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純真に輝く邪な彼女に関する、解決し難い抗えない問題について  作者: 東東
【3章】彼が理解するには彼女はあまりに裏表なく難解で
12/24

 彼女のは大輪の赤薔薇と評されていた。

 つまりその表現が相応しいほど、美しく成長した・・・、ことには何の異論もないのだが。


「・・・素晴らしいですわ」

「・・・否定はしないけど、それを自分で言うのはどうかと思うよ」


 何というか、異論はないのだが異論がなければそれでいいという問題でもなく。


 その日、僕がエンバー公爵家に足を運んだのは、彼女に学園入学前に是非、見てもらいたいものがあるのだと訴えられたからだった。

 王城での王子妃教育が終わった後に目を輝かせて頼まれた際、もうその輝きだけで何かを察せずにはいられなかったのは事実だが、同時に、僕と二人っきりでいる庭の定位置、何度もお茶会を開いているテーブルで満面の笑みを向けられたら、そのお願いを拒否することなんてできるわけもなく・・・、最初から結果が分かっている戦いに早々に白旗を振って、翌日、屋敷を尋ねる約束をしたのだった。

 婚約者と親しくすることは素晴らしいこと、ましてやあの二人は貴族同士の婚約では類を見ないほど仲睦まじく、特に王子は自分の婚約者殿にもう何年も夢中らしい、というすでに否定する気も弁解する気もなくなっている噂がある僕なので、エンバー公爵家を尋ねることはたとえ先触れがなくても歓迎されている。・・・苦労をし続けているエンバー家の公爵夫妻や使用人以外には。

 もし本当に先触れを出さないで屋敷に突撃すれば、いまだにリロウのあの言動がバレていないと信じていて、バレないうちにリロウの言動が成長とともに改善してくれていると信じようとしている公爵家の面々を心労のあまり倒れさせてしまうと分かっている為、誘われた当日そのまま来てくれてもよいと語るリロウにわざわざ翌日を指定したのだ。

 そうしてきちんと先触れを出し、相手が心の準備ができるように配慮しながら訪れたエンバー家でいつも通り、少々顔色が悪かったり引き攣っていたりする面々に出迎えられつつ通されたのは、応接室でも談話室でも図書室でも庭でもなく、リロウの私室で。

 幼い頃には何度か訪れたことがあるが、しかし成長するに従って、たとえ婚約者同士とはいえ、男女二人っきりで私室に籠るのは良くないと判断し、もう数年は訪れていなかった私室。

 まぁ、侍女等の第三者がいればそれほど神経質になることはないとは思うのだが、しかし侍女に聞こえては拙い会話ばかりが乱れ飛ぶので二人でいる時はなるべく侍女も護衛も近くに寄せ付けないようにするしかない身としては、疾しいことがなくても遠慮せざるをえない場所だったのに、その私室に数年ぶりに足を踏み入れることになったのだ。

 中に入ると、そこまで案内してきた侍女は何年もリロウと会う時は遠ざけていたので、分かっていたように部屋の中には入って来ない。ただ、何か異変があればすぐに気づけるよう、扉は完全には締め切られなかった。

 これは勿論、年頃の令嬢を世話する侍女として正しい態度であり、僕が王族であろうと誰であろうと関係ない。だから当然のこととして受け止め、室内にいるはずのリロウを視線で探して・・・、部屋の端、大きな姿見の前に佇む彼女を見つけた途端、驚きで一瞬、固まってしまう。


「お呼びだてして申し訳ありません。でも、どうしても入学前にご覧にいれたかったのですの。ライ、いかがです?」

「・・・うん、よく似合っているよ。素敵だね」

「ふふ、ありがとうございます」


 リロウは、来週から通うことになっている学園の制服姿でそこに佇んでいた。にっこりと笑みを浮かべ、くるりと軽やかに一回転までしてくれたので、スカートの裾が軽やかに広がり、それはもう、本当に大輪の赤薔薇に相応しい華やかさで、文句のつけようがない美しさだった。

 来週から通う学園は、十五歳を迎えた次の年の春から貴族が必ず通うことになっている学園で、最低でも三年は通うことになる。

 何故最低でも、という曖昧な表現なのかといえば、一定基準を満たさない成績やあまりに悪い生活態度などをしていれば容赦無く留年となるからで、きちんと毎年進学していれば三年間で卒業できるところを、ごく稀に何をやらかしたのかは知らないが倍近くかかって卒業する者までいるらしいのだ。

