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Epilogue

 最終的に、僕やカイ、そしてリロウの評判が上がる年だった。


 あの後、勿論馬鹿な行動を繰り返していたメンバーにはそれなりの処罰が下ったし、家からも相当叱責されたらしい。結果、ヨーダ達側近候補だったメンバーは僕達の傍を離れることになり、生徒会に入っていた場合は役員を外されることになった。

 新たに入ったメンバーはこの騒ぎの中、僕やカイが見込んだ人物で、すぐに仕事を覚えてくれたのでとくに混乱もなく恙なく業務は回っている。なんならこの騒動以前、つまりクロエが現れる前より素早く回っているので、やはり側近候補を入れ替えて正解だったのだろう。

 外された者達も別に退学になったとかではないので、学園内でその姿を見かけることはある。でも、誰もが自分の輝かしかったはずの将来を失ってしまい、精気を欠いた状態で一人で過ごしているようだ。同じような状態になっている者達同士で連むわけでもなく、何かをもの思うような顔をしている姿を見かける度に、一度は近くにいた彼らが深く反省し、新たな場所で活躍できるように自分の立場を取り戻せればいいと思う。

 側近候補には相応しくない振る舞いをしていたので僕達の傍から外したことは間違っていないと思っているが、それでも一度は傍で過ごした者達なので、このまま全てを失って死んだように生きてほしいなんて思ってはいないのだから。


 そして、今回の騒動の一番の原因であるクロエは・・・、学園から去った。


 自主的に去ったとかではない。彼女は取り巻きをしていた男達と違って、家の人間を含めた誰に強く叱責されても全く堪えなかったし、自分は悪くないの一点張りだったそうなので、そもそも叱責されること自体、納得していないようだったのだから。

 その様子から、流石に人の良かった男爵も巻き込んでしまった男達の家の手前もあり庇いきれなくなってしまい、また男爵自身、彼女が貴族に向かない人間だと流石に認めざるを得なかったようで、決断をしたのだ。

 彼女を貴族籍から外し、平民に戻す決断を。

 話に聞くところによると、相当クロエは抵抗したそうだが、抵抗したところでどうなるものでもなく、彼女は貴族籍を外され、母方の遠縁に引き取られたらしい。

 ただクロエの母は男爵の後妻のままだし、男爵自身が一度は娘になったクロエを見捨てる気はないようで、生活費を含めた諸々の援助はし続けるそうだから、べつに生活に困ることはないだろう。


 問題は全て排除され、平和を取り戻した学園に残ったのは問題を解決すべく準備をして、実行した僕達王族に対する高い評価だった。


 たぶん、皆、それだけクロエや取り巻き達の行動に困っていたということなのだろうが、とにかく皆から感謝され、流石王族の方々だと方々で褒め称えられた。

 こちらとしては、排除する気ならもっと早くできたところを、側近候補を選別する期間を設けていたのでここまで時間がかかっていたこと、なんならもう少し、今年度が終わるまでこのままの予定だったのだから、そこまで感謝されるとなんだが申し訳ない気がしてきてしまう。

 しかしそれをおくびにも出さず、鷹揚な態度で受け流しながらも気になるのは、僕達の評価ではなく、リロウの評価だった。


 リロウはそれまで男子生徒や一部女子から評判が悪いところもあったのに、今や全校生徒から慕われている。


 理由は勿論、あの時の涙だ。リロウはその外見や振る舞いから、身勝手なところがある、もしくは傲慢だ、情がない等と思われることもある。僕に無関心だという噂があることも影響していたのだろう。

 しかしあの時、アーネストの為に涙を流すという姿を皆が見てから、本当は情に熱い優しい人で、張り合うべき同じ公爵家の令嬢の理不尽にすら涙を流せる人、そして婚約者である僕との関係も良好らしいと認識が改まったようなのだ。

 ・・・結構な誤解があるが、それでもまぁ、ある意味、情に熱いという認識は間違ってはいないと思うし、公爵家同志だからといって張り合う気がないのも事実だし、僕との関係も詳細に言及しなければ良好なのも事実なので、べつにその誤解は否定する必要もないだろう。

