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ケーラーデバイス

14 ケーラーデバイス



 目的地のドウシュウチョウは僕らが来た方へと戻る方向にあるらしく、また川を越えることになった。

 渡る川は神社へ行った時に通った川と同じものだが、渡り廊下は千代が先刻踏み抜いたものとは違う廊下だ。

 行きで向かった廊下よりもかなり幅が広い。

 五人で横並びになって歩いてもまだ余裕がある道の広さだ。


 談笑しながら歩いている最中、黒田が歩く際に全く足音がしない事に気が付いた。

 足元を見ていると、黒田も僕の視線に気が付いたらしく反応してきた。

 「クセになっているんだ、音を消して歩くのが」

 何かの漫画で聞いた事があるような台詞なのは置いておいて、さすがは警察官と言うべきか。

 映画やドラマのように尾行や潜入捜査といった事もこなすのだろうか。


 「俺の下の家に少し物音がしただけで苦情を言ってくる老人が住んでいてな」

 「ただのご近所問題かよ!」

 つい敬語も忘れてツッコミを入れてしまった。

 「すみません、つい………」

 「かまわん、俺に対して話すときに敬語は要らん」

 「そもそもなんでアッキーはたかしぃに敬語使ってんだ?」

 「いや、だって警視長なんて凄い上の人じゃないの?」

 「俺の警視長という肩書きは唯の飾りに過ぎん。それぞれの組織が協力してこの島を管理しているという建前だ」

 お飾りの役職にしては階級が高すぎる気がするが、それなりの事情というものがあるのだろう。


 「だからボウズも俺に敬語を使う必要は無い」

 「役職はともかく年齢的にも敬語かと思ったんですが」

 「お前、年齢は何歳だ?」

 「ちょうど二十歳です」

 「おお!アッキー、アタシと同い年か!」

 「え………同い年なの?」

 「あっ、でも誕生日十月だから来月で二十一歳だぞ」

 「まさかの年上!」

 人は見かけによらない………というか、むしろ人じゃないからこんな見た目なのだろうか?