 貴族としての地位に関係なく、それくらい厳しい評価を下すその学園は貴族として立派な振る舞いができるように成長する為の学園で、そこで立派な貴族になれるという太鼓判をもらわなくては実際の貴族社会、社交の場に出ることが許されないということになる。

 そしてそんな学園に来週から自分達も通うわけで・・・、六歳で出会ってから十五歳になるまでに九年間、本当に色々なことがあったと最近、つい過去を振り返る機会も多くなっていたが、今日は過去を振り返るのではなく、未来を見つめようと前向きな気分になれるくらい、制服姿のリロウは新鮮で、確かに大輪の赤薔薇だが、いつもとは違い、初々しさがあるような、朝露に濡れた赤薔薇のような印象があった。


 白いブラウスに繊細な刺繍が施された襟や袖を持つ紺色のブレザー、大振りのひだがついたチェックのスカート。


 一見、シンプルな制服だが、スカートの後ろはひだが途切れ、細かなフリルの白い布で覆われていたり、ブラウスの襟の下から通されたスカーフが胸元で愛らしいリボンの形に結ばれていて、おまけにそのリボンはリロウによく似合う赤だった。

 足元は黒のタイツのようなものを履き、エナメルの学園指定の靴を履いていて、普段、ドレスで足元はほとんど覆われているだけに、素足でなくてもその細いのに女性らしい曲線を描く足にはドキッとせずにはいられない。

 普段、ドレスという装飾が多い格好をしているからこそ、一層、制服のシンプルさが少女らしさを強調するようで心惹かれずにはいられないのだ。

 確かに、こんな新鮮な格好をしていれば学園入学より先に見せてたいと思っても当然かもしれないな、なんて思わず見惚れながらそう納得していたのだが・・・、そんな納得の仕方をするなんて九年も婚約しておいてあまりにも愚かだったのかもしれない。

 リロウは近づいて来た僕の前で一度綺麗に礼をしてから、ゆっくりと鏡に向き直り、それから自分の体を自分の両手で掻き抱いて、もうすでに結構な勢いで見慣れてしまった恍惚の表情を浮かべて口を開いたのだ。


「ご覧くださいませ・・・、この、制服がはち切れんばかりの膨らみを・・・」

「・・・リー?」

「ライに是非一番に、このぱんぱんに膨らみが詰まっている様をご覧に入れたかったのです・・・」

「えっと・・・、僕に一番に、と言ってくれるのは婚約者としてはありがたいことなのかもしれないけど・・・」

「だって、ライは私の一番理解者ですもの」

「・・・うん、まぁ、理解はしているけど」

「あぁっ! でも亡きお母様の血を引いているのだから大丈夫だとは思っていましたが、これだけのナイスバディに成長するとは! 神は私にも祝福を与えたもうたのですわね!」

「・・・いい加減、神様から不敬罪で天罰が下される予感しかしないんだけど」

「もうっ、恐れ多いことではありますけど、ライが羨ましいですわ! この子と結婚できるだなんて! 変われるものなら私が変わりたいですわっ!」

「・・・この子って言うか、その鏡に映っているのはキミ自身だし、キミとの結婚はどうあってもキミには変われないから、絶対にありえない可能性を口にして身悶えするのを止めてもらいたいんだけど」

「ライ、しかも私、胸だけではありませんのよ。見てくださいませ、お尻もきちんと膨らんでいて、ボンキュボンの見本ですのよっ!」

「・・・あの、腰を揺らしてそこをちょっと突き出すのは淑女として絶対に有り得ないことだから、止めてくれる?」


 リロウは僕の言葉なんて全く聞こえていないようで、ただひたすらに鏡に向かって自分の胸元を凝視している。体を掻き抱いたのは胸元を強調する為だったようで、両腕の上に胸を乗せているような体勢になっているので、リロウの中で理想的に育ったらしい胸が更に強調されていて、だいぶ目のやり場に困る状態になっている。

