③
「ライナス殿下、クロエは本当に素晴らしい子なんです! 俺ではその素晴らしさを上手く伝えきれていなかったと思うので、是非、クロエと直接話してもらえれば・・・」
「ドゥー! そんな恥ずかしいこと言わないで! 私はただ、普通のことを言っているだけなんだから!」
「そんなことはありません。貴女は我々が気づかないでいた大切なことを、いくつも教えてくださいます。貴女にとってはそれが普通のことでも、我々にしてみればそれは神からの啓示に等しいほど偉大なことなのですよ」
「ヨーダも、そんな大袈裟なことライナス様の前で言わないで! 恥ずかしいじゃない!」
「そうやって偉大なことを言っているのに照れる、キミの奥ゆかしさがまた素敵なんだよ」
「確かにそうだな。でも、クロエ、キミはもう少し自分に自信を持っていい。僕やドゥータ、他にも名だたる人間がキミの素晴らしさを認めているんだ。もっと胸を張って、堂々としていていいんだよ」
「でも・・・、恥ずかしいわ。そんなに自信を持てるほど、私、立派でも強くもないの。ただのか弱い女の子なんだもん」
「クロエ・・・!」
「キミって人は・・・!」
・・・頼むから、どこかに行ってやってくれないかな、その寸劇。
そんな感想がはっきり顔にも浮かんでいたと思うのに、自分達の寸劇に夢中の三人組は全くそれに気づかず、ひたすら鬱陶しく目の前で絡んでいた。しかも彼らを無視して置いて立ち去ろうにも、それができないように通路のど真ん中を陣取って。
カイと話し合いを持ち、今後の方針を決めたあの日から二週間ほど経った頃から、全ては他人事ではなくなってしまった。
相変わらずクロエの自慢が垂れ流されていたがそれらを全て聞き流していたら、僕にクロエの魅力を伝えきれていないのは自分達の語彙の所為だと思ったらしい馬鹿者達が、クロエ本人を伴って僕のところに出没し始めるようになってしまったのだ。
クロエの素晴らしさが伝わらないのは、少なくとも貴族社会を学ぶこの学園において素晴らしい点が一つもないからだし、それなのに口では否定しながらもドゥータやヨーダの褒め称える言葉を聞いて満面の笑みを浮かべているクロエの勘違いぶりは目の前で見せられると呆れを通り越して嫌悪感すら生まれそうになる。
勿論、この場所では褒めるべきところはないのにクロエに心酔している二人の様子にも呆れと諦めを感じるし、なにより身分も違い、婚約者もいるのに他の女性に愛称を呼ばれて平然としているドゥータも、クロエより二つも年上なのに呼び捨てで呼ばれてさも当然かのような態度を取るヨーダにも、完全に失望するしかない。
名前で呼ぶことを許してもいない僕を勝手に名前で呼ぶことにも、そのことを全く咎めないでいることにも信じがたい思いしかないし、三人ともやっぱり『ないな』としか思えない。
というか、か弱い女性は自分で自分のことをか弱い女の子だなんて厚かましく言ったりしないだろう。
クロエの照れと謙虚・・・、だと思っているらしい言動に感激している二人の大袈裟な様子と、そんな二人の様子に満足しているのが見え見えなクロエの様子に、完全に色んな意味で白けていた。
この場に自分がいる必要性を微塵も感じないので、いっそUターンして通路を引き返してしまおうかと思ったほどだ。それなら、目の前で通路を塞いでいる三人を退かす必要もないのだし。
問題があるクロエのことは避けていたので、その様子を目の前で見せつけられるのは初めてだったのだが、実際にこうして巻き込まれてみると、カイがあれだけ消耗していたその気持ちが痛いほど分かった。
ただ単にクロエが貴族社会のことが分かっていない、分かる気もなさそうなこの場にそぐわない人間であるだけではなく、あからさまに男に媚びる、しかも複数の男にチヤホヤされて喜ぶようなその言動がこちらを疲れさせるし、呆れさせるのだ。
勿論、そのあからさまな態度に全く気づかずに馬鹿な発言をしている男の方により一層呆れているし、失望しているのだが。