 「そういえば、ラルたんって何歳なんだ?身体が人形どから実年齢がさっぱりだぞ」

 「私は二十五歳ですよ。生身の身体だったのは十二歳の時までです」

 「ほんじゃこの中で一番年上なんウチかー」

 「マジで?千代も年上なの………」

 「千代っち三十路越えだもんな!」

 「やめてや、そんな言い方したらめっちゃおばちゃんみたいやん」

 「悪い悪い、でも来月の誕生日には三十三だろ?」

 「まあ、そうやけど………」

 考えていたよりも三倍ほど年上だった………


 「もしかしてかの中で一番年下って僕?」

 「そうなるな、俺も二十九歳でボウズより年上だ」

 「何だかボウズって言うとハゲてるみたいだな!」

 「えっ、そうなん!?」

 千代の大きな目が明らかに僕の頭頂に向いている。

 「違うからね、ほら」

 千代の場合、冗談でも真に受けてそうなので、髪を引っ張って否定しておいた。

 そして、黒田にお願いをする。

 「ボウズじゃなくて明人と呼んで下さい。僕も敬語使うのやめま………やめるからさ」

 「お、おう………アキ………やっぱり中谷と呼んでいいか?」

 僕は名前で呼ぶのに抵抗感を示す彼に少しばかりの親近感を覚えた。

 「うん、じゃあ僕も上の方の名前で呼ぶよ」


 「アタシの事もメアって呼んでくれ、ナイトメアっていう呼ばれかたは好きじゃない」

 「ああ、分かった………メア」


 「ところで、ドウシュウチョウまではあとどれくらい歩くの?」

 「もう着くぞ!」

 メアが指を指した先を見ると、家屋の並びの中に一軒の店が見えた。


 ケーラーデバイスと書かれた看板の下、店先に上蓋の開いた段ボール箱が並び、その中に電子部品や雑貨品、用途不明なガラクタが積み重なっている。

 「おーい、居るかー?」

 メアが店の正面から店の中へ声を掛け、そのまま立ち止まることなく店の中へと入っていく。

 「これはメア殿ではござらぬか、久方振りでござる」

 声の方を見ると二足歩行の獣が立っていた。

 動物が喋っていても最早違和感を覚えないあたり、僕もこの島に慣れてきたものだ。

 「お猿さんがおるで!」

 「ゴリラだぞ!」

 「いやあれはチンパンジーじゃないか?」

 千代とメアと黒田が好き勝手言う中、その猿だかチンパンジーだかわからない生物が口を開く。

 「拙者はホモでござる!」

 「何言ってんのこの猿!?」

 「猿ではござらぬよ。拙者、こんな見た目ではありますが、歴としたホモ・サピエンスでござるよ」


 ヒトかと言われればヒト属なのだろうが、現代人ではなく旧世代の猿人を思わせる風貌だ。

 格好は半袖の白Tシャツとアイボリーの半ズボンで、露出した手足は体毛で覆われている。

 目の前の自称ホモ・サピエンスは話を続ける。

 「見てのとおり、拙者かなり毛深く猿のような見た目であるが故、人語を話す不思議な猿としてここ、第五区画に連れてこられのでござる」

 酷い話だ、本人はただ普通に暮らしていただけなのに。

 見た目だけで人を連れ去るなど法も知性もあったものではない。

 「いや、騙されるなよアッキー」

 僕が自称ホモ・サピエンスに同情しそうになると、メアが横槍を入れた。

 「どういう事?」

 僕の問いかけると、メアより先に別の声が答えた。

 「そいつが捕まったのは自業自得にゃ」


 声のする方を見るとレジカウンターの後方に黒い猫と栗毛の犬が居る事がわかった。

 喋っているのは猫の方だ。

 「そいつ街中で全裸で居た所を逮捕されて、自分で『拙者、猿だから裸でも犯罪じゃないでござる!』って言いはってたにゃ」

 「変態じゃん!」

 「誤解でござる!毛深いと真夏は夜でも暑いのでござるよ。毛深い身体の上に服を着ると蒸れるのでござる。むしろ合理的な判断だと褒めて欲しいでござるよ」

 捕まっても全く懲りた様子が無い。


 「で?お前ら何しに来たにゃ?」

 「おっ、そうそう………」

 メアが目の前の猫と猿人、犬に経緯を話す。

 第二倉庫で盗みがあった事、その犯人の一人であるアウラを探している事、アウラがステルスルアンを所持している所為で魔力による追跡が難しい事。

 メアがある程度話した所で猿人が質問を投げ返してきた。

 「なぜメア殿等が泥棒探しを?警察に任せれば良いのではござらぬか?」

 もっともな質問に黒田が答える。

 「俺が警察だ」

 彼の風貌はとてもではないが警察には見えない。

 さらに、警察手帳も出さないし所属も言わない。

 同行している僕の口からはとても言えたものではないが、この男は本当に警察なのだろうか………

 「成程、メア殿が第五区の管理者を辞めた話は知っていたでござるが、警察に転職したのでござるか!」

 「こいつ馬鹿だから気にしなくていいにゃ」

 猫の辛辣なツッコミを意に介さず猿人は黒田に挨拶をした。

 「拙者、ケーラーと申す。ここの店長でござるよ。因みにそっちの猫はシュレーディンガー、犬はパブロフという名でござる」

 シュレーディンガーと呼ばれた猫が会釈をし、パブロフはワンと鳴いた。

 「黒田だ。宜しく頼む」

 黒田に続き、僕と千代、ラルカさんが名前を伝えた。


 「話を戻そう。メアの言った通り、犯人のアウラはステルスルアンを使用しているため、魔力探知による追跡は出来なかった。何かこれを探知する方法は無いか?」