 もっとも、この類の言動に慣れてしまっている僕がこの程度の状態に動揺することはなく、普通だった目のやり場に困るんだろうな、と第三者的な思考で思うだけなのだが。


 確かに、リロウは美しく、且つ、女性ならば誰もが羨むだろう体型に育った。育って、しまった。


 肌の白さ、艶やかさや顔立ちの美しさは言うまでもなく、細い首からなだらかに続く肩、その方から伸びる華奢な腕は当然として、リロウが今、恍惚状態になって見つめている胸はもう何の誇張も不要なほど膨らみ、それでいて下品なレベルになるほどではなく、上品な膨らみの限界で止まっている。

 更にはそこから続いていく腰はコルセットなんて不要なレベルで細いので、いっそうその胸の豊かさが強調されるし、それだけではなく、はっきり言うが腰から更に続くお尻の部分もリロウ本人が言うように、理想的な曲線を描いているのがスカートの上からでも分かって、確かに出るべきところは出て、引っ込むべきところが引っ込んでいる、素晴らしい体つきにはなっている。

 その体つきを婚約者とはいえ、異性に披露している現状は完全にどうかしているが。

 リロウが自分の世界に入り込み、暫く戻って来そうもなかった為、気がつけば僕も自然と自分の世界に入り込み、これまでの苦難の道のりを振り返っていた。


 九年間・・・、リロウはリロウで色々と頑張り成果を出してきたし、僕は僕で出来る限りの手は打って、ある程度の成果は出してきたのだ。


 まず、リロウは教育係や母上から非のつけようがないがないと言われるほど、王子妃としての勉強に結果を出していた。元々、頭が良い方だし、努力家でもあるので、教えられたことは真綿が水を含むようにどんどん吸収していき、貪欲に学んでいったし、淑女としての所作も他の令嬢の見本になれるほど完璧に身についている。

 ・・・ただ、そうしてリロウが完璧な王子妃としての教育を受けていくのと並行して、僕は僕で自分の勉強等を進めながらも、とにかくリロウの言動をどうにかするべく奮闘していた。

 どれほど優秀だろうと、所作が美しかろうと、あの趣味嗜好がバレてしまえば全ては一貫の終わりだし、それを危惧している公爵家の面々が泡を吹いて天に召されるか、王族にリロウへの許しを請いながら自決してしまうかの二択のどちらかを選びかねない状況の為、とにかく必死で奮闘したのだ。


 奮闘・・・、するしかなかったのだ。だって、あの時の笑みで僕はもう取り返しのつかないほど負けてしまったし、あの石はまだ僕の手にあるのだから。


 だからとにかくリロウに、人前ではあの類の言動をしないようにと何度も重ねて説得し続け、それでも全く効果なく口にされそうになる際にはどうにか周りに気づかれないように誤魔化しつつ、また説得を重ねる日々を続けていた。

 公爵家に行った際には、僕は何も気づいていません、という態度を取り繕いつつ、屋敷内でもあまりアレな言動をしないようにと説得し、露骨な視線をどうにか外させて・・・、それもう、大変な苦労の連続で、今思い出しても自分、よく頑張ったな、と自分の苦労を褒め称えたくなるほどだ。

 そもそもリロウには悪意がない。愛でるべきものを愛でています、自分には恥じるべきところなんてありません、と言わんばかりの堂々とした態度で恥じるべきことをしているので、まずそれが恥じるべきことなのだ、ということを分かってもらわなくてはいけなかった。

 しかし残念ながら、それが恥じるべき言動であることは今に至るまでよく理解できてはいないようだ。おそらく、今後もあまり理解しないだろう。・・・が、理解しないながらも、どうにか僕の努力は九年間の時を経て、ようやく僅かながら実を結んでいたのだ。


 恥じてはいないが、とりあえず人前であの言動をしない、つまり痴女的発言と、痴女的視線を向けない、という実を。


 とにかくそういった言動は他の人間に見られるところですることじゃない、隠して見えないようにしておくのが慎み、淑女として正しい姿だということをもう理解は放っておいてとにかく叩き込んだ結果、一応、リロウの中に恥ずかしくはないが人前には晒さないという行動原理が確立されるようになった。

 但し、実家である公爵家の言動はあまり慎まれていないようではあるが・・・、それでも客がくれば慎むようにはなったので、それだけでも公爵家の面々の負担を減らしてはいるようだ。もう、僕が来ても以前ほど哀れな姿を晒すことはなくなったのだから。

 僕の中ではもう最低限、他人と接する機会が増える、そして僕がフォローできないほど行動範囲が広がる学園入学までにはどうにかしなくてはという思いがあって、その思いが実を結んだのだと内心、ひとまずはホッとしていたところなのだが・・・、自分の世界に入り込み、振り返っていた過去から現在へと視線を向ければ、そこには僕が過去を振り返り始める前と変わらぬ光景が広がっている。

 つまり、我が身を掻き抱いて強調した胸を鏡に晒し、恍惚としたままのリロウの姿が。


 本当に大丈夫なのかな・・・?