こいつらは本当にこんなに馬鹿だったんだな、と改めてその愚かしさを思い知り、今まで一緒にいた一年間が無駄になったかのような疲れを感じながら耐えること数分、一向に終わりそうにない茶番と押し付けられる好意に耐え続けることに限界を迎えた僕は、結局、引き止める声を適当に受け流してUターンしてその場を去った。
・・・のだが、その場を去ったくらいでは事態は解決せず、むしろその僕の行動が彼らに火でもつけたのか、それまで以上に鬱陶しいほどクロエの話をされ、また呼んでもいないのにことあるごとにクロエを伴って僕の元に来るようになったのだ。
ちなみに、その間に何度も僕の名前を呼び、気を抜くと勝手に腕に絡みついてきそうになるクロエのその魔の手を避けつつ僕の名前を呼ばないように注意をし続けているのだが、クロエは元より、他の二人も全く僕の主張を聞き入れることはなくて。
「どうしてそんな冷たいこと言うんですかぁ! 私はただ、皆と仲良くしたいだけなのに・・・」
注意する度に瞳を潤ませて、両手を胸の前で組み、上目遣いに訴えてくるあからさますぎる態度に僕は白けていたし、辟易していたのだけれど、彼女を連れてくる信奉者と化した男どもは非情な悪人を責め立てるが如く僕を非難し、とにかく煩かった。
正直、今すぐにでも側近候補失格の烙印を押して遠ざけてしまいたいという気持ちで一杯だったのだが、一年は我慢しようとカイにも言った手前、それも出来ずにくだらない茶番に何度も付き合わされる羽目になる。
そうして謎の茶番を何度も付き合わされてまず思ったのは、コイツらは婚約者がいる身で一人の少女と必要以上に親しくしている現状をどう思っているのだろうか、ということだ。
ドゥータとヨーダの二人共がクロエと一緒にいても、二人がクロエを巡って険悪になっているような様子はないし、それは他のクロエを褒め称えている男達にしても同じ状態のようだった。
多少張り合っていたり、クロエに他の男より自分の良さをアピールしたりという行動が見られる者もいたが、それでもたとえば相手を蹴落として自分だけがクロエの傍にいられるようにと行動している者はいないようで、それはつまり、通常の、いわゆる恋愛感情とは多少異なる、それこそ本当に心酔が強い状態だからこそ、婚約者に後ろ暗さを感じていないのかもしれないが・・・、それにしたって他の女性を追いかけ回して常にその傍に侍っている自分の姿を客観的に見て、おかしいと思わないのだとしたら、完全にそれ自体がおかしいとしか言えないだろう。
もっとおかしいのは、クロエに侍る男を自主的に増やそうとしている点だ。本当に、神に対する信仰でも布教しているのかと思うほどの熱心さで勧めてくるのだが、その勧められている当人はどう見ても女としての自分を売り出しているとしか思えない。つまり、男を侍らすことで自己顕示欲を示す、低俗な存在にしか思えないのだ。
その低俗さに従属している馬鹿達の神経が本当に信じられない。何を考えているのか、何も考えていないのか・・・、どちらにしても、もう完全に今年いっぱいで見放すことが決定になっていくだけだった。
ただ、決定になっているけれどその決定を本人に下すまでは我慢せざるをえなくて。
「ライナスさまぁー!」
手を大きく振り、満面の笑みを浮かべてこちらに突進してくるクロエと、そのクロエに付き従っているドゥータとヨーダ。
最近、かなり生徒会の仕事も滞りがちになっているのだが、それを気にしている様子は微塵もない。その滞っている仕事を速やかに片す、他のメンバーの優秀さが際立っているので、彼らが本当の側近候補だな、という認識をその度に新たにしているだけなので、もうそれはそれで構わないという心境になってきてはいるのだが。
またもや廊下を一人で歩いているところを見つかってしまい、すぐさま方向転換しようとしたのにそこだけ学習したかのように僕の後ろにドゥータ、前にクロエ、クロエの横にヨーダという、完全に僕を逃す気のない布陣を引かれてしまい、もうそれだけで全ての気力が失われそうなほど疲れてしまう。
