これからは誠実に生きるので勘弁してください
「ヤバいってヤバいってヤバいって!」
先程授業(?)を終えて大旦那に本日の手当てをもらったが、かつへのツケを返すには明らかに足りていなかった。みことは、今日の授業代でツケを返す算段をしていた。しかし、こんな時に限っていつもより半刻早く切り上げることとなる。大旦那が急用とのことで青海波が呼ばれたからだ。その分授業料も引かれるという寸法。アカンやつや。
「どうしよう……」
体中冷や汗が流れ、もういよいよ身体を売るしかないと頭を抱える。授業後に単発で入れるバイトを探したが、運悪くどこも人手が足りていた。こんなことってあるか。日も暮れて昼の仮面を脱ぎ捨てた村は、本来の姿を表した。人間の業の部分が浮き彫りになる、まさに現世の地獄だ。グズグズ突っ立っていると、変な男に値段交渉を持ちかけられるから早めに退散せねばならない。………………退散?
「このまま逃げてしまえばいいのでは………!!!」
私、天才だったの?あんな強欲ババアに金を返せないなんて言ったらどんな恐ろしい目にあうか、子どもでもわかる。さっさと村から出て借金など踏み倒せばいい。大六ともオサラバできるし、まさに最善手。
女一匹一人で盛り上がり、かつの店と反対方向に勢いよく駆け出したところで、
「おや、どこに行くんだい?」
ポンと右肩に手が置かれていた。不自然にも急に周囲の音が静かになる。その手を辿っていくと、今この世で最も会ってはいけない人間がいた。手の持ち主であるかつの形相を見て、阿修羅や……と思っていると突然ギリィ!と肩に手が食い込んでくる。いだあぁぁあ!なぜ考えていることがわかったんだよ。というか凄まじい握力だわ。やっぱりここの人って全員ゴリラなんだね。みことは涙目だった。
「いや、これには訳がありまして」
「言い訳は店で聞くわ。とっとと歩きな」
「ホントマジですみません。いたっ、やめて、蹴らないでください」
蹴るのはやめてくれたが、かつに首根っこをガッチリとつかまれて絶望で胸がいっぱいになった。