 「ほら、前に痕跡探す機械量産するって言ってただろ?あれを使いたいんだぞ」

 「ああ、あれでござるか………」

 メアの問いかけにケーラーは浮かない顔になった。

 「実はあれはここではあまりなのであっちに利権だけ売ったので結局のところやってないのでござるよ」

 抽象的過ぎて何を言ってるのかさっぱりだ………

 「機械を作ってもこの島ではあまり需要が無かった為、その技術だけを特区外へ売り渡したという事でしょうか?」

 ラルカさんの理解力が半端無い。

 「アルハザード氏の言う通りでござる。結局特区内での捜査は魔力、霊力を使った捜査の方が一般的で、誰も使ってくれなかったのでござるよ………」


 「凄い技術なのに、何だかもったいないね」

 「そうでもないぞ!この手の技術や道具の輸出で特区内の経済が回ってるからな!ちなみに島の管理の方で審査して問題なければ誰でも売れるぞ!」

 「私も以前、ヨーグルトの蓋を開けた時に蓋側にヨーグルトがつかなくなる魔術を売りに出そうとしましたが審査に落ちてしまいました」

 「何その限定的な魔術」

 「島の外への輸出は収益や秘匿技術を流出させた場合のリスクなんかが審査されるんだ。っていうかそもそも魔術っていう時点でアウトだぞ」


 当たり前の話だが、この島に来る前までは、自分の謎の能力を除いては魔術の類を見た事がなかった。

 言うまでもなく魔術はこの特区内だけの機密事項なのだろう。


 「でも困ったぞ、量産探索ロボを使って、数に物を言わせた探し方をしようと思ってたのに、宛が外れたぞ………」  

 「プロトタイプの一体だけならここに居るでござるが………」

 ケーラーの言葉に反応するようにパブロフがワンと鳴いた。

 「ひょっとしてパブロフってロボットなの?」

 「ご明察!量産しなかった分質感にこだわったのでござる」

 「前にアタシに見せてくれた時は明らかにロボットの見た目してたもんな」

 「しかしどうする、この一体だけでも捜査を手伝って貰うか?」

 「うーん、たかしぃの言う通りコイツを使ってもいいけど一体だけじゃなー」

 多少の戦力にはなるだろうが、最良の方法とは思えない。


 「お詫びと言ってはなんだが、拙者が取って置きの情報を教えるでござる!」

 どうしようかと言う雰囲気の中、ケーラーが問題解決の糸口を提示しようとする。

 「なんと………ハチミツは腐らないでござるよ!」

 「どうでもいいわ!」


 どうでも良い雑学を披露するケーラーそっちのけで、シュレーディンガーが黒田に尋ねる。

 「この事件、フダはあるのかにゃ?」

 「………管理者依頼票がある」

 「シス管に連絡するからちょっとこっち来いにゃ」

 彼はそう言った後、奥の部屋へと入って行き、黒田もそれに続いた。

 「何しに行ったの?」

 「おそらく、第五区画内のネットワーク利用ログを調べるのでござろう。シュレーディンガー氏は第5区画内のネットワーク利用ログを調べる専門家でござるよ」

 えらく限定的な専門家だな………


 「しばらく待ち時間かな」

 「ウチお腹減ってきたわー」

 言われてみればもう十三時を過ぎている。

 「シベリアでも食べるでござるか?」

 そう言ってケーラーはカウンターの裏から菓子を取り出した。

 カステラとカステラの間に羊羹が挟まってサンドイッチのような見た目をしている。どのあたりがシベリアなのか全く分からない。

 「美味しそうやけど、たかし君と猫ちゃんのお話終わるまで待っとくわ」

 「ここを出たら近くで何か食べましょうか」

 僕とメアと千代はラルカの意見に賛成した。


 「はよ話終わらへんかなー」

 「暇潰しというわけでもござらんが、二人があっちで調べている間にお見せしたい物があるのでござるよ」

 そう言ってケーラーがカウンターの上に乗っているパソコンのモニタを180°反転させ、僕らの方へ向けた。

 カウンター裏へと回った彼がマウスとキーボードを操作すると、黒いウィンドウに白い文字が表示された。

 [初めまして、僕はラプラス、どんな質問にも答えるよ]

 「拙者が開発した汎用型AIでござる。このキーボードで文字を打ち込むでござるよ」

 「へぇ、凄い」

 僕の大学にも学科によってはAIを学ぶ学課もあるが、個人で製作しているとは驚きだ。

 素直に驚いた僕の反応に満足したのか、ケーラーが僕にキーボード入力を促したので、ケーラーに質問をする。

 「どんな質問でもいいんですか?」

 「大概の質問には対応できるでござる!」

 自信満々のようだ。


 僕は取り敢えず無難な質問を入力した。

 〈今日の天気はなんですか?〉

 質問を入力したあとEnterキーを打ち込むと、即座にAIの回答が表示された。

 [うーん、いい質問だね]

 きちんと動作はするようだ。僕はAIの次の言葉が表示されるのを待った。

 「………もしかしてAIからの回答ってこれだけ?」

 「然り。次の質問を入力するでござる」

 ええ………


 落胆した僕の横ではもう千代が次の入力を始めている。

 両手の人差し指だけでたどたどしくキーボードを打っている様子は、パソコンを使い始めて間もない老人を思わせる。

 全ての文字を入力し終えた千代がEnterキーを叩いた。

 〈お腹すきすぎたら逆に空腹感なくなるよなー〉

 質問じゃないし!

