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知性派ゴリラ

「ねえ、絶対に無理だって。人間の子どもだよ?犬や猫じゃないんだよ???」

「大丈夫」

「大丈夫じゃないよ?大六ってば、五日前にカエルまで育てて食うぞ!つって、池ですくってきたオタマジャクシを庭の水たまりにはなって全滅させてたじゃん。死んだオタマジャクシが異臭を放ってカオスだったわ」

「こいつはオタマジャクシじゃなくて人間だろう?」

「だーかーらー!生き物なんて育てられないんだよ!この年頃の子どもなんて、すぐに死んじゃうんだから。生半可な気持ちじゃだめだよ」

「…………」


 現在大六と子どもと、三人で自宅に向かって歩いている。けれど、大六は立ち止まって黙り込んでしまった。ずっと刃物ばっかり研いでいる男だから、預かってみたものの育てられるか不安になっているらしい。子どもがはぐれなようにとつないだ手の、力が抜けていくのがわかった。みことは、もう一押しか?とこの勢いで丸め込もうとした。


「それにさ。……家にはそんな余裕ないよ。二人で生きていくだけでやっとじゃん!」

「……」

「その日暮らし!食うや食わずの毎日でしょ」

「………………おい」

「うわ!な、なに?」


 グワッと大六肩を掴まれた。先程までの落ち込みモードから一転して、力強く目を見開きしっかりと目線を合わせてくる。


「そういや、お前が酒代をつけてもらったのが事のはじまりだろ!」

「やべっ」


 気づかれてしまった!大六は子どもの手を握りなおし、胸を張って歩き出す。


「確かに家は貧乏だが、お前が酒飲む余裕があるなら大丈夫だ」

「……ええー」

「おい、借金どうやって返すつもりだったんだ」

「……」

「まさか、体を売るなんてことは……ないよな?夫に内緒でそんなことしないよな?」

「………………………………………………………」


 今度はみことが目をそらして黙り込む。大六は、自分は働かないくせに、みことにメチャクチャ働かせるくせに、なぜかみことが体を売ることには反対するのだ。こんな掃きだめみたいな村では、夫が妻に枕をさせることはよくあることだ。むしろ妻のほうが、生活のため積極的に体を売って夫はそれを黙認する、といったケースも多数だが。村全域が、性に対して開放的というか緩いというか……とにかくそんな村では、大六は変わり者だった。


「おい、黙るなよ」

「……ヒエ」

「……じゃあ、子どもを引き取るってことでいいよな」

「それとこれとは話が別……」

「あ?」

「すみません。二人で育てましょう」


 みことは涙をこらえて頷くしかない。ふと、そこで気づいたが、今までずっとボソボソ聞こえていた呪詛が途切れていた。あれれ?みことが子どものほうを見ると、子どもは大六と手を繋いで歩いていたと思いきや、大六に手を持って引きずられているのだった。


「大六さんや。子どもがもう歩いていません。いつから引きずってたの?」

「なに?あれいつの間に!?」

「ホンマ怖い……意識ない人間って重いだろ……」

「いやー。メチャクチャ軽いから気づかないって」


 確かに子どもはガリガリでボロボロ。かつの店で出会った時点で、すでに立っているのもやっとだったのかもしれない。見るからに軽そうではあるけども、意識のない人間を引きずっていて気づかなかったって、そうはならんだろ。やっぱり大六はゴリラだわ。


「おんぶして、運んであげたら?」

「わかった」

「は、は?ちょっ!私はいいって!」

「ついでだ。走るからしっかりつかまっとけよ」

「は?……アッハハ!」


 大六は子どもをおんぶする。そのついでに私も小脇に抱えて走り出したのだ。いや、どんだけ力持ちだよ!とツッコミを入れようと思ったが、なんだか面白くなったからそのまま抱えられてあげた。




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