チャンスの神様は前髪しかないってよ
少し歩いて、この村で一番賑わっている(大人の)繁華街に着いた。夜はもう客引きや立ちんぼさん等、大人の香りでえらいこっちゃだが昼は商売の音であふれかえっていて熱気がある。(ただし、どれも品がない)
ここで一番大きな旅館は、意外や意外そこそこ有名だったりする。本当に、こんなどうしようもない村に建っているにも関わらず、確かに立ち並ぶどの店よりも大きく豪華で何より掃除が行き届いている。無理な客引きをする従業員もおらず、大旦那の人柄もわるくない。ただ、とんでもなく高級老舗旅館だから地元人でここで遊べる人はいないということになる。なんとも皮肉な話。
噂によれば、食べてよし飲んでよし買ってよしの三拍子が揃った現世の極楽とのことらしい。男なら一度は行ってみたいと夢見るが、場所が場所だけになぁ……、となるらしい。それでも人足が絶えないのはなぜなのか。この村の七不思議だわ。というよりマジで治安悪いなこの村。早めにあんな旦那とは離婚して抜け出してやる!高級老舗旅館の裏で、ウロウロしている私を男衆が見つけた。いつもの如く無愛想に「どうぞ」と一言。実はここが私のバイト先なのだ。
――――――
高級老舗旅館は「三文字楼」という。三文字楼には豪商や高貴な方もお忍びで来るらしい。そのため、お相手をする遊女にはかなりの教養が要求される。三文字楼の遊女は、数こそそこまで多くはないが、文字の読み書きはもちろんのこと、碁や詩歌、楽器の演奏に至るまで一通りの教育が施されている。また、売れっ子ともなると客層も上がっていくためどんどんいい教育が受けられる。まあ、それだけのチャンスがありつつもそれをものにできる遊女は少ないが……。