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二日目

10 二日目



 空には暗雲が立ち込め、遠くの方では雷鳴が轟いている。

 「フハハハハハ!!よく来たな勇者よ!」

 まるで魔王のような事をのたまう赤紫の髪の少女。

 「いつから僕勇者になったの?」

 僕の問いかけを無視して目の前の少女は続ける。

 「貴様に世界の半分をやろう………」

 凄く魔王っぽいセリフだ。

 そう言う彼女の格好は肩のあたりがトゲトゲした甲冑、首からは髑髏の首飾りを下げており、どこからどう見ても魔王………のコスプレをした小学生のようだ。

 「そしてもう半分は千代っちにやろう………」

 両方くれるのかよ。

 僕の隣に居る和服の少女が「やったー」などと素直に喜んでいる。

 「でも世界なんか貰ってもどないしたらええか分からんな」

 「大丈夫だ、誰だって最初は初心者だぞ」

 そう言ったコスプレ少女は遠くを見ながらしみじみと言う。

 「人は成長するもんだ。アタシも仕事を始めた頃は、チェックシートを見ながら一時間以上掛けてこなしていた仕事も、一年後には十秒でチェックシートを完成させられるようになったぞ」

 「それダメなやつじゃん」

 「他にも考えている振りをしながら眠る技術、ソリティアのプレイをさも難解な仕事をしているかのように見せかける技術、自分に不利な議題になった時に細かい部分を指摘し会議を停滞させる技術、アタシは様々なスキルを身につけてきたぞ」

 「見事に余分なスキルばかりだね」

 「英語で言うとエクストラスキルだな!」

 「無駄にカッコいい!!」

 「なんかウチにもできる気がしてきたわ!」

 「おし!みんなで世界を盛り上げていこうぜ!」

 「「おー!!」」

 こうして、僕たちは世界を手に入れたのであった。



 「おーい」

 声が聞こえる。

 「起きろー」

 「う………ん?」

 目を開けるとサキュバスの少女が僕を覗き込んでいる。

 「おはようアッキー」

 夢か………

 変な場所で寝たせいで変な夢を見てしまった。


 「おはよう、メア」

 「千代っち寝相悪かっただろ?」

 「危うく殺されかけたよ………」

 昨日はパーカーを着用しフードを被っていたメアだったが、今日の上着はTシャツ一枚のようだ。白地に黒い円が四つ描かれており、その下にfourmalと文字がプリントされている。