 今までの苦労が全く意味を成さないなんてことにならないか、激しく不安になるような光景だった。体を左右に揺らし、腕で抱え上げている胸が揺れる様まで楽しみ出したリロウを見ていると、もう激しく諸々が心配で仕方がなくなる。

 できる限りのことはしてきた。全ては来週からの学園生活に備えてといってもいいくらい、努力に努力を重ねてきた。ただ、今のリロウの姿を見ていると、必死で重ねてきた努力が無駄となり、学園生活一週間、いや、三日くらいでボロでも出ないかと心配で仕方がなくなってしまう。

 周りから、さすが第一王子、素晴らしいと持て囃されるほどあらゆることに結果を出してきた、優秀だという他者の評価を疑う者がいないくらいの結果だと、自分でも自負している。

 そんな僕ですら結果が不安だらかけなのが、リロウに関することで。


 一応、僕に話せばいいんだと解釈しているみたいだから、本当に三日でボロを出したりはしないとは思うけど・・・。


 リロウは九年間に及ぶ僕の努力の結果、確かに他人の前ではそういった言動は控えるべきと学んだようではあるのだが、しかし思いの丈を胸に溜め込むことは難しかったらしい。まぁ、本人としては言ってはいけないことだとは思っていない言葉を飲み込み続けているのだろうから、ストレスは溜まるのだろう。

 その結果、何故か同士と認識しているらしい僕に対して溜め込んだ思いの丈をぶつけるようになってしまい・・・、誰もいない二人っきりの時間、勿論少し離れたところで未婚の男女が二人っきりにならないように見守っている侍女や護衛達に聞こえないように一応は配慮した声量ではあるが、それでも興奮して思いの丈を叫び続けるリロウのアレな発言を九年間専属の係かのように聞き続けたことも、今思えば我ながら凄まじい努力の一部だったように思う。

 ・・・そう、努力だったのだ。僕だってべつにリロウのあの類の発言を好き好んで聞きたいわけではなかったし、同士扱いされても困るし、母上を厭らしい目で見ていますと断言しているリロウがどう厭らしく見ているのかの具体的な内容なんて聞きたくないに決まっている。

 決まってはいるが、しかし正直、それはもう今のところは諦めてもいた。勿論、永遠にこのままでいい、と思っているわけじゃない。いずれは直ってもらいたい・・・、いや、生まれつきの趣味嗜好なのだろうから、直るというよりは考えを改めてほしいということになるのかもしれないが、とにかくアレな発言を慎んでほしいし、それ以前にそういう趣味嗜好から脱却してほしいと願っているし、これからも努力を重ねて、脱却させたいと思っている。まぁ、努力を重ねるのは僕なんだろうけど。

 でも、それも時間をかけていつかはという気長に頑張るしかないと思っているし、だから今のところリロウのあの類のは発言を聞く係になってしまっていることは諦めて受け入れているのだ。


 全ては一番最初の諦めを抱くしかなくなってしまった、あの笑顔が僕の中に変わらずにあるから。


 一生をかけて色々と改めてもらおう、でも一生をかけるのだから、少しずつでいい、まだ改まらないところは僕が受け入れていく、そう諦めているのだが・・・、僕は諦めていても、周りが諦められるとは限らない。というか、諦めるも何もないだろう。高位貴族令嬢、しかも第一王子である僕と婚約しているのに痴女発言がバレたら、諦める、受け入れる、理解するなんて有り得ず、一発アウトになってしまう。

 それでは困るのだ。あの笑顔が変わらずに自分の中にある僕としては。


「リー・・・、もう何百回、何千回言っているか分からないんだけど・・・、お願いだからそういうことは人前でしないようにね。とくに来週からは学園生活が始まって、他人の目も増えるし、それに僕も僕で付き合いとか色々出てくるだろうから、ずっと傍にいてフォローするわけにもいかないんだし・・・」

