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エレクス=マーロ

【注意点】

 全29話予定です。

 初投稿でよくわからない為年齢制限をR15にしておりますが、暴力・性描写はあまりありません。

0 プロローグ


 空には暗雲が立ち込め、遠くの方では雷鳴が轟いている。

 「フハハハハハ!!よく来たな勇者よ!」

 まるで魔王のような事をのたまう赤紫の髪の少女。

 「いつから僕勇者になったの?」

 僕の問いかけを無視して目の前の少女は続ける。

 「貴様に世界の半分をやろう………」

 凄く魔王っぽいセリフだ。

 そう言う彼女の格好は肩のあたりがトゲトゲした甲冑、首からは髑髏の首飾りを下げており、どこからどう見ても魔王………のコスプレをした小学生のようだ。

 「そしてもう半分は千代っちにやろう………」

 両方くれるのかよ。

 僕の隣に居る和服の少女が「やったー」などと素直に喜んでいる。

 「でも世界なんか貰ってもどないしたらええか分からんな」

 「大丈夫だ、誰だって最初は初心者だぞ」

 そう言ったコスプレ少女は遠くを見ながらしみじみと言う。

 「人は成長するもんだ。アタシも仕事を始めた頃は、チェックシートを見ながら一時間以上掛けてこなしていた仕事も、一年後には十秒でチェックシートを完成させられるようになったぞ」

 「それダメなやつじゃん」

 「他にも考えている振りをしながら眠る技術、ソリティアのプレイをさも難解な仕事をしているかのように見せかける技術、自分に不利な議題になった時に細かい部分を指摘し会議を停滞させる技術、アタシは様々なスキルを身につけてきたぞ」