しかしそんな疲れを考慮しない、というより拍車をかけることしかしないクロエは何を思ったのかその両手を伸ばして僕の手を勝手に取ろうとして・・・。
「ダイナモン嬢、何度も言っているのだけれど、許可してもいないのに勝手に名前を呼んだり、婚約者でもないのにみだりに触れようとしないでくれないかい?」
「そんなっ! どうしてライナス様はそんな冷たいことを仰るのですか? 同じ学生同士なのですから名前で呼ぶくらいべつにいいじゃないですか! それにお友達になるのに、こんなに距離があったら駄目だと思います! 手を取り合って仲良くしないと、お互いのことが分からないですよ!」
「・・・僕はキミと友達になる予定はないよ。とにかく、離れてくれるかい?」
「酷いっ! ライナス様!」
「だから・・・」
「ライナス殿下! クロエがこう言っているのですよ?! どうしてそう、頑ななのですか!」
「ドゥータの言う通りです。殿下はもう少し、他人の意見を聞くべきですよ」
側近候補のくせに僕の意見を全く聞かないお前達にそんなこと言われる筋合いなんてない! ・・・という渾身の突っ込みを飲み込んだのは、言っても理解しないだろう言葉を言って疲れたくなかったことと、もうコイツらに側近候補だと告げたくないという素直な心情の結果だった。
しかしどうあってもクロエと手なんて取り合いたくないので、ドゥータにぶつかる勢いで後ろに下がり、言葉だけではなく、態度でも拒絶をはっきり示す。
流石にそこまで示されては強引に手を取ることができないのか、クロエが不服そうに唇を突き出して見せるのだが、そんな醜悪なもの見せられてもただ不快なだけだ。
ただ、クロエのその姿に不快を感じるのはこの場において僕だけのようで、ドゥータとヨーダはそのクロエの様子を堪らなく可愛いと言わんばかりに笑みを浮かべ、蕩けそうな眼差しを注いでいる。
・・・ここはハーレムか何かなのか?
そういえば、巷で人気の小説にそういうものがあったな、とどこか遠い意識で思う。一人の女性に複数の男が侍っているという小説が少女達の間で人気で、それを逆ハーレムと呼ぶのだと教えてきたのは、いったい何故、巷の流行りに詳しいのか謎なリロウだ。
「どうして女性が男性を侍らすのか、意味が分かりませんわ。侍っていただくなら女性でしょう? 凹凸のない男性に侍ってもらって、ないが嬉しいんですの?」と大真面目にその流行りに異議を唱えていたが、僕に唱えられても困るということと、その異議はどうなんだという二つの疑問に苛まれた記憶は比較的新しい。
ただ、その時はまさか実際にその流行を現実のものとして目の当たりにするとは思ってもみなかったし、こうして実際に目の当たりにすると、その醜悪さに僕ですら流行りに異議を唱えたくなる感じではあるのだが。
勿論、盛り上がっている三人は僕の気持ちに気づかない。気づかないまま、とにかく男二人はクロエへの賛美を飽きることなく続けていく。それが他の女性、一番自分達の身近にいる、彼らが一番大切にしなくてはいけないはずの女性を貶めてまでも続けられてしまって。
「ライナス殿下、そうやって頑ななまでにクロエの話を聞かないだなんて、まるでアーネストのようになってしまいますよ? 彼女も本当に私の婚約者であるのが恥ずかしいくらい、他人の話を聞かないというか、クロエの素晴らしさを認めないというか・・・、きっと、クロエの素晴らしさを認めて自分の足りなさを自覚するのが嫌なのでしょうが」
「あー・・・、それ、俺の婚約者殿もだぜ。素直にクロエを認めて自分の足りないところを自覚して直していこうって気持ちがあればまだマシなのに、それすらないから救いようがないよな」
「・・・」
「そう、そうなのですよ。クロエのような素晴らしい女性は他にいません。だからクロエより足りないところがあるなんて仕方がないというか、他の女性皆がそうなのだから、べつにそこまで意固地になる必要なんてないんです。今からクロエを見習って改善していけばいいだけなのに・・・」
「せっかくクロエっていう素晴らしいお手本に会えたのに、その幸運を喜ばないところに性格の悪さが滲み出ているよな。クロエとは大違いだ」