 カイはその誤解に色々思うところがあるようで、物言いたげな視線を向けてくることもあるが・・・、その辺は全力で気づかない振りをしている。

 だから今回の騒動は概ね、片付いた。それも良い方向で片付いた。・・・はず、なのだが。


「ライ・・・、私、一生ライについて行きますわ!」

「えーっと・・・、突然、なに?」

「来週、ようやくアーネスト様とお茶会ができることになりましたのっ!」

「へぇ・・・」

「それもアーネスト様の方からお誘いくださったのですわっ! お屋敷でお茶会を開くので、と」

「彼女、お茶会好きじゃないでしょう? それなのにお茶会、開いていたの?」

「ごく親しい方だけ招いて、内輪だけのお茶会は今までも開いていたそうですわ。それに私も、と仰ってくださって・・・、あぁっ! 今から手が・・・!」

「・・・手? いや、手は関係ないからね? というか、よからぬことに手を使おうとしないでね?」

「これもライのおかげですわ! あの時、私の積年の願いを叶えてくださったおかげで・・・、あの滑らかな頬に触れる至福の時間をもたらしてくださっただけではなく、こうしてさらに幸せな時間をもたらしてくださるだなんて・・・、もう、生涯ライについて行く覚悟を改めて固めましたわっ!」

「そう・・・、今、固めたんだ・・・」


 全てが片付いてすっきりした気分で入ったはずの冬季休暇。それでも王子妃教育も僕の執務も休みだからと減ることはないので、二人ともいつも通り王城でそれぞれの役割を果たし、その後はいつも通り二人だけの休憩を取る。

 そんな時間の最中、リロウが全力で高らかにした宣言は、理由もタイミングもちょっとどうかと思うものだった。

 結構な脱力感に襲われながらも溜息を紅茶で喉の奥に流し込み、目の前で両手を胸の前で組みながら恍惚とした表情で斜め上に視線を飛ばしているリロウへ視線を送りながら、思わずにはいられないのだ。今後のことを。

 考えると頭が痛くなる要素しか思い浮かばないのだが、それでも今逃げたとしてもいずれは逃げきれなくなる問題だと諦め、静かにカップをソーサに戻し、重くなっている口を開く。

 いまだに、恍惚の世界に旅立っているリロウに向かって。


「・・・休暇が終わって、数ヶ月後には僕達も最終学年になるよね」

「そう・・・、ですわね・・・」

「最終学年の一年が終われば、僕達もいよいよ成人としての責務を果たすことになるよ」

「えぇ・・・、あぁ・・・、成人したアーネスト様も素晴らしいボディーで・・・」

「・・・あのね、そうなると僕達もいよいよ結婚という形になっていくわけだし、今みたいなお茶会を自由に開くような時間もなくなっていくとは思うんだけど・・・、その辺りのことは分かっている・・・、よね?」

「まぁ・・・、嫌ですわ、ライ。そのくらいのこと、ちゃんと分かっておりますわよ」


 自由を満喫しているとしか思えないリロウに、その自由は残り一年と少ししかない時間なのだと突きつけてみたのだが、リロウは飛ばしていた視線を僕に戻すと、意外なほどあっさりとその事実を肯定してくる。

 てっきり、今の自由の喪失を思って嘆くかと思ったのだが、あまりにもあっさり肯定されてしまうとそれはそれで気になってしまって・・・、つい、念押しのように聞いてしまう。「本当はずっと学園での生活が続いてほしいんじゃないの?」と。

 するとリロウは一瞬瞳を大きく見開いた後、すぐに朗らかな笑みを浮かべてその口を開く。


「あら? 私、そんな子供っぽい我儘を言うような女に見えまして?」

「いやっ、そういうわけでは・・・、ただ、お茶会をとても楽しんでいる様子だったから。勿論、成人してもお茶会なんて何度も出ることになるだろうけど、今みたいな自由な感じではなくなるだろうし、だから・・・」

「確かに社交会に出た後のお茶会は色々思惑もあるでしょうから、自由ではなくなりますわね。その点は残念ですけど、でも、成人すれば成人したで、良いことだってありますわ」

「たとえば?」

「私も公爵家の娘、それに王族の婚約者ですわ。常に素晴らしい国づくりに貢献したいという気持ちがありましてよ。その国作りに励めるようになるのですから、素敵なことではありませんか」

「そう、なんだ・・・、えっと、たとえばどんな国づくりを目指していきたいとか、そういうことも考えているの?」

「勿論ですわ!」


 ・・・後々思ったのだが、たぶん、僕はここでこの話題を止めるべきだったのだ。

 それなのにリロウが僕の将来の伴侶として立派になっている様が嬉しくて、なんだかリロウと出会ってからの全ての心労が報われた気がして、つい、それ以上の気持ちを求めてしまって。

