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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

バケモノ

作者: alma

洋風・和風、どちらを想像しても読めるようにしております。

お好きな雰囲気でお読みください。


誤字脱字ありましたらご連絡頂けましたら幸いです。

昔々、山奥のある池のほとりに、褐色の肌を持ち、やせっぽちな男の子がひとり、釣りをして暮らしておりました。


ある日いつものように池で釣りをしていると、男の子は1人の女の子と出会います。


服をぼろぼろにし、手足はすり傷だらけの女の子は言いました。


「わたくしを助けてください!」


男の子は、その代わり何をくれるの、と問いかけました。


「わたくしに出来ることなら何でもいたしますわ!」


男の子は頷き、女の子を助けることを決めました。


男の子は早速女の子に履物を脱ぐように言い、片方は股引の腰に差し、そしてもう片方を池に投げ入れました。


そして、女の子を近くの頑丈な木に登らせると、静かにしててと言い、そしていつもの釣りの場所へ向かいました。


それからしばらくして、複数の走る足音が聞こえてきました。


女の子は恐怖に震え上がりましたが、男の子を信じ、頑張って息を殺しました。


現われたのは、真っ黒な衣に身を包んだ兵たちでした。その中で一番装飾の目立つ兵が問いかけました。


「そこの者、この辺で少女を見かけなかったか?」


男の子は池の中心を指さしました。


そこには先程投げ入れた履物が浮かんでいます。


「まさか、お主が殺したのか!」


首を振り、来た時には既にあったと言うと、兵は納得したのか来た道を戻っていきました。


兵たちの音が全く聞こえなくなってから、もう降りてきていいよと女の子に声をかけました。


「降りられない……」


と女の子は泣きながら訴えました。


男の子は両手を広げ、おいで、と言いました。


「そんな細い腕じゃ無理だわ!」


と女の子が叫ぶと、男の子は大丈夫といい女の子を促します。


女の子は意を決して飛び降り、女の子はぎゅっと目をつぶりました。


しかしやってきたのは、やわらかな感触でした。


そこにいたのは大きな茶色いクマでした。


女の子が驚いて固まっていると、クマはどんどん小さくなり、そして男の子に戻りました。


「あなた、クマさんだったの?」


男の子は首を横に振りました。


「あ!助けて頂き感謝いたしますわ!」


女の子は男の子にぎゅっとしがみついていたので、まじまじと顔を眺め、ため息のように言葉が零れました。


「あら、あなた。よく見ると素敵な瞳をしておりますのね。まるで透き通る空のようだわ。」


初めて言われた誉め言葉に、男の子は顔を真っ赤にしました。


「ごめんなさい!殿方に触れるだなんて、はしたないわ!」


慌てて女の子が離れると、男の子はとても寂しくなり、しょんぼりしてしまいました。


男の子は意を決し願いを口にしました。


「ずっとそばにいてほしい?いいわ、もう私の足だけではどこにも行くことなんてできませんし。私の方こそお願いしたいわ!」


男の子は大変喜び、女の子を抱き上げ駆け出しました。


二人は男の子が住処にしている山小屋に入ると、女の子をそっと降ろし、そして男の子は小屋の奥へ消えました。


今まで女の子は立派な屋敷で暮らしていたので、物珍しさに部屋をあちこち眺めます。


暫くして男の子は、白い小さな器を二つ持ってきて、一つは女の子に渡しました。器の中はお水が入っていましたが、器が光を反射しているのか、淡い虹色に光っていました。


「きれい……、これを飲めばいいのかしら?」


男の子は頷き、それを一気に飲み干します。


ふと、男の子が持っていた履物の行方が気になりましたが、すぐに意識は手元の器に戻りました。


女の子もそれを飲むと、からだがぽかぽかしてきました。


女の子は男の子見上げると、先ほどよりもきらきらして見えます。


男の子は自分の名前を伝え、女の子の名前を聞きました。


「わたくし、ですか?わたくしの名前は---ですわ。どうぞよしなに。」


「……うん、素敵な名前だ。」


なぜかそれまでぼんやりとしていた聞こえていた男の子の声は、澄み切った春の風のように、とても美しい声になりました。


「これから末永くよろしく、僕の奥さん。」


そう言うと、男の子は女の子を強く抱きしめました。


「え、ええ!奥さん!?」


女の子は驚いたものの、すでに男の子の事が好きになっていたので、すんなり受け入れることができました。




それから二人は、いつまでも仲良く幸せに暮らしました。



















--------------------



















「あっはははははは!面白いね!」


「うるさいわね!!」


「ははは、これを面白いと言わずして何と言うんだい?」


「知らないわよ!」


目の前でお腹を抱えて爆笑する男が私は大っ嫌いだ。


「大好きなお姉さんは隣国で幸せに暮らして、君は大嫌いな僕と結婚して死ぬまでずっと一緒なんだからさ!あー、面白い!」


「ハッ、誰があの女の事を大好きですって?おふざけも大概にして下さいます?」


そう口にするも、目の前の男にはきっと本心はバレているだろう。しかし口だけでもこの男には負けたくはないのだ。


姉の元婚約者、そして今は私の婚約者には。




*




この男はずっと姉に執着していた。それはそれは歪んだ愛を持ちながら。


最初は幼少の頃より眉目秀麗なこの男と婚約した姉が憎かった。


初めて顔を合わせた時、俗にいう一目惚れをしていた。