「ヨーダ! ドゥ! 言い過ぎよ! 私なんてただのしがない男爵令嬢で、二人の婚約者は立派な公爵令嬢と伯爵令嬢じゃない!」
「爵位なんて関係ないよ、キミの素晴らしさはキミだけのものだ」
「そうそう、いくら爵位が高くたって、俺達の婚約者みたいに性格が悪くて素直に自分の悪い点を認められないなら、意味ないからな」
・・・そうだな、本当に爵位は関係ないな、爵位と関係なく馬鹿は馬鹿だし、そもそもクロエの方に至っては男爵令嬢になる努力すら放棄しているに等しいものな、という呟きが胸の内だけで零れた。勿論、そんな声なき声なんて自分達の世界に入っている三人には聞こえるわけもないのだが。
しかしその頃には本当にもう表情を取り繕えないほどにうんざりしていたし、不愉快なのでその場を早く離脱したくて仕方がなかったのだが、自分達の世界に入り込んでいるわりにはこちらを逃す気は全くないのか、一向に僕を取り囲む輪が崩れる気配がない。
そうして優雅さには欠けるが、もういっそ誰かを押し退けて出ていこうかとまで思い始めた頃、ただでさえ自分達の婚約者を貶めるという不愉快な発言を繰り返していた三人は、もっと不愉快な話をし始める。
それが僕を不愉快にさせるだなんて、微塵も思っていないらしいごく普通の口調で。
「そういえばぁ、ライナス様も婚約者様がいらっしゃるんですよね?」
「・・・」
「殿下の婚約者は、エンバー公爵家のリロウ嬢さ」
「やっぱり、ライナス様の婚約者様は立派なお家の方なんですね。どんな方です? ライナス様の婚約者ですもの、きっとお美しくて素晴らしい人なんでしょうね?」
「・・・」
「ねぇ、ライナス様、どんな方なんです?」
「・・・キミには関係ないことだと思うけど? 僕の婚約者のことなんて」
「えー! どうしてそういう冷たいことばっかり言うんですかぁ! お互いのこと、色々と話すのが素敵な関係の第一歩ですよ!」
「だから・・・」
「キミには言いづらいことなんだよ、クロエ」
「そうですよ、私達の婚約者もそうですが、貴女のような素晴らしい女性と自らを見比べて、素直に自分の足りなさを認めるような、そんな謙虚さが足りない人ですからね」
咄嗟に開きかけた口を頬の内側の肉を噛むことで耐えたのは、開いてしまったら最後、どんなに正当な理由があろうと王族として認められないだろう罵詈雑言が出てしまいそうだったからだ。
自分の婚約者を不当に貶すだけでも許しがたいことだというのに、他人の婚約者を貶すなんて到底、許されることじゃない。
ましてや王族の婚約者を貶すなんて正気の沙汰ではないのに、それをさも、当然のように、なんなら僕が言い出せないことを親切で代わりに口にしてやっているのだと言わんばかりの態度で貶し始めたのだから、どれだけ自制心を鍛えられていても気を抜けば王族として相応しくない言葉の一つや二つや十や二十くらい、飛び出ても仕方がなかっただろう。
しかしそれを自分の頬の肉を噛むことで耐えたのは、勿論、王族として今まで受けた教育の賜物だったし、僕自身のプライドが自分がこんな愚かな人間達の前で我を忘れて騒ぎ立てるという無様な姿を晒すことを許さなかったからだ。
ただ、あまりにも感情の波が高かった所為で、その気持ちを抑えるのに精一杯になり、結果としてそこから続く三人の不愉快極まりない会話を止めることができなかった。
もう少し僕に心のゆとりを持てるだけの力があれば、会話が続く前に止めることもできただろう。でも、できなかった。できなかったから、それまでとは比較にならない不愉快を覚える羽目になる。
「確かに容姿だけ見えれば美しいですが、その美しさも毒花かなにかのように毒々しくて、貴女のような可憐さや清楚さは全くないですね」
「あー、あの赤一色なのが目に痛いんだよな」
「赤・・・、あぁ、あの人! 見たことある、真っ赤な子。でも、凄い華やかだったよ」
「あれは華やかを通り越して目に痛いというのです」
「そうそう。まぁ、スタイルはいいけど・・・」