 きっと、人はこうして欲を出した時に、痛い目を見るようになっているのだろう。


「私、必ずや女体により良い国を作ってみせます!」


 女体に理解のあるライと私なら、必ず実現できますわ! ・・・と続いた叫びに、僕の意識は瞬間的に国外にまで飛び出したような気がする。

 そしてそこで、僕はたぶん、意識だけで国を外から見つめながら呟いていたのだ。


『せめて女性により良い国づくりって言ってもらえないかな? それなら大いに賛成出来るから』と。


 しかし現実にはその呟きは意識が体を離れていたので零すことができず、代わりに意識が体に戻って来てから発した問いは、なんと言うか、自分でも思ってもみなかったそれで。

 それは、自覚はしていなくても心のどこかで心配していた内容だったのかもしれない。


「一応、確認なんだけど・・・、僕と結婚したら子供を生んでくれる気とかはあるの?」


 口にされたその問いを自分の耳で聞いて、初めて自覚した心配事は、自覚してみると結構な不安要素な気がした。リロウの態度を見ていると、僕と結婚する自覚はあっても、夫婦になるという自覚があるようには思えなくて・・・、その自覚がないと、王族としても、そしてそれ以上に僕個人として困るのだ。

 ただ、僕個人としてどう困るのかを今すぐに口にできるほど恥じらいがないわけではない僕は、王族として困る部分を全面に押し出して問いかけてしまったわけで。

 リロウは勿論、そんな僕の問いが少々逃げ腰になりながら向けれたものだとは気づきもせずに、朗らかに、高らかに返事をしてくれた。

 本当に・・・、なんの憂いもない、清々しいほど晴れやかで力強い返事を。


「勿論ありますわ! お任せくださいませ! 私に似た、ボンキュッボンの女の子を沢山生んでみせますわ!」

「・・・いや、最低、一人は男の子を生んでもらわないと困るんだけど」


 聞こえたそれに条件反射のように突っ込みを入れながら、激しくなる頭痛にそれ以上の口を開くことができなくなってしまった。

 一応、現行の王族法では王位は男子しか継承できないことになっているので、リロウの宣言通りの状態になったら困るのだ。だから突っ込みとしてはまぁ、正しいといえば正しいのだが・・・、それでも頭痛のあまり口は開くことができなかったが、内心では『もう王族法を改定して、女性でも王位継承が可能にした方が現実的な解決方法なのかもしれない』と思ってしまう。

 それがどれほど困難なことでも、たぶん、リロウの決意を変えるよりは楽な解決方法な気がしてしかたがなかったし、全てのリロウ関係の根本的な問題の解決は間違いなく不可能なので、今から法令改定に向けて努力をした方が建設的な気がしたから。


「楽しみですわね、ライ」


 リロウは、一ミリの曇りもない笑みでそう朗らかに告げる。

 キラキラと輝く瞳も笑みも、計算ひとつなく無邪気で、とてもその楽しみが具体的にどんな内容なのか、その笑みだけでは想像もつかないだろう。

 でも、僕はきちんと知っている。知っているけれど・・・、あの幼い日から今日まで、この笑みが何を指しているのか承知の上で、どうしてもこの無邪気さから目が離せない自分がいて。


 ──どうしても、リロウが好きだなと思う自分がいて。


 リロウのどこが好きかと聞かれれば、このキラキラした瞳と無邪気な笑みが好きなのだと答えるしかない。この瞳で自分の欲望を楽しげに、嬉しげに話す様が、なんだか堪らなく可愛らしいと思えるようになってしまったのだから。

 つまり、一番の問題は、リロウの趣味嗜好そのものではなく、今のリロウの姿を可愛いと思ってしまう、僕自身の趣味嗜好の方なのだろう。


 自分が生涯抱えるしかない解決しない問題を今日も改めて認識しつつ、純真なほど輝くリロウの笑顔を見つめながら、彼女が朗らかに語る邪な話を聞き続けるのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々に酷い小説を見た。(褒め言葉)
[一言] とても楽しく読ませていただきました! 『女体によりよい国』…私も移住したいです…入国審査で「……申し訳ありませんが色々手遅れですので」と断られそうですが(T_T) 遠い空からこの国とライナス…
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