しかしある時母が病で儚くなり、姉が悲しみに明け暮れていた時、この男は、言葉では姉を慰めていたが、その表情は恍惚とした笑みを浮かべていた。


それを見たのは、本当に偶然であった。


当時私は、二人を見るのが嫌で堪らず逃げていた。しかしその日は、母の事で一人になりたくていつもは行かない場所へ向かってしまった。


姉は顔を手で覆い震えていた。


最初は母の事で泣いていると思っていたが、それにしては様子がおかしかった。そして聞こえてきたのだ。


「かあさま、おいてかないで」


そして手を下ろし見えた姉の顔を私は忘れないだろう。


それから私は姉の周りを調べ始めた。するとどうだろうか、まるで真綿で首を絞めるように、姉はゆっくりと、だけど確実に、感情を殺されていく状況に置かれていた。


私は、姉をいじめるようになった。


姉が勉学をすれば無駄だと言い部屋に閉じ込め、婚約者からの贈り物は似合わないと言い全てを奪い、貴女には勿体無いと食事を下げらせ、婚約者が訪ねてくれば、姉は病気で休んでると言い、私が出向き逢瀬を重ねた。


他人から見ればなんと非道な妹と見えるだろう、しかしそれ以外に姉を守る方法が無かった。家の中も外も、周囲の殆ど全てあの男の味方ばかりであった。


そんな日々を過ごしていくと、それまで無表情だった姉は、次第に穏やかな表情をするようになっていった。


だけどそんな姉の変化を、あの男は見逃す筈はなかった。


結婚式が急遽、数ヶ月後に行われることになった。


まだ先だと思い婚約自体を放置していたのがいけなかった。


様々に妨害し、父にも抗議したものの何も変わることは無かった。


非力な自分がただただ悔しかった。


姉の輿入れの前日の夜、私は姉の部屋へ向かう。


監視はあったが、使用人たちも知らない通路があり、急ぎその道を進んだ。


「姉様。」


「……今日が最後になるわね。今まで、ありがとう。」


「そんな、お礼など!私は姉様に酷い事ばかりしていたのですよ!」


「いいえ、あなたは私の救いよ。こんな姉で、ごめんなさいね。」


そういって姉は悲し気にに微笑んだ。


「そんなこと!……そんなこと、無いのです、私がちゃんと向き合わなかったから……!」


美しく優しい婚約者、優秀だと褒め称える父、姉にだけ構う母。


私には与えられないものだとずっと嘆いていた。


でも実際は、姉を苦しめる婚約者、優秀な駒としか見ず家には帰らない父、父には逆らえず、壊れそうな姉を支えるしかなかった母、だった。


そして姉を更に苦しめていたもの。過度にさせられていた勉学や体罰。婚約者からの贈り物は姉の体に適度に苦痛を与え、体には様々に青痣ができていた。食事には粗末な食材が使用され、また微量に毒も入っていた。婚約者は姉と二人っきりになれば、心無い言葉を浴びせていた。


そんななか、ただ私だけが自由を謳歌していた。不平不満を言い、何もしていなかった。


「姉様、私が姉様になります。もう姉様が犠牲にならなくていいのです。」


顔付きに違いがあるものの、背格好はほぼ同じな私たち。一瞬の入れ替わりならば気付かれないだろう。


「それではあなたが……!」


私は姉をそっと抱きしめた。


「……いいの?」


私はコクリと頷いた。


「隣国で暮らしている遠縁の方がお力になってくださると約束を頂きましたわ。私が嫁いだ後、そちらへ逃げてください。手筈は整っております。」


そして姉と私は衣服を入れ替えた。


今度は姉から私を抱きしめた。力強く、抱きしめ合った。後悔や寂しさ、色々と伝えたいことはあるが、お互いが言葉を発する事は無かった。


そして姉は、私が来た道へ消えていった。




*




「はぁ~あ、笑った笑った。で、君は本当にこの入れ替わりが成功したと思ってるの?」


「は?」


「逆になんでここまでバレずに順調にいったのかおかしいと思わなかった?」


「それは……。」


確かに、幾らなんでもこんなに何も起きないのはおかしい。


「僕はさ、別にどっちでもよかったんだ。君の姉の方が先に生まれていたからそうなっただけ。実に楽しませていただいたよ。まあでも最近そろそろ限界だな、とは思ってたけどね。」


「わ、私の姉こと、一体なんだと思っているのです!!」


「ん?玩具!」


大変嬉しそうに語る男の頬に張り手を食らわせたくはなるも、それでは男の思惑のままと思い堪える。


「この……!ひとでなし!!」


「お誉めの言葉、ありがとう。」


男は微笑んだ。きっとこちらを嘲笑っているのだろうけど、その微笑みに胸が熱くなってしまう自分の心を苦々しく思う。


「ねぇ、君は分かってるの?」


「何よ。」


「今度は君が玩具だってこと。」


「ふん、ある程度は覚悟してきたわ。だけど、私を簡単にねじ伏せられるとお思いなら、勘違いも甚だしいわ。」


「それは大変楽しみだ。是非とも()()()持ってほしいね。」


ああ、本当にこの男は。


「私、あなたの事嫌いよ。」


「それはどうもありがとう♥」


「本当に、大っ嫌い!」


男はふはは、と大変うれしそうに笑った。


本当にこの男は、私の言葉や感情を嬉しそうに食べる。


男もまた私と同じ、愛を与えられなかったが故に、愛に飢えた。姉は普通の人だった。だが男は、それでは足りずもっと求めてしまった。


そしてそれは私も同じ。姉を救って(いじめて)いた事に喜びを感じていた。


「……あなたもわたしも、バケモノね。」


切なげに微笑んだ男は、泣いているように見えた。






お読みいただきありがとうございました。


(2021/08/06)

活動報告にて裏話とその後の話など追加しました。

ご興味ありましたら是非そちらもお読みください。

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