「何を言うのです、下品ですよ、彼女のスタイルは。もう少し慎みがあるべきです」
「確かに! あれは出過ぎかもな!」
「ちょっと! あんなスタイルの良い子に、そんな言い方はないよ!」
「いや、だからそのスタイルが問題なんだって」
「ドゥ! こら!」
「あははっ!」
「まぁ、外見だけなら生まれつきのものもあるのでしょうから、ある程度仕方がないとしても、問題は彼女の内面ですよ。彼女はね、いつも周りに取り巻きを引き連れ、常に傲慢、不遜そのもので、嫌な貴族の典型のような人なのです」
「そうそう、しかもライナス殿下にちっとも関心がない、婚約者としてありえない態度なんだよな」
「そっ、そうなの?! 自分の婚約者なのに、どうして・・・」
「自分を褒め称える取り巻きの言葉以外興味がないんですよ。生徒会の手伝いをするでもなく、毎日毎日、取り巻き連中と一緒にお茶だのお喋りだのばかりして・・・」
「そんな・・・、それじゃあライナス様が可哀想・・・。あっ、でも、きっとライナス様のこと、もっと大事にしてあげてくださいってお願いしたら分かってくれるんじゃないかな?」
「クロエは本当に優しい人ですね」
「本当だよ、リロウ嬢にも俺らの婚約者にも、少しでもクロエのような優しさがあればなぁ・・・」
「ドゥは大袈裟だよ! でも、私、そのリロウ様ともドゥ達の婚約者の人達とも、仲良くしたいな」
「そうなんですか?」
「べつに、アイツらと仲良くなんてならなくても・・・」
「だって、仲良くなって、お願いしたいんだもの。もっと婚約者を大事にしてあげてくださいって」
「クロエ・・・」
「オマエ、本当に・・・」
・・・本当に、続く会話を遮れないほど感情を制御できないでいた、自分の未熟さが腹立たしかった。ほとんど口も利いたことがないくせに、リロウに対して途轍もなく失礼なことを言いたい放題している馬鹿男二人も、物凄く余計なお世話な提案をしてくる馬鹿女にも、あと少しで手が出そうで。
いや、もしかすると馬鹿女の方の提案は、アーネスト嬢達にとっては迷惑でも、リロウにとっては有難いものになるのかもしれない。彼女ならクロエがどんな失礼で馬鹿な発言をしていても、その容姿の愛らしさや肌の滑らかさにしか目が向かずに気にならない可能性が高いし、全てを聞き流して見たいところだけ見て大喜びするに違いない。
でも、たとえリロウが喜ぶのだとしても、僕はクロエにリロウと親しくなんてしてほしくなかった。リロウが気にしないのだとしても、リロウに対してこんな失礼な言動ばかり繰り返す人間に近づいてほしくなんてない。
だから、どうにか王族としての態度をぎりぎり保って口にする言葉は、もう決まっていた。
「僕はキミ達にリロウと親しくしてもらいたいなんて思っていないよ。近づいてすらほしくない」
腹に力を込め、冷静な態度を崩さないように、口調が荒れてしまわないように気をつけて口にしたその台詞は、あまりに感情を抑えすぎた所為か、一切の感情が欠落したような、冷たく抑揚がないものになっていた。
こちらの様子なんて気にも留めずに好き勝手な発言を繰り返していた馬鹿三人だったが、流石に僕のその声には察するものがあったのか、ぴたりと続いていた馬鹿な会話が止まる。
三人ともが馬鹿みたいに口を開けたまま、目を丸くして僕を見つめてきたが、そんな馬鹿な姿を晒す馬鹿にこれ以上付き合う気はない。
もしこれ以上付き合ってしまったら、それこそ王族として許されない暴言を吐き出すどころか、手まで出てしまう可能性が高く、それは絶対に許されないと分かっているが故の、ギリギリの自制心が感情を欠落させていた。勿論、そんな考えれば分かることすら、目の前の馬鹿達には分からないのだろうが。
そうして目を見開いて固まっている三人を残して、僕は踵を返す。真後ろで僕を逃さないように突っ立っていたドゥータを冷たい一瞥を投げつけるのと同時に腕で払い除け、その場を歩き去った。
最初からこうして去ってしまっていればよかったと、腹立たしい言葉を最後まで聞いてしまったことに対する後悔をしながら。