 しかしながらこの様な入力でもAIは即座に反応した。

 [確かに!]

 「おー!ちゃんと返事したで!」

 「いや、反応はしたけどさ………」


 「あっ」

 ラルカさんが何かを思いついたように声をあげた。

 「こういうのはどうでしょう」

 千代と違い五本の指を使いキーボードに入力を行うラルカさん。

 彼女が打ち込んだ文章は………

 〈この文章は誤りである〉

 なるほど、自己言及のパラドックスか。

 この文章の内容を信じるならば文章は誤りだが、『誤りである』という文章通りなので正しい事になってしまう。

 AIはこの矛盾を処理しきれず固まってしまうとかどうとか、そういった話を聞いた事がある。

 ただ、このAIの場合は………

 〈それな!〉

 「これ多分なにも考えてないよね」

 「じゃあ適当に打ったらどうだ?」

 メアが乱雑に文字を入力した。

 [じょppmfヴぁw:」pじゃ]

 意味の無い文章が画面に表示されるや否やAIからの回答が表示される。

 〈ふむ、深いな………〉

 案外、隙が無い。


 「どうでござるか!?拙者の開発した人工知能は!!」

 「飽きたぞ!」

 ばっさりだ。

 その言葉を受けてケーラーは得もいわれぬ様な表情を浮べている。

 「い、いやメア殿………まだ反応のパターンはあと三種類ある故………」

 残り三種類しか反応ないのかよ………


 「なーなー、これの他に何かないん?」

 「え、ああ、あるでござるよ!もちろんあるでござるよ!」

 何で二回言ったんだ………


 その後も彼の発明した珍妙な品々を紹介された。

 五本の指全ての爪を同時に切る事が出来る爪切りや全身にヒートシンクを取り付けて涼しくなる服、親指の先くらいの大きさしかないドローン、節水を謳う水量が異様に少ないシャワーヘッドなど、実用性の無いようなものから高度な技術で出来た発明品まで玉石混交だ。

 いずれも島の外では見た事がない珍しい物ばかりで、それらは僕の好奇心を刺激した。しかし、一時間も経つと千代とメアが飽きてしまったようだ。

 「たかしくんと猫ちゃん遅いなー」

 「さすがに腹減ってきたぞ」

 「お二人ともずっと調べものをしている様ですね」

 「ほんまや、猫ちゃんパソコンで何かやってるわ」

 千代とラルカさんは壁の方を向いてそう言ったが、残念ながら僕には壁の向こうは見えないし聞こえない。

 シュレーディンガーが猫の身体でどうやってパソコンを動かしているのか少し気になる。

 「シュレーディンガー氏は一度作業を始めたら声を掛けるか、作業が終わるわまでずっとやっているでござるからな」


 コンコンコン。

 メアがカウンターの後ろの段差を乗り越え、奥の扉をノックした。

 扉が開き黒田が姿を見せると、メアは彼に話しかけた。

 「どんな感じ?きりが良くなったら飯食べに行かね?」

 「少し待ってくれないか?ちょうど尻尾を掴んだところなんだ」

 「尻尾掴んだらシュレも嫌がるだろ」

 「掴んだのは俺の尻尾じゃなくて犯人の手掛かりにゃ、お前らあと十分程待つにゃ」

 「じゃーあとちょっと待つかー」

 そう言った後、メアは踵を返し僕らの居る方へと戻ってきた。

 「ってわけだ!」

 「ほんじゃあもうちょっと待つわー」

 「そういえば茜さんと荒川さんの方は進展あったのでしょうか」

 そういえばそうだ。確か二人は犯行現場に調査に行ったはずだ。

 何か有力な手掛かりを掴んでいるかも知れない。


 「アッキー、あかねんに連絡よろ」

 「僕!?」

 「せっかく指染まってんだから使わなきゃもったいないぞ」

 「確かにそうだね。分かった、連絡取ってみる」

 僕は紺色に染まった指先を重ねて狐の窓を作る。

 複雑な組み方だったけどどうだったか………こうかな?