「あぁ・・・、本当に素敵・・・」

「聞いている? というか、聞いてくれる?」

「・・・え? あぁ、ライ、大丈夫ですわ、聞いていましたとも」

「・・・僕、今なんて言っていた?」

「来週からは学園だと・・・」

「うん」

「他の方が沢山いると・・・」

「・・・? まぁ、そういう話ではあるね」

「つまり沢山の同年代の若々しい膨らみに囲まれる、今までにないパラダイスだと・・・」

「言ってないけどっ?! リー! 本当に分かっている?! そういう発言、学園じゃ絶対駄目なんだからね?!」

「え? えぇ・・・、分かっておりますわ・・・」

「分かっているなら、復唱!」

「学園では・・・」

「学園では?」

「眼福が・・・」

「違う! そういう女性の一部分に関する発言をしないっ、露骨にそこを見ない! もう何年間も言っていることだよ! ほらっ、復唱!」

「えっと・・・、学園では・・・、見つからないようにしっかりこの世の宝を脳裏に焼き付け、滾る思いを胸に秘め、その思いはライに渾身の力でぶつけるのでしたわね・・・」

「・・・べつに僕にぶつけろとは言ってないんだけど・・・、うん、それはもう、諦めたからそれでいいよ。でも、僕の傍に他の人がいる時は絶対に止めてね」

「ライの傍に? それは王妃様レベルの膨らみですの?」

「何故、僕の傍にいる人が女性限定なの? というか、傍に常にキミ以外の女性がいたら問題でしょ」

「私、膨らみに貴賎はないと思っておりますの」

「そういう判断でした発言じゃないんだけど?!」


 ・・・心配だった。本当に、本当に、渾身の力で心配だった。一応、頭の片隅に今までの僕の努力の成果が残ってはいるようなのだが、しかし何かのきっかけで暴走しかけてしまった際、ブレーキが利くのかどうかが限りなく怪しい。

 そもそも学園はそんなリロウの個人的暴走を堪える為だけの場所ではないのに、そんな暴走を抑えることだけに全力を使っていては、学園生活を送る目的が果たせなくなってしまう。

 学園生活では勿論、勉学は必要だし、貴族としての教養を高めることも必要だ。そして貴族としての振る舞いを完璧にして社交界に向かうわけだが、必要なのはそれだけじゃない。

 成績や卒業の基準には関わってこないが、学園生活を送る間には人脈作りが必要になってくる。社交界に出た際に自分や自分の家が有利になるように、もしくは何か困った時に助け合える、信頼できる人間を学園で作っておかなくては卒業できてもそれ以降の社交界でやっていくことはできないのだ。

 一度社交界に出てしまえば、そこは騙し合いの場で、簡単には信頼できる人間を見つけることなんてできないし、信頼関係を築き上げることもなかなか難しい。

 だからこそ、そういった駆け引きがまだない学生時代にしっかりと人脈や信頼できる間柄を作らなくてはいけないのだ。

 ただ、僕は王族なので人脈を作るというより、これから先、支えていこうと思ってもらえるように周りからの信頼を得られるようにすることと、自分を支えてくれる優秀な人材の発掘しなくてはいけないので、他の貴族達とは少し目的が違ってきてしまうのだが・・・、リロウは王族に入る女性として、社交界を牽引していく使命があるので、他の貴族以上に人脈作りが必要になってくるだろう。

 社交界の花は女性達、その女性達の手本、憧れになり、社交界に君臨する為に必要な期間。


 ・・・あの発言さえなければ、手本にも憧れにもなれるんだけど。


 能力資質としては問題ないのに、要らない資質がある所為で不安を覚えずにはいられない。特に、その要らない資質が全開になっている、今のような状況を目の当たりにするとその不安もいっそう煽られるというもので。

 自分の姿にうっとりしているリロウに、ほぼ暗示をかける勢いで何度も今まで言い聞かせてきた全てをもう一度改めて言い聞かせながら、来週からの学園生活に心配のあまり頭痛を覚え・・・。


 しかし実際にその心配すぎる学園生活が始まると、心配していたのとはまた違う状況が生まれてしまったのだ。

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