 フードを被っていた時には良く見えなかった紫掛かった赤い髪、それに羊のような角が見える。


 ドタドタドタ。

 程なくして、こちらに近付いてくる足音が聞こえた。

 「明人くん起きたん?」

 「おはよう、千代」

 千代は寝る時襦袢のみであったが、昨日と同じ着物に着替えているようだ。


 「こっちの部屋まで来るとか明人くんも寝相悪いなー」

 「あ………うん」

 あの後、ベッドに戻ろうか考えた。

 確かに千代に締め上げられた時は苦しかった。

しかし、本人もわざとやった事ではない上、万が一同じ事態が再発しても僕自身、変わり身により怪我をする事は無いのだ。

 それにまだ残暑が続くとはいえ、もう九月だ。

 布団の外で眠るには時期を逃しているだろう。

 決して、千代と一緒に寝たいだとか、もう一度あの柔らかい肌に触れたいだとかそんな事は考えていない。

 寝るときにベッドに入るのは当然の行為だ。

 断じて千代の横で一緒に寝て匂いを嗅ぎたいだとか、あわよくば抱きしめたいだとかは微塵も思っていない。

 だってそうだろ、一瞬とはいえ、骨が折れ、内臓が潰れるような痛みを味わった後だ。

 そんな理由で戻るわけないじゃん。


 僕はそんな事を考えながら、ベッドに近付いた。

 そこでベッドの上を見下ろすと、千代が抱きついていた丸太がバキバキに砕け散っているのを目撃してしまった。

 数分後の自分を客観視した様な気持ちになった僕はそのまま(きびす)を返し、ホールにあるソファで寝る事に決めたのであった。


 「アッキー、もう出来てるぞ」

 「明人くん早よ食べよ」

 二人の声のする方を見ると、千代、メア、ラルカの三人がテーブルにつき食卓を囲んでいた。

 長方形のテーブルに椅子が四脚、空きの一席にも皿の上にトーストが置かれている。


 席に近付くとラルカさんと目が合った。

 「おはようございます」

 「おはよう………」

 「ゆうべはおたのしみでしたね」

 「楽しんでないから!」

 「そうですか、私は少し浮かれすぎて筐体をスクラップにしてしまいましたが………」

 「うちも結構おもろかったで、数値出ぇへんかったけど」

 「部屋のすみで埃被ってたけど有効活用できて良かったぞ」

 「あ、ああやっぱり僕も楽しかったかな………」


 朝食を終え、一時間程度の休憩を挟み出発となった。

 「これから何処へ向かうのですか?」

 そういえばラルカさんはそもそも、僕が島の外から来た事も、人探しをしている事も知らないのだった。


 「歩いている間時間はたっぷりあるし、そこでじっくり説明するぞ、アッキーが」

 「説明はいいんだけど、ラルカさんも連れて行くの?」

 「同じ釜の飯を食った仲だしな!」

 「一緒に食べたのは朝食のトーストだけだけどね」

 「じゃあ今度ウチが釜飯作るわ!」

 「ふふっ、楽しみにしていますね」

 「ラルカさんはいいの?」

 「ご迷惑でなければご一緒させて頂こうかと思っています。他に予定もありませんし」

 「じゃあ皆で行こうか」

 「はい!」

 ラルカさんは笑顔で頷いた。


 曲がりくねった通路を進む。

 この島の中に来てからというもの、ずっと同じ建物内にいる為、未だにどの辺りを歩いているのか見当がつかない。

 道中、僕がこの島に来た経緯をメアとラルカさんに説明したり、その他談笑などしたりしながら進む。


 先頭のメアは迷いのない足取りで歩いている。

 今は幅の狭い通路を歩いているので、彼女を先頭に千代、僕、ラルカさんが歩いている状況だ。

 「通路の両側にある部屋ってどれも誰かが住んでるの?」

 「いんや、そうとも限らないぞ。扉が付いている所も開けると壁だったり、部屋がいびつな形してたりするから、割と空き家も多いぞ」

 言われてみれば確かに、廊下もこれだけ曲がりくねって起伏も激しいのだ、部屋の中が同様の状態だというのはなる程納得できる。


 「例えば適当にここの扉なんかを開けてみると………」

 メアが自分の横にあった引き戸に手を掛け、開いた。

 家の中でテレビを見ながら寛いでいた、白Tシャツにトランクス一丁の猫耳ハゲ中年男性がこちらを向いた。

 「間違えましたー」

 ガラガラガラ

 「何がしたかったんだよ」

 「まあ、あれだ、空き家もあれば住んでる人も居るって事だな!」


 そんなやり取りをしながら先に進んでいると、僕達の通ってきた細い通路は大きな通路に合流した。

 通路の壁には窓が並び、光が射し込んでいる。

 窓から外を見ると百メートル程向こうにここと同じ木造の巨大構造物が見える。下の方へ目をやると、建物同士の間を川が流れている。

 建物の下部が浸水しているように見えるが木材が腐ったりはしないのだろうか。

 高さから察するにここは地上七〜八階くらいか。

 対岸の建物が大きすぎて壁のように見える。

 建物が直線ではないので端は見えない。

 視線を横方向へと向けると、今居る建物と対岸の建物とを繋ぐ渡り廊下がいくつか見える。

 それらのうち最も近くにある渡り廊下を指差し、メアが言う。

 「今からあれ渡ってあっちのキタ区に行くぞ」

 「あかねん………さんでしたか、これから会いに行く方はキタ区にいらっしゃるんですよね?」

 「そうだぞ、このまま行くとあと三十分ぐらいで着くと思うぞ」


 渡り廊下は僕達の居る階より下にあるため、近くの狭い階段を一列になって降りる。

 三階分降りた所で渡り廊下の入口が見えた。

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