 指と指の隙間から、ここではない別の空間が見えた。

 四方を壁に囲われた狭い部屋だ。

 両手で組んだ人差し指と中指の隙間は一円玉程度の大きさしか無いため、孔を覗き込んでも全体を見渡す事は叶わない。

 手を動かしてみるとそれに伴い向こう側の景色も動いて見えた。

 手を動かしながら、狐の窓で空いた孔の下方を見ると茜の姿を発見できた。

 中央に茜が座っており、それを正面上方から見下ろす様な見え方だ。

 彼女の姿を視界に捉えると同時に、この場所が何であるのかも把握した。

 僕が狐の窓を使って茜に連絡しようとした今この瞬間、間の悪い事に彼女はちょうどトイレで用を足している最中だった。

 巫女服の下半分、袴は膝下まで下ろされてはいるが、全身を覆う体毛と角度のせいで局部は見えない。


 暫く間の抜けたような表情をしていた彼女だったが、ふと上方を見上げた。

 狐の窓越しに僕と視線が合う。

 僕は瞬間的に組んだ両手を離した。

 「どうしたん?茜ちゃんおった?」

 「え?ああ、うん………」

 僕はしどろもどろになりながら答えた。

 どう説明しようか僕が考えていると、それよりも早くメアのスマホが鳴動した。

 「おっ、あかねんからだぞ!」

 ヤバい、どうしよう。

 いや、取るべき行動は全力謝罪一択なのだが。


 メアは電話越しに茜と何か話しているようだが、思考が支離滅裂になっている僕はそれどころではなかった。

 とりあえず、メアが茜と話し終えたら通話を代わってもらおう。

 二人の通話は(こと)(ほか)長かった。

 もしかすると僕の中で言い訳や茜との関係、周囲の反応など延々と思考を巡らせていたせいで充実時程錯覚により体感時間が長くなっているだけかもしれないが。

 いずれにせよそんな長い時間を歯医者の順番待ちのような、あるいは刑の執行を待つ死刑囚のような気持ちで待ち続けていると、メアが茜との会話の中で僕の名前を発した。

 「アッキー?横にいるぞ、代わろっか?」

 メアはそんな発言をした後、僕に通話中のスマホを手渡した。


 「申し訳ありませんでした!!」

 茜が話し始めるよりも先に送話口に謝罪の言葉を述べる。

 「………事故だしね、無かった事にしよう!」

 幸いな事に茜は怒っている様子では無かった。

 「私もこの術式、他人(ひと)に使ったの初めてだったからこんな欠点が有るとは思わなかったよ」

 改めて謝罪をしようかとも思ったが、茜自身『無かったことにしよう』と言っている以上、話を蒸し返す必要もないだろう。

 僕も心の中で、先ほどの事は“無かったこと”にして、話の流れに身を任せる。

 「あの術式他の人に使ったことなかったの?」

 「今はスマホがあるからね、そのうち術式を改良するからそれまでは使用禁止でお願い」

 「え?もう今後使えなくするものかと思ったんだけど」

 「こんな機会でもないと使うこと無いからね。先祖代々のありがたい術式だし、改良して他の魔術に応用できるのなら一粒万倍だよ」


 その後、ラルカさんに通話を代わるよう促され、言われた通り通話を交代した。

 ラルカさんが電話越しに何か話しているようだが、ハンズフリー通話ではないので何を話しているかは分からない。

 その通話が終わる前に黒田とシュレーディンガーがこちらの部屋へと戻ってきた。


 「待たせたな、アウラに繋がりそうな手掛かりが見つかった」

 「おつかれー、あかねんの方もちょっとだけ進展あったみたいだぞ!」

 ああ、そっちも進展あったのか。

 先程はそれどころではなかったがそっちの方も気になるところだ。

 「とりあえず………飯だな!」

 「やっとやでー、お腹すきすぎてお腹と背中がくっついてまうわ………」

 「それは何というか、グロいな………」

 「その症状は、飯屋より病院に行った方がいいぞ」

 「もう、そうゆうのええから早よ行こうや」

 千代は反論する気も起きないぐらい空腹なようだ。


 僕たちはシュレーディンガーを残し、店を後にした。

 ケーラーとは昼食を一緒に食べに行くが、シュレーディンガーには断られた。

 彼曰く、「栄養補給なんてキャットフードで十分にゃ」との事だ。

 ちなみに、キャットフードしか食べられない訳ではなくコストパフォーマンス面で優れているかららしい。

 好物はネギ、イカ、チョコレートと言っていたが猫が食べて大丈夫なのだろうか………



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