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 「時間も無い、急ぐぞ」

 ケーラーと別れて早々に黒田がそう言った。

 黒田を先頭に、一同は少し速いペースで歩く。

 「ちょっと電話するぞ」

 メアはスカートのポケットからスマホを取り出し、どこかへと電話を掛け始めた。

 その最中も、全員足を止めずに木造の廊下を歩き続けている。


 「私メアさん、今あなたの後ろにいるの」

 どこぞの都市伝説のような発言は、メアが電話の相手に向けて言った物だ。

 「いや、嘘じゃないぞ、今ドウシュウチョウだから二キロメートルぐらい(うしろ)だけどな!」

 電話越しの相手の声は僕には聞き取れない。

 「え、じゃあ四万キロぐらい(うしろ)だぞ、ああちょい待ち、切るな、本題はこれからだぞ」


 何となく察した。

 電話の相手はおそらく、約束の地の店長もしくは小鳥さんだろう。

 「実は新しいビジネスを初めてな、人手が居るんだ!」

 うん?

 また話が変な方向に向かっている。

 「しまやんのとこに食い逃げ犯が居るって千代から聞いてな!端的に言えばアルバイトの勧誘だぞ!」


 ああ、メアがどういう話に持っていきたいのかわかった。

 要するに、ホムンクルスに警戒されないよう、バイト募集の(てい)で話を進めるつもりだ。

 「マジか、まあ一日経ってるしな、りょーかい。ああ、今そっち向かってるからよろしく」

 そう言ってメアは通話を終えた。


 「誰と話してたん?」

 「しまやんだぞ!」

 誰だよ。

 「え?店長さん?今から行くんちゃん?」

 そういえばあの店長の名前、四万十(しまんと)だったか。

 “しまやん”と言う様な愛嬌のある風体ではないが。

 千代に尋ねられたメアは先程掛けた電話の意図を分かりやすく説明する。

 僕が思った通り、ホムンクルスの警戒心を解く為の電話だったようだ。

 しかし、既に当の本人は店には居ないとの事だ。

 詳細については現地確認で良いだろう。


 周りの風景に代わり映えが無いので正確な所は分からないが、あと二十〜三十分も歩けば約束の地に到着するはずだ。

 会話も途切れたので、何となしに僕は尋ねる。

 「今どの辺り歩いてるの?」

 「どのあたりっていっても難しいなー」

 「日本(にほん)だぞ!」

 えらくアバウトであった。

 「えー日本(にっぽん)とちゃうん?」

 「あれ?言われてみればどっちか分からなくなってきたぞ」

 どっちでもいいよ………


 結局どちらが本当か分からないまま、また、結局現在地も判然としないまま歩く事二十分。

 僕たちは再び約束の地へ到着した。


 時刻は十六時半を少し過ぎたところ。

 昼食時はとうに過ぎ、かといって夕食をとるのには少し早い時間。

 店内に客の姿は無く、僕達五人と店長、小鳥さんだけが居る状況だ。


 店の戸をくぐるなり、黒田が店長に向かって本題を切り出した。

 第五区画内で犯罪が起こった事。

 犯人のうち一人が逃走中である事。

 その犯人の仲間が、昨日この場所で食い逃げをやらかそうとした少女と同一人物である事。

 大まかに話し終えると、店長がやや深刻そうな表情を浮かべ、声を発する。

 「あの嬢ちゃんがねぇ………」

 「マリアちゃん、昨日もお仕事頑張ってくれましたし、良い子でしたけどね」

 小鳥さんの言った“マリア”というのが僕らの追いかけているホムンクルスの名前のようだった。

 「良い子かどうかは判らんが、その少女自体は容疑者では無いからな。住んでいる場所や行った場所、その他分かる範囲で良いので教えて欲しい」


 店長は少し考える素振りを見せた後、その横に居る店員に声を掛ける。

 「小鳥、お前何か聞いたか?」

 「正確な住所は聞いていませんが、今ツリーウッズフォレストの森に居ると言っていました」

 何だその馬鹿みたいな名前。

 「霊脈樹の外かー」

 「霊脈樹?」

 僕の問いかけにラルカさんが答えてくれる。

 「霊脈樹というのは私達が今いる建物の事です。ツリーウッズフォレストは霊脈樹の南側に広がる樹海です」

 簡潔なラルカさんの説明に黒田が補足説明をする。

 「ツリーウッズフォレストの森、そこは暗き暗黒が支配する漆黒の暗闇………」

 うん、暗いっていう事しか分からない。

 「実際、そこまで暗い訳ではありません。木々に覆われていて日の光は全く届きませんが、代わりに植物や岩石などが光っていてそれなりの明るさは有ります」


 「ことりん、マリたんが森のどのあたりに居るかはわかるのか?」

 「マリたん………ああ、マリアさんですか。いえ、詳しい場所までは聞いてないですね」

 「取り敢えず現地で捜索するしか無いか………」

 黒田の言うとおり、手掛かりが無ければ現地で探すしか無いだろう。

 「虱潰(しらみつぶ)しに探す感じ?」

 「ロードローラー作戦やな!」

 「アスファルトでも固めるの?」

 「俺たち五人だけではローラー作戦をやるには少なすぎるな………」

 「うーん、あいつに聞くか」

 「あいつって?」

 「ハピネスメリーっていう妖精だぞ!ツリーウッズフォレストに住んでて、森の中の事は大体知ってる奴だぞ」

 森の妖精にも知り合いが居るのか。

 相変わらずメアの顔の広さには驚かされる。


 「目的地は決まったな。行くか」

 黒田がそう言い、僕達は席を立った。

 店長から夕食はいいのかと引き留められたが、昼食の時間が遅かったせいでまだ空腹ではなかった。

 居酒屋に来て何も頼まず帰るのは憚られたが、店長がまた明日来いと言ってくれたので、約束をした後店を後にした。


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