネスメリーは正解の理由を説明する。

 「鉛筆の芯はB、HB、HとHになるにつれて硬度があがっていく」

 「「「「!!!!!!!!」」」」

 千代、メア、ラルカ、黒田がまたもや驚愕している。

 先の問題には答えたメアも今回の答は分からなかったようだ。


 「チッ、残念だが妖精の知識は俺たちの遥か上を行くのは認めざるを得ん」

 「まさしくこの叡智こそ私が求めるものです」

 「しゃーなしか、何か他の方法で探すしか無さそうだぞ」

 さっきから僕と他の面々とで反応が違いすぎてカルチャーショックが凄まじいんだけど。

 あと感動している所申し訳無いけど、ラルカさんの求めているものってただのなぞなぞおじさんだけどそれでいいの?


 「でもさ………」

 口を開いたのは千代だ。

 「ウチの答も間違ってないよな」

 Hになるほど、硬くなる棒………いや、間違って無いけど。

 「なあ、明人君、ウチの答合ってるよな?」

 「えっ、いやー何とも………」

 「ええ!?だって明人君、昨日夜ウチの裸見ておっきくなってたやん!」

 「え゛っ………」

 なんで………

 そう言えばあの時、僕は千代に背中を向けていたので詳細は分からないが、最初は裸を見られても何とも思っていそうな彼女が、突然慌てたようになり、風呂場の方へと走り去って行った。

 そして彼女は居酒屋では当たり前のように壁を透視していた。

 これはつまり。

 つまりは………いや、考えるのはやめておこう、精神衛生上良くない。


 思考の渦に飲まれている僕をよそにハピネスメリーが口を開く。

 「ふむ………そなたの言う事にも一理ある。だが、我が出した問題は硬くなる棒が何かという問いだ。一つ目の種族が透視能力を有しているのは知悉しているが、流石に硬さまでは分かるまい」

 「それはそうやけど………明人君、どうなん?硬なってたん?」

 「ええ!?いや、あのー、そうだ、ここで僕が言ってもクイズに正解する為だって思われるだけじゃん!」

 「我には嘘を見抜く力がある。お前が真実を答えればそちらの娘の回答を認めよう」

 余計な事を………

 「やった!どうなん?ウチの裸見てち◯ち◯硬なってたん?」

 嬉々として僕に問いかける千代。

 その様子を見れば嫌がらせなどではなく、純粋にクイズに正解できるという喜びしかない。


 「えっと………」

 何で僕は片想い中の女の子からアレの硬さについて問い詰められているのだろう。

 「どうなん?」

 まっすぐこちらを見つめる千代、千代だけでなくメアも、ラルカさんも、黒田も、ハピネスメリーも、皆こちらを向いて僕が口を開くのを待っている。

 なんだか、泣きたい気分だ………


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