 「見事に余分なスキルばかりだね」

 「英語で言うとエクストラスキルだな!」

 「無駄にカッコいい!!」

 「なんかウチにもできる気がしてきたわ!」

 「おし!みんなで世界を盛り上げていこうぜ!」

 「「おー!!」」

 こうして、僕たちは世界を手に入れたのであった。




1 エレクス=マーロ


 時刻は十二時過ぎ。

 生徒たちが食堂へ向かう中、僕は一人食堂と反対の方向へと歩を進めている。

 友人たちに食堂へ誘われたが残念ながら今日の僕の昼食はスーパーの弁当だ。

 大学内の白い廊下を抜け一号館へと向かう。

 食堂から一番離れた位置にある一号館内は、この時間になると生徒がほとんど居なくなる。

 これから向かうのはそんな建屋の中でも生徒が全く居ない場所だ。

 十階建ての建物の十一階。

 本来あるはずのないその階はこの大学の隠された施設………などではなく、ただの屋上階兼空調機械室だ。

 昼食をとるのなら中庭か休憩室にでも行くのが普通だが、賑やかな場所で一人で食べていると周りの視線が気になってしまう。

 そういうわけで、他に人の居ない十一階で昼食をとろうという算段だ。


 エレベータに乗り“RF”のボタンを押下する。

 エレベータが屋上階に到着し、エレベーターを降りる。

 そこは屋上階に出るための扉と階段へ繋がった出入口のみがある空間だ。

 屋上階の為、僕の他に人はいない。

 こんな滅多に人が来ない場所でも掃除が行き届いている。

 ピカピカな床からは、清掃員さんの苦労が伺える。

 「うん?」

 異変に気付く。

 いつもは封鎖されている機械室の扉が開いている。

 生徒が居ないこの場所も、たまたま業者が点検にきているということもあり得るだろう。

 そもそも、ドアもありエレベーターも停まる階だ。

 他に人が居てもなんらおかしい事はない。

 少し意外だったのは、扉の向こうに見えたのが青い空ではなく低い天井だったことだ。

 半分開いた扉の内側にはゴシック体で空調機械室と表記されているが、そこから見える景色はどう見ても室内だ。

 エレベーターホールのリノリウム張りの白い床と対比して扉の向こう側は木張りの床で、古臭い感じがする。

 部屋の中に物は無く、奥に目を向けると格子状に組まれた木製の壁が見える。

 無機質な機械室を思い浮かべていただけに、このレトロな部屋には興味をそそられた。

 しかし、僕も大学三回生。

 興味本位に立入禁止エリアに入っていくほど愚かではない。

 それに、扉が開いているということは誰かがここを使用しているということだ。

 今は部屋の中に人の姿は見えないが、用務員か点検業者かが戻ってくる前に退散したほうがよさそうだ。

「仕方ない、今日は他の場所で食べるか………」


 エレベーターの下ボタンを押してかごが上がってくるのを待っていると先程の部屋の中から声が聞こえた。

 「おーい」

 振り返って部屋の中に目を向けるが人は居ない。

 「こっちこっち」

 よく見ると、声の主は部屋奥にある格子の向こう側に居るようだ。

 格子は部屋の最奥にあり、暗がりになっているため、普通ならば見ることは叶わないだろう。

 しかしながら僕は他人よりも少し目が良い。

 少しどころか、かなりと言っても良いだろう。

 魔法や超能力のような話になるが、全く光がない場所や遠く離れた場所でもはっきりと物が見えるのだ。

 格子の向こうには、二十代くらいの優男が居る。

「そうそう、君だよ、ちょっとこっちに来てくれないか」

 静かな空間に声が反響する。

 どうしようか、入っていってよいものだろうか。

 しかし声の主は明らかに僕に向かって話しかけている。

 話しかけられているのに無視して(きびす)を返すのはさすがにできない。

 意を決して部屋の中へ入った僕は奥にある木製の格子へと近づいた。


 「初めまして、僕はエレクス=マーロ」

 名前からして外国の人だろうか。

 流暢な日本語だが、名前も見た目も日本人ではなさそうだ。

 銀髪に銀の瞳、上は白無地のカッターシャツで下はチノパン、痩せ型長身の男だ。

 右手で謎の物体(布が被せられた上からロープで縛られていて中身が見えない)を支えている。


 「初めまして、中谷明人(なかたにあきと)です」

 挨拶を返す。

 「初めて会ったばかりで申し訳ないんだけど、少しだけお願いがあるんだ」

 エレクスがそう言った直後、背後でバタンと音がした。

 振り返ると、先ほど入ってきた扉が閉まっている。

 まさか閉じ込められはしないと思うが、少し身構えてしまう。

 それにしても会ったばかりの人間にするお願いとはなんだろうか。

 様々なネガティブな思考が僕の脳内に浮かぶ。

 恐る恐る尋ねてみる。

 「すみません、ちなみに断るとどうなります?」

 「いや、話だけでも聞いてくれないかな」

 問いかけの応えになっていない。

 まるでマルチ商法の勧誘だ。

 続けざまにエレクスが話す。

 「お願いだ、扉を何度も開けてやっと君に会えたんだ、君しか居ないんだ」

 見るからに怪しい男だが、悪意は感じない。

 騙されやすい人はこう思ってしまうのだろうか。

 でも話くらいは聞いてもいいかもしれない。

 「それで、お願いというのはなんですか」

 「伝言を頼みたいんだ、僕はほらこのとおり、捕まっていてね」

 優男は苦笑いを浮かべた。

 この木組みの格子は牢屋だったのか。

 何となくそのような感じはしていたが、まさか学校の中に牢屋があるとは思わなかった。

 「僕の仲間のアウラという男に伝言をお願いしたいんだ。僕は君の友達を救う手立てを持っているので、僕の元へ来て欲しい。そう彼に言えばわかるはずだ」

 「いま一つピンとこないのですが………」

 「言った通りだよ。アウラは友達の為に行動しようとしている。問題なのは、その行動というのが犯罪行為だということだ。止めなくちゃいけない」

 犯罪行為という言葉に僕は戸惑いを覚えたが、如何せん情報が少なくどうすることもできない。

 どう返答しようか迷っているとエレクスが話の続きを語り始めた。

 「アウラはキタ区第一保管庫と呼ばれる場所から“白い石”を盗み出すつもりだ。元々は僕と一緒に忍び込む予定だったが、一度失敗している。どんな手を使うかはわからないが、彼を止められるのは君だけだ」

 「いや、ちょっと待って下さい。そのあたりの事情を警察に話して協力を要請した方がいいんじゃないですか」

 「その件なんだけど、僕がここに拘留されてから………」

 ガチャガチャ

 唐突に僕の背後で音がした。

 音の発生源は入ってきた扉の音のようだが、見たところ扉は開いていない。

 その向こうから声が聞こえる。

 扉に遮られてよく聞こえないが、声の主は扉が開かない事を不振に思ったのか応援を呼んだようだ。

 「タイミングが悪いね。とりあえずこれを扉に掛けてくれ」

 エレクスが檻の隙間から布の切れ端のような物を差し出した。

 この布が何の役割を果たすのかはわからないが、深く考えている時間はない。

 幸いなことに先ほどまで扉の向こうでドアノブをガチャガチャとひねっていた人物が鍵を取りに行ったのか、はたまた応援を呼びに行ったのか、気配は消えている。

 チャンスは今しかない。僕は布を扉のノブに掛けた。

 ………が、何も起こらない。

 エレクスの居る檻を振り返って指示を仰ごうとした次の瞬間、背中に何かが当たった。

 びくっとして後ろを振り返り気づく。

 背中に当たったのは開いた扉のようだった。

 「え?」

 扉の向こうを見て思わず声が出てしまった。

 目の前に見えるのは先ほど居たエレベーターホールではない。

 人一人が通れる程度の狭い通路。

 直線ではなくぐにゃぐにゃと曲がりくねっており、高低差もある。

 壁、床、天井は暗い色の木張りで照明は見えないが、全体的にほのかに明るく光があたっている。

 異様なのは壁や天井を覆う木の根、(つた)だ。

 扉の前で立ち止まっていると、エレクスに早く行くよう促されたので、言われるがまま外へ出た。

 「頼んだよ」

 エレクスの声が背後で聞こえ、扉が閉まった。

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