雑草鍋でおもてなし
「……ぐえ」
「……うぐぅ」
「……うっ……うおぇえ」
とりあえず、朝ご飯にしよっか。あの首絞め事件の後、そう言って女は台所で料理をはじめた。なぜこれほど切り替えがはやいのか。今さっき、自分に殺されかけてたんだぞ?女を睨むが、へらりと笑うだけだった。このすきに小刀を探そうとしても、大男に取り押さえられ隣に座らされるから、どうやら自分も食べることになっているらしい。
できたよー、と女が鍋を持ってきた。正直、食べ物にありつけるのは有難い。ここ二日ほど水しか口に入れてないし、食べられるなら食べておきたい。そう考えて、鍋の中身を見た。……なんだこの、雑草鍋は。え、見た目はあれだけど?見た目はあれだけど?見た目はあれだけど?美味しいってやつか?夫婦は普通に食べ進めているし、毒は入ってないようだ。……そして。
「ふざけてるの」
「テヘ」
「何をどうしたらここまで……!あなたは淡々と食べてるけど、大丈夫なの?これ」
「……」
「大六はいつも黙って食べてくれるよ」
「まずいものはまずいって言わないと、ずっとこのままだよ」
「……」
「大六はいつも黙って食べてくれるよ」
なんだこれ。今まで食べたものの中で一番不味い。よくこんな物を作ったわね。男は黙って食べてるし女は悪びれてないし、とんでもない食事風景だ。だが、こんなものでも食べておかなければ、次はいつ食べられるかわからないのだから。
――――――
「よく聞け?家はメチャクチャ貧乏です」
「……見ればわかるよ」
「そうだね。見ればわかるよね。だから君も働いてもらうわ」
「はあ」
「それで、今から村を練り歩いて、職探しします」
「へえ」
「おい、真剣に探せよ?」
あの雑草鍋を作った女は、語気を強めて言った。しかしこんな所にいつまでも留まるつもりはないし、無視して小刀を探すことにしよう。
「ちなみに、小刀は見つからない所に隠したよ」
「……」
「家中、村中探してもらってもいいけど無理だと思うよ」
「……それで、どうしたら返してくれるの?」
「話がはやくて助かわー。簡単だよ。働いて100万円稼ぐか、大六を働かせるか。どちらでもいいよ」
「……まって。あの男、働いてないの?」
「その通り」
「何してるの」
「ご近所の包丁を研いでる。無料で」
「……」
「……」
男もやばかったわ。似た者